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落胤10:氾濫

 時間は少し遡る。


「以上でパーティー結成の手続きは終了です」


「どうもありがとう」


 このあと、俺たちは夕食をとっている最中にアーロンたちに襲撃()される。

 そろそろ王城から呼び出しがあるか、あるいは呼び出しがない事がはっきりするのではないかという時期だ。ダンジョン「荒野の塔」を制覇した際に倒した魔物の死体を売って、資金もそれなりにあるので、依頼を受けることなく、休日として過ごそうとエリノアやペロには話していた。

 エリノアは「いよいよですね」と俺を祝福する構えだった。ペロは人間が定めた栄誉などに興味はない様子で、活躍できないことを残念そうにしていたが、ダンジョンコアの機能で召喚した食材を試してみようと言ったら急に機嫌がよくなった。食いしん坊め。


「パーティー結成直後にアレですが、ライトさんに面会希望の人が来ています。

 騎士の方ですので、おそらく例の話かと。会議室でお待ちいただいていますので、お越しください」


「承知しました。

 エリノアとペロは、この場合、同行しないほうがいいでしょうか?」


「同行してもいいと思います。

 王城には入れないかもしれませんが、パーティーメンバーだと伝えておけば、ライトさんが王城に呼び出されている間、お2人にもそれなりの歓待があるかもしれません」


 王城の別室で待っていてもらうとか、宿屋を手配してくれるとか、そういう事だろう。

 受付嬢の助言に従って、3人で会議室へ。

 待っていた騎士から、予想通り王城への呼び出しを受けた。





 というわけで、王城へ向かうべく街を出る。

 Sランクとドラゴンスレイヤーの称号を授与するための呼び出しという事で、俺(たち)は賓客扱いだ。貴族が使うような――実際にはそれより1段階劣る――立派な馬車が用意されていて、それに乗っていく事になった。

 サスペンションがなくて尻が痛くなるから馬車は嫌いだ、と母親が言っていたっけ。実際には、馬に騎乗する要領で乗っていれば、それほど尻が痛くなることはない。背筋を伸ばして腰の力を抜き、フラフープを回すような感じで揺れを吸収するのだ。こうすると、ガタガタ揺れても尻に圧がかからず、頭も揺れないので乗り物酔いもしない。椅子に座るつもりで体重を預けてしまうと、揺れるたびに尻を突き上げられて圧がかかり、痛くなる。

 ……のだが、用意された馬車は、サスペンションこそないものの、座面のクッションが抜群に柔らかく、そもそも尻への負担が少なかった。揺れを吸収するために腰回りの筋肉を動かす必要もなく、長距離移動にも関らず、あまり疲れなかった。やっぱり上等な馬車は違うなぁ。


「毎回ご相伴にあずかりまして恐れ入りますが、本当に美味しいですね。

 もうすぐこの旅が終わってしまうのが残念でなりません」


 昼食のための休止。俺が振る舞った食事に舌鼓を打ち、騎士が困ったように笑う。

 彼は呼び出しのために来て、今は馬車の御者をやってくれている。

 ちなみに今回振る舞ったのは、めんたいパスタだ。乾燥パスタをゆでて、めんたいパスタのソースをかけるだけで完成する簡単調理だが、パスタはもちもちしていて腰が強く、ソースも高度に完成された味だったので、俺も驚いている。

 もちろんダンジョンコアから召喚した食材だ。地球やべぇ。高級レストランの味がこんな簡単に作れてしまうとは。……あれ? もしかして飲食店をやったらもうかるんじゃ……? 大量には仕入れられないが、1日限定〇名様みたいな感じでプレミア感も出しつつ、高級路線で行けば……?

 いや、やめよう。そっちに資源を割くと、自分たちで食べる分がなくなってしまう。


「さすがライト様です。おかわり」


 ペロが皿まで舐めているのを、俺たちは残念そうに見るのだった。

 まったく……。せっかく美人なのに元が犬だから、行動がすべて犬なんだよな……。


「もうないんだ。また今度な」


 召喚した食材にはまだ余裕がある。弁当なんてのもあるから、出してやるのは構わないが、順番に味見をしていきたいので我慢してもらう。

 その代わり、有り余っているブラックドラゴンの肉を出してやった。ペロはヘルハウンドなので、焼いたりしなくても生肉をモリモリ食べる。騎士には何の肉を出しているのか秘密だ。北方の、野菜があまり収穫できない寒冷地では、ビタミン不足を補うために生肉を食べる習慣がある。このあたりでも馬肉の刺身などは食べられているので、ペロの生肉食いがただちに怪しまれる事はない。まあ、正体がバレても俺の召喚獣だと言えばいいんだが。


「……さて、そろそろ行きますか」


 食後のコーヒーまで堪能して、のんびりくつろぎ、撤収作業に入る。

 といっても、まとめて【シャドーコンテナ】に突っ込むだけだが。

 馬車に乗り込んで、さあ出発というところで、風向きが変わった。前方から急激に黒雲が流れてくる。


「……降るかな?」


 空を見上げ、雨を予感する。

 だが、事はそれだけでは終わらなかった。


「ライト様。魔物の匂いがします。それもかなりの数です」


 ペロは魔法と嗅覚と聴覚を駆使して探知する。

 風向きが変わったことで、ペロの探知範囲が変わった。

 俺たちは顔を見合わせた。

 風上は王都方面。それも、もうすぐ到着するという距離だ。ペロの探知が届くかどうかギリギリの距離である。そこに多数の魔物の匂い。つまり、王都が魔物の群に襲われている?





