そのスカートの下は──
「幽霊には自分を霊感ない人にも見せられる幽霊と、そうじゃない幽霊がいるんだよ」
私の友だち、七美ちゃんは所謂霊感体質というやつ。
しかも本人が天然入ってるせいか、危険な幽霊たちを友だち扱いで協力まで頼めてしまうある意味最強の存在だ。
昔から私が何か嫌な目に合えば、七美ちゃんは「大丈夫」といつも難無く障害を退けてしまう。
多くはちょっとした脅し程度だが、ストーカーを相手にした時に本気を出したようで・・・
哀れストーカーは不審な自殺未遂からの意識不明が続いている。自業自得だけど。
不審ながらも科学で解明出来ないので、警察も早々に手を引いた。
私や家族がストーカー被害の届を出していたので少し疑われたが、まあやったのは七美ちゃんの友だちの幽霊たちだし。
若干警察の方々に対して良心の呵責を覚えたが、警察の構造上仕方ないこととは言え、まともなストーカー対策をして貰えなかったという気持ちもあって沈黙を選んだ。
そもそも幽霊がやりましたと言っても信じて貰える筈もないしね。証拠だって出る訳ない。
七美ちゃんは私に凄くよくしてくれる。
昔から七美ちゃんが時折見えない何かに話しかけたり、周りで怪奇現象が起きるせいか、一緒にいると変な目で見られたり避けられたりすることが多い。
それでも一緒にいるのが私くらいだからだろう。
実際、それで色々と言われたり、怖い心霊現象に遭遇したりもしたが、七美ちゃんは凄くいい子だ。
周囲に理解されにくい子だとは思うけど、だからと言ってそれが拒む理由にはならない。
たまに映画のシックス・センスみたく、実は私が幽霊なんじゃと疑ったりもするが・・・
「ぷぷ」
その度に七美ちゃんに笑われてしまう。
すみませんねッ、どーせ私はすぐに影響されてしまうちょろい子ですよ。
そんなある日の夕方──
(ああ、これヤバイやつだ)
大学からの帰り道、時間あったからいつもよりちょっと活動範囲を広げに行ったのが悪かった。
雨がパラつき始めたので、もう帰ろうとした際に目が偶然それを捉えた。
公園の砂場に半ば埋もれた、名前らしきタグつきの何かの鍵。
「──虹? 前が消えてて読めない」
交番にでも届けた方がいいかなとスマホで近くの交番を検索しつつのながら歩き。
よくある公園角に面した十字路の交差点の一つ。
沈む夕日に照らされ朱く泣く雨。
脇には『飛び出し注意。よそ見運転注意』の看板。
導かれるように、誘われるように向かう足。
七美ちゃんが言っていた。初手が大事。初めのインパクトで呑まれると基本やられる。
そういう意味では、現状は恐らく雰囲気作り、下準備の段階。まだ時間がある──。
敵は初めのインパクトを外さないだろうが、そういう意味では既に外している。
常人であればここは九字護身法でも行うのだろうが──
身体が上手く言うことを聞かない中、震える手でなんとかスマホを落とさないように握りしめる。
(か~ごめ、か~ごめ~、か~ごのな~かのと~りぃはぁ、い~つ~い~つ~で~あぁう、よ~あけのば~んに)
言っちゃなんだが、私の友だちはそっち側だ。だから、私の護身法だってそっち。
信号が青から点滅して赤に変わる・・・もう時間もなさそうだ。
(つ~るとか~めがすぅべったぁ、うしろのしょうめんだ~ぁ・・・)
周囲が夕焼けよりもなお朱く染まる。
(れ!?)
そうして目の前に現れる血だらけの女の子の顔。逆さver.
ぴぎゃぁああああああ!!
マイ護身法完成と同時に敵の初撃となるインパクトを貰う私。
怖いからかそういうものだからかわからないが、声にならない。
急に目の前に血だらけの女の子の顔が、ドアップで逆さにも係わらず目線ばっちし★で現れるとかホラーにも程があるっ。物理法則仕事しろ!
