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落胤05:昇格

 ブラックドラゴンの死体を収納し、召喚魔法を解除してヘルハウンドを魔王城へ戻らせる。

 それから俺は、冒険者ギルドに戻った。


「報告が3つあります」


「3つですか? ライトさんは、2つしか依頼を受けていませんよ?」


「その2つの達成報告と、もう1つは、ブラックドラゴンが出た報告です」


「ブ……!?」


 受付嬢は美人が台無しな顔をして驚き、周囲の冒険者たちも一斉に静まり返った。


「……本当ですか?」


「こんな事で嘘は言いません」


「見間違いとかではなく?」


「いえ、しっかり確認しました。

 お疑いなら、そちらでも確認してください」


 本来いないはずの場所に、本来いないはずの魔物がいる。

 この情報は、冒険者ギルドに報告する義務がある。

 群からはぐれた個体がたまたま現れただけならいいが、群全体が移動しているような場合には、何か起きているという可能性が高いし、生息域の変更に伴って低ランク冒険者の立ち入りを禁止したり、領主に報告して警戒や討伐のための部隊を出してもらったりしなければならない。

 しかも、相手がブラックドラゴンとなれば、たまたま群からはぐれただけの個体だとしても、街がいくつも滅ぼされる危険のある一大事である。


「詳しい場所を教えてください」


 地図を引っ張り出して、受付嬢が尋ねる。

 他に別の個体がいる可能性もあるので、俺はしっかりと遭遇地点を伝えた。


「それで、そのブラックドラゴンは、どの方向から来て、どの方向へ進みましたか?」


「来た方角は、こっちから、こうですね。

 遭遇した地点で倒したので、進んだ方向はありません」


「こっちから、こう……っと。

 で……え? 倒した……?」


 受付嬢は、地図に書き込む手を止めて、何言ってんだこいつ、という顔で俺を見る。

 まったく信じてない顔だ。

 倒したというのが何か別の状況を表す表現だと思っているらしい。


「倒した、というのは、どういう事ですか?」


「こういう事です」


 口で説明しても信じてもらえそうにないので、俺はドラゴンの首を取り出した。

 すでに血抜きは済ませてあるので、だいぶ軽くなっているが、それでも天井に届きそうな大きさだ。床がギシギシ鳴っている。


「「えええええええええええ!?」」


 その場の全員がハモっていた。





 俺は支部長室へ案内された。

 筋肉モリモリのごついおっさんが、まじめに書類仕事をしていた。

 適正サイズのはずだが、妙に机が小さく見えるから不思議だ。


「ライトくん。君をAランクに昇格させる事にした」


「Aランクですか……? さっき登録したばかりのFランクなんですが」


「ブラックドラゴンはSランクだ。それを討伐できる人材を遊ばせておくのは惜しい。

 別に、これは特別措置ではないよ? ランクの変更は『実績』によって判断される、と登録するときに説明させている。君も聞いたはずだよ」


「確かに聞きましたが……」


 なるほど。量をこなせばいいと思っていたが、質の高い実績を作るという方法もあったわけだ。

 ていうか、Sランクって何だ? 受付嬢からはAからFの6段階があるとしか聞いてないが。


「分かりました。

 それで、ここに呼ばれた理由は何でしょうか?」


 単に実績に応じてランクが上がるというだけなら、受付で済むはずだ。


「うむ。

 ライトくんは、Sランクの魔物を討伐した。つまり、Sランクの実力があるということだ。

 しかし、ギルドは君をSランクにはできない」


「すみません。そのSランクって何ですか?」


「Aランクの上だよ。Aランクを超えるAランク、スーパーAランク、だからSランクというわけだ。

 ただし、冒険者ギルドで正式に採用しているランクではない。そんなランクを作っても、冒険者ギルドの実務じゃ使わないからな。

 Sランクというのは、国が認めた人物に与えられる称号だ。魔物の場合は『それに相当する強さ』という意味になる。

 多分今回の功績で、君もSランクの称号を授かるだろう。ドラゴンスレイヤーの称号も一緒に授与されるはずだよ。

 で、その授与のために、王城から呼び出しがかかるはずだ。

 まあ、まだこれから報告するところだから、そのあと向こうで判断して、呼び出しの使者がこっちへ来て……となると早くて1週間は先の話だがね」


「そうですか……」


 辺境の田舎村で生まれ育ち、魔王城で鍛えた俺が、人間の王城に呼び出される?