 魔物の大群が王都へ向かっている。

 その情報を王城が知ったのは、冒険者ギルドからの報告によってだった。ダンジョンの攻略に向かった冒険者たちが、ダンジョンから魔物の大群があふれてくるのを目撃し、慌てて引き返したのだ。

 報告を受けた王城は、近衛騎士団と王都警備隊へ迎撃の準備を指示した。このとき王城も騎士団も警備隊も、1つのダンジョンからあふれる魔物の数なんて、たかが知れていると思っていた。ダンジョンから魔物があふれる事は過去にもあったし、それは最大でもDランク数百体という規模だった。総動員すれば1万を超える王都の戦力に、たかが数百体の魔物など何するものぞ。

 だが、ふたを開けてみると、今回の氾濫は数千体という規模だった。従来の10倍以上である。しかもBランクやCランクの魔物がほとんどで、中にはAランクの魔物までいる。Dランク以下の魔物はほとんどいなかった。つまり、実質の戦力は王都の2~3倍といったところだ。

 王城はあわてて周辺の貴族に出兵を命じたが、貴族たちがその領地から兵士を集めて部隊を編成し、食料などの物資をまとめて出撃するまでには、1日や2日で終わるわけもない。

 とにかく援軍が来るまで持ちこたえようと、王都の戦力は防御に徹し、必死の抗戦を始める。まずは大規模な先制攻撃によって、魔物の数を少しでも減らそうと、司令官が攻撃開始を合図した。





 黒いローブを着た人物。遠目にはそう見えるが、よく見ればそのローブには無数の顔が苦悶の表情を浮かべている。魔法を得意とする高位アンデッド「デスイーター」だ。

 ローブに浮かんだ無数の顔が、口々に呪文を唱え、デスイーターはそれらの魔法をまとめるための呪文を唱えていた。


「来るぞ! 防御魔法展開!」


 魔力の高まりを感知して、指揮官が叫ぶ。

 僧侶や魔術師たちが、それぞれ範囲防御魔法を展開した直後、デスイーターの魔法が発射された。

 デスイーターの魔法が、展開した障壁に激突した瞬間、障壁はあっさり砕け散り、炸裂した魔法に兵士たちが吹き飛ばされた。

 部隊が体勢を立て直す暇もなく、巨人の群が突撃してきた。ブラッドオーガ。その体表は赤く、背丈は3メートルを超え、槍の代わりに丸太を振り回すという手の付けられない相手だ。


「弓隊、撃て! 指示を待つな! 狙う必要はない! とにかく撃ちまくれ!」


「魔法部隊、氷や電撃を使え! ダメージを狙うな! 足止めに徹しろ!」


 無数の矢と魔法が飛び、魔物の群に着弾していく。

 だが、王都警備隊は冒険者でいえばDランク程度の実力だ。近衛騎士団でも大半はCランクで、一部の実力者がようやくBランクといったところである。そういう意味で、アーロンたちは大変な実力者に育っていたわけだが、それでもミスリルゴーレムになすすべなく逃げたように、王都警備隊や近衛騎士団もまた、この魔物の大群には攻撃が通用しなかった。

 かろうじて魔法が足止めの効果を発揮するものの、それとて1秒ともたずに力任せに突破されてしまい、あとはもう戦闘とは呼べない一方的な蹂躙だった。

 それでも近衛騎士団は諦めない。


「騎士団、前へッ! 今こそ我らの忠義を見せるのだァッ!」

「「おおおおおおおおおおッ!」」


 それでも王都警備隊は諦めない。


「踏ん張れ、お前らァ! ここを突破されたら家族が死ぬぞォ!」

「「おおおおおおおおおおッ!」」


 だが現実は残酷だ。気合でどうにかなる戦力差ではない。1人、また1人、と兵士たちは倒れ、吹き飛ばされ、引き裂かれ、踏み潰されていく。すぐ隣で、今朝まで仲良く笑い合っていた戦友が死んでいく。倒れた戦友を、しっかりせよと抱き起す余裕すらなく、兵士たちは死力を尽くして武器を振る。だがそれでも、この魔物の群には抵抗らしい抵抗にならなかった。武器ははじかれ、浅い傷をつけるのみ。魔法はわずかに動きを止めるのみ。魔物たちは、まるでハエでも払うように兵士たちを蹂躙していく。周囲の兵士たちが次々と倒れ、気づけば魔物の群の中で独りぼっちになっている。そうして彼にも最期のときが迫ってきた。

 それは、まるで炎が草原を焼き尽くしていくようだった。降り出した雨も、この炎を弱める事はできない。

 最期の瞬間まで諦めまいと武器を振りながら、どうにもならない現実をかみしめて、わずかに生き残った彼らは祈っていた。

 もはや近隣からの援軍は間に合わないだろう。だが、Sランクとドラゴンスレイヤーの称号を授与するために呼び出した冒険者が、今日にも到着するはずだ。丁重に迎えよとの通達を受けている。彼が間に合えば、あるいは――。

 炎には2つの種類ある。火炎と爆炎だ。王都を蹂躙する魔物の群が火炎なら、それはまさに爆炎だった。

 突如として、ほぼすべての敵味方が区別なく石化したのだ。一瞬の出来事だった。まるで一陣の風が吹き抜けたように、辛うじて「どの方向から来たのか」が分かる程度。すべての魔物と、範囲内に居た兵士が石像になっていった。

 そして、石化の風が吹いたその方向から、石化していない男が現れた。


「待たせたな」

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