『足がないの。お姉ちゃん、わたしの足見なかった? 足がないとおうちに帰れないの。ねえお姉ちゃん・・・、わたしの足見なかった? 足がないとおうちに帰れないの。ねえお姉ちゃん・・・』
エンドレスリピートですね、わかります! スカートの下──この場合は上?──が途中から血のシャワーですよ。怖い怖い怖い!
そして突然更に猟奇的な意味で怖いこと言いだすんですね、ええわかりますとも。
素なのか幽霊になったからかわからないけど、喋り方も少しイントネーションズレてて不気味さに拍車をかける。
しかもこちらの声を封じてあるとか、確信犯ここに極まれり。マッチポンプ並みの酷さだよ!
私は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かねばならぬと決意した。
スカートも重力に従ってないし、鉄壁の布陣だね。字面強そうな絶対領域は目線の角度的にどっか行っちゃったけど。
(七美ちゃん、お願い! 助けて!!)
決意しながら他力本願? 何とでも言うがいいさ! 力なき正義は無力!
スマホが着信メロディを流し始める。
全国の皆さんを恐怖に陥れた着信アリの曲、からの~ぉ、暴れん坊将軍の殺陣のテーマ! これで勝つる!
これぞ天ならぬ地獄からの助け!
『珍しいね、お姉ちゃん』
『俺が来たからもう大丈夫だよ(イケボ)』
『私のこの鋏が真っ赤に燃える。悲鳴を掴めと轟き叫ぶ。・・・ねえ私、綺麗?』
「花子ちゃん! それにイケメン犬に口裂け麗子さん!」
花子ちゃんからささゆりを渡された私に声が戻る。
こちらの状況が分からなかったのもあるだろうが、七美ちゃんが寄こしてくれたのはかなりの戦力。これはもう負ける気しないね!(現金)
正に日本屈指、トイレの花子さんとして有名な花子さんの内の一角。お花使いの花子ちゃん。見た目中学生くらいの普段は可愛いセーラー女子。
人面犬界隈では抱かれたい男ナンバーワン。そのあまりのイケメンとイケボからのギャップに女性の悲鳴が絶えないイケメン犬。慣れればこっちのもの。
最近のマスク常備の波に晒され、若干自己主張に迷走が見られる口裂け女の麗子さん。美人だけど怒ると怖い。
スカートの下に隠された物々しい鋏の数々もあって、猟奇的な意味で超怖いので指摘も出来ない。
『う~ん、これはイケメン犬がおうちまで乗せていって解決かな。地縛霊だけどその辺の縛りは麗子に切って貰って、餌のお姉ちゃんはおうちに帰るまで私が守ってあげる』
「今何かおかしな単語が聞こえなかった!?」
加えて麗子さんを呼び捨て、やはり花子ちゃん、おそろしい子!
『ねえお姉ちゃん・・・、足がないとおうちに帰れないから、お姉ちゃんの両足、わたしにちょうだい』
はい女の子からの無茶振り来ましたー。ちょっとは空気読むのって大事だとお姉ちゃん思うな! 日本人の美徳ですよ! 禍福は糾える縄の如しってね!
今は渋々空気読んでてもきっといいことあるよ。でもイジメとブラック企業、テメーはダメだ。
花子ちゃんが朱に染まる空にハルジオンと彼岸花を咲かせ、想いで描かれる道を作る。
いつの間にか両の鋏を閃かせた麗子さんによって、場の力場に何処となく浮遊感が生まれる。
私そこまで霊感ないからふいんきね! 何故か変換できないよ!
足を失った逆さの女の子を乗せ、逆さになって花の道を颯爽と走り始めるイケメン犬。
『お前の足を寄こせぇえええ゛ええ゛え゛!!!』
「ぴぎゃぁああああああ!!」
今度は叫びました! 全力絶叫です!
私は花子ちゃんに先導される形で、とてもお茶の間に流せない物凄い形相となってイケメン犬を走らせる女の子の前を全力で駆ける。
早くおうち! おうちまだ!?
髪やら血やら朱い風圧やらが、恐ろしい風切り音と共に視界を埋める。
それらを撥ね退けるは我らが花子ちゃん。
お花の鞭にウォーターカッター、漂うトイレットペーパーの罠に反射も取り込みも可能な四次元鏡まで何