 どうも現実感がわかない。

 よく考えると、王城に呼ばれるより魔王城に到達するほうが凄いことなんじゃないかという気もするが、距離的にも心理的にも人間の王城なんて最も縁遠い場所だ。

 ていうか、魔王の息子が人間から英雄みたいに言われるなんて、どんな皮肉だろう。しかも、その実績を作るのに使ったのが、魔王の得意な魔法だぞ?

 ブラックドラゴンを倒した功績でなんか称号くれるから王城へ、って……いっそ魔王の関係者とバレて罪人扱いで連行されるって感じのほうが、まだ現実感がある。


「登録からAランクになるのも、登録からSランクになるのも、歴代最速だねぇ。

 いやぁ……『なんで俺がFランクからのスタートなんだ』なんてゴネるバカどものために、『世界最強の戦士でも登録直後はFランク』という説明をさせていたんだが……まさか本当に世界最強が登録しに来るとは思わなかったよ」


 気のない返事をする俺に、支部長は機嫌よく笑ってしゃべり続ける。


「えっと……要するに、呼び出しが来るか、来ないとはっきりするまで、街からあまり離れるな、という事ですね?」


「その通りだ」


「承知しました。

 ……ところで、どうしてそう機嫌がいいのですか?」


 どう見ても上機嫌な支部長だが、俺がSランクやドラゴンスレイヤーの称号をもらうことと、どういう関係があるのだろうか。その影響で機嫌がいいという事はなんとなくわかるが、だからといってこの冒険者ギルド支部に何か利益があるのかといったら……あるのか?


「しょうがないじゃないか。

 Sランク冒険者でドラゴンスレイヤーだぞ? そんな冒険者が我が支部に! 何か依頼しようと思っている人が『じゃあ、どこの支部に頼もうか』という段階になったら、絶対ここに来るだろ。利益がうなぎ上り間違いなしだよ! うへへへ……じゅるり……」


 なるほど。看板か。

 たとえば、街で評判の美人がいるという定食屋があったなら、その美人を一目見ようと客が集まる。俺はその「評判の美人」のポジションになるわけだ。看板娘なんて言葉があるが、俺の場合、なんていえばいいんだろう? 看板男なんて聞いたことないが、看板冒険者とか?





「うーん……」


 掲示板とにらめっこしながら、俺はどうしたものかとうなっていた。

 同じランクの依頼だけ受注できる。最初の説明で聞いたことだ。

 つまり、俺はAランクになったので、Fランクの依頼は受けられなくなった。Aランクの依頼といったら、危険度もAランクだ。討伐だろうが採取だろうが、現地にはAランクの魔物がいる。当然そんなのが街の近くにいたのでは安心できないので、そもそも低ランクの魔物しか出ない場所に街をつくるか、苦労して高ランクの魔物を追い払うかしている。

 という事は、Aランクの魔物は街から遠い場所にしかいないのだ。Aランクの依頼も、街から遠い場所へ行くものばかりなのだ。

 しかし俺は、しばらく街からあまり離れるなと言われている。


「受けられる依頼がない……」


 オォ~ウ、マイ、ガァー……。

 ランクが上がったばっかりに、収入がなくなってしまうとは。

 手元にあるのは、薬草採取とゴブリン討伐で得たわずかな金銭のみ。ブラックドラゴンの死体は、高額になりすぎるのでギルドでは買い取れないという。売るなら王城へ報告して、オークションに出すしかない。

 しょうがないので、俺はギルドに買い取ってもらうのを諦め、オークションに出すのも断った。食費がなければ、持ってる肉を食べればいいじゃない。というわけで、所持金は調味料を買うのに使い、ドラゴンの肉をステーキや焼き肉にして食べることにした。ドラゴンは巨体なので、しばらくは食いつなげる。

 だが、肉ばかりでは栄養バランスが悪い。

 野菜を買うには資金が必要だ。

 ならば稼ぐしかない。依頼を受けられなくても、冒険者にはダンジョンがある。Aランクの依頼で行くような場所と比べれば、ダンジョンなんて街から近いほうだ。依頼を受けて行くわけでもないので、途中で引き返したっていい。

 1週間で戻ることにして、俺はダンジョン攻略に乗り出した。

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