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落胤08:成果

 「荒野の塔」を制覇した俺たちは、街に戻って、冒険者ギルドへ向かった。

 倒した魔物の素材を冒険者ギルドに売り、エリノアに半分渡す。


「それから、エリノアが、所属していたパーティーに見捨てられた。

 いや、あれを『見捨てた』と言っていいのか分からないが――」


 窮地になったのを知りながら放置するのが「見捨てる」だが、その窮地に蹴り落して見捨てるのは、何と言えばいいのだろうか? おとりに使う? 罠にハメる? いや、一番しっくり来るのは「裏切り」だろう。

 俺は、見たことをそのまま報告した。


「そんな事が……。

 『朱色の聖剣』の方々は、最近あまり評判がよくなかったものの、まさかそこまでやるなんて……」


「朱色の聖剣? 10年前に『荒野の塔』を制覇したという?」


「はい。その『朱色の聖剣』です。

 もっとも、私が加入したのは1年前ですけど」


「そうか……」


 アーロンたちがそんな事を……大したものだ。だが、今の状況は、そんな功績を吹っ飛ばすほど悪い。いったい彼らに何があったのだろうか?


「……それで、どうしますか? 一応、『朱色の聖剣』に籍を残すこともできますが、あまりおすすめできません」


「もちろん脱退します」


 冒険者ギルドは、誰がどのパーティーに入っているかを把握している。それは、パーティーの結成・加入・脱退・解散を、すべて冒険者ギルドで手続きしないといけないからだ。

 なぜ勝手に組んだりやめたりできないのかというと、ランク制度を維持するためだ。冒険者のランクは、実績に応じて変動する。そのため冒険者ギルドは、誰がどんな実績を上げたか把握していなければならない。

 たとえばパーティーで1つの依頼を受けるとき、その受注手続きは代表者1名がやればいい。完了報告も同じだ。つまり、代表者以外は窓口に来なくてもいい。誰がどのパーティーに入っているか把握していないと、窓口に来ないメンバーには実績が記録されない事になってしまう。

 なので冒険者ギルドは、パーティーの結成・加入・脱退・解散をすべて記録している。だがそうすると、代表者がパーティーを脱退して依頼を受け、他のメンバーに知らせないまま共闘して、そのまま完了報告をすることで、自分1人だけの実績にすることができてしまう。

 こうした実績の搾取を防ぐために、いったん結成・加入したパーティーからはそう簡単には脱退・解散できないようにルールが定められている。そのため、通常なら、メンバーが勝手にパーティーを抜けることはできない。

 だが、エリノアの場合、「通常」ではない状況だ。当然パーティー脱退は本人の意思のみで認められる。

 ちなみに、名前だけパーティーに加入して働かずにランクを上げるという事もできてしまう。その代わり、そうやって不正にランクを上げても、受注できる依頼は同じランクのみなので、実力不足でかせげない上に負傷・死亡するリスクだけ跳ね上がる。箔をつけたいだけで実際に依頼を受けるつもりはないとしても、一定以上のランクになると拒否権のない依頼が発生する事がある。たとえば災害救助の人員募集などだ。これをボイコットすると、冒険者ギルドへの登録が抹消される。


「分かりました。脱退の手続きをしておきます」


「エリノア、これからどうする? 俺とパーティーを組むか?」


 他人を治療する必要があるかもしれない。エリノアとの出会いは、そういう可能性を考慮させるものだった。だが俺の光魔法は、他人には効果を発揮しない。ポーションを用意してもいいが、せっかくエリノアにブラックドラゴンの血肉を食わせてパワーアップさせたのだから、エリノアをパーティーに誘うことにした。


「はい。ぜひ」


 パワーアップしても攻撃能力のないエリノアは、1人では冒険者活動ができない。拒否される心配はなかった。

 というわけで、正式にエリノアが仲間になった。

 しかしパーティー結成の手続きは保留にして、俺たちは宿屋へ向かった。


「エリノアはここで待っててくれ。パーティーの名前を考えておいてほしい。

 俺はちょっとやる事があるから、先に片づけてくる。闇魔法【シャドーゲート】」


 発動した魔法は、影の中へ俺自身を収納し、別の影から取り出すことで転移できるというものだ。

 転移した先は、魔王の影である。


「む? ライトか。どうした?」


「コアを手に入れた」


「おお! やるじゃないか。

 よし、さっそく加工してやろう」


 事前の取り決めで、コアを手に入れたら魔王城のコアと連結し、魔王城の機能の一部を俺にも使えるように端末として加工してくれるという話になっていた。


「できたぞ」


 すぐに加工済みのコアを受け取った。

 加工といっても削ったりするわけじゃない。魔法的な連結を施すだけだ。


「魔王城に所属するダンジョンの中でしか使えない。外では使えないから注意しろ」


「分かった。ありがとう」


 再び【シャドーゲート】を発動し、例の少年の影へ転移する。


「おや? おかえりなさいませ、ライト様」


 少年……ではなく、落ち着いた雰囲気の初老の男だった。白髪頭でスーツ姿。一言でいえば「執事」っぽい。

 別人? いや、確かに少年の影へ転移したはずだ。ならば――


「姿が変わったのか?」


「はい。私の命ともいえるコアを加工されましたので」


 魂をいじられたようなものです、と初老の男は苦笑する。


「まあ、あの落ち着きのない少年よりは付き合いやすいかな」


「恐れ入ります。

 私としましても、ようやく転生前の年齢に追いつきまして、なにやら落ち着いたというか、安心したような気持ちです」


 彼も転生者か。

 こうなると、ダンジョン管理者は、みんな転生者なのかもしれない。

 まあ、だからどう、ということはないが。


「名前はあるか? どう呼べばいい?」


「セバスチャンと申します。お好きなようにお呼びください」


「分かった、セバスチャン。

 コアの機能について教えてくれ。魔王城から一部の機能をもらったと思うが、どうなっている?」


「こちらのダンジョンの管理機能はすべて魔王城に移っています。

 ライト様がお持ちのコアでできる事は、アイテムの召喚だけです」


「アイテムか。

 ラインナップは?」


「カテゴリ別に表示いたします」


 空中に平面画像が現れた。

 食品・武具・工具・素材などの項目が並んでいる。

 試しに食品を表示してみると、以前魔王にもらったブドウの炭酸ジュースもあった。

 素材を表示してみると、材木や釘などがならんでいた。魔物の素材は見当たらない。魔物の素材が欲しければ、自分で狩るしかないようだ。

 武具を表示してみると、やはり魔物の素材でできた武具は見当たらなかった。まあ、俺には必要ないが、エリノアには何か装備させた方がいいかもしれない。

 俺の方で使用できる管理エネルギーはそう多くない。毎月少しずつ補充してくれるらしい。魔王からの小遣いだ。なので、コアから召喚したアイテムを売って資金を作るというのは無理そうだ。ちょっと残念な気もするが、厄介な連中に目をつけられたり、公的機関から不審がられるよりはマシかもしれない。

 ただ、食品の購入には、これ以上ないくらい便利だ。様々な食材、ジュースや酒、それに調理済みの料理や弁当がならんでいる。見たことがないものも多い。たぶん地球のものだろう。


「食品を、とりあえず一通り購入しておきたい」


 調理方法がパッケージに表示されているものもある。それを参考にして、一通り食べてみよう。


「かしこまりました」


 セバスチャンが目にもとまらぬ速さで画面を操作し、次々とアイテムが召喚される。

 いちいち検品するのも面倒なので、とりあえず【シャドーコンテナ】で収納しておいた。


「食品は以上でございます」


 とセバスチャンが頭を下げた。

 ちょうど管理エネルギーもほとんど使い果たした。

 そこへ、転移魔法が発動し、魔王が現れた。


「ここにいたか。

 ライトよ、お前になついていたヘルハウンドを強化しておいた。使うがいい」


 魔王が召喚魔法を発動し、黒髪のグラマラスな美女が現れた。


「ライト様!」


 黒髪の美女は、いきなり俺に抱きついて、顔をペロペロと舐めてきた。


「おいいいいい!?」


 あのヘルハウンドだと理解するのに、これ以上分かりやすい行動もないだろう。

 だが、絵面がマズイ。

 美女に顔面を舐め回される俺。完全に変態である。


「落ち着け! ちょっと待て!」


「はい、ライト様!」


 しゅたっ、と黒髪の美女が離れて敬礼する。いい笑顔である。

 なんだろう。美女なんだけど、やたら残念だ。


「とりあえず、名前が必要だな」


「名前を頂けるんですか!?」


 ヘルハウンドが嬉しそうに目を輝かせる。

 同時に犬耳と尻尾が飛び出して、耳がピンと立ち、尻尾が勢いよく振り回されている。

 ヘルハウンドは魔物だ。種族名がヘルハウンドで、個体名はない。

 魔物が個体名を持つということは、種族の中でも特別に強くて、名付けた相手(たいてい被害を受けた人間)から恐れられているということ。英雄の証とでも言うべきか。

 不思議なことに、その手順を逆にしても結果は同じになる。つまり、何の変哲もない個体に名前をつけると、急に強くなるのだ。これは普通の動物でもある程度の効果がある。名前をつけて呼ぶことで、ただの犬でも飼い主のもとに帰ってくるようになる。帰巣本能の強化と、帰るべき場所の固定が発生するということだ。

 強さこそ全て、弱肉強食が唯一のルールである魔物・野生の世界で、名前をつけられるということは、生存競争に有利になる。人間社会でいえば出世するようなもの。たいていの個体は喜ぶ。


「ああ。どんな名前がいいかな……?」


 自然に名付けられる場合は、片耳がないからミミナシとか、顔に傷があるからスカーフェイスとか、そんな感じで名付けられる。

 だが、このヘルハウンドにそういう特徴はない。

 そうなると、外見の特徴ではなく、能力とか功績とかをもとに名付けるのが普通だ。では、このヘルハウンドの能力や功績はというと、ヘルハウンドとして特に目立ったところはない。強化されたらしいが、人間の姿になった以外は未確認だし。せいぜい俺になついているという事ぐらいか。会うと毎回ペロペロ舐められるもんなあ……。

 ん〜……その方向で名付けるか。


「『ペロ』とか、どうだろう?」


「はい!

 私はペロです!」


 嬉しそうに敬礼するペロ。

 セバスチャンは穏やかな表情だ。

 魔王は、笑いをこらえている。


「っ……! で、では、な」


 口を抑えながら、魔王が転移して消えた。

 そんなに面白い名前だったか?

 ペロペロ舐めるからペロ。うーん……ヘルハウンドにつける名前にしては、ちょっと可愛らしすぎたか?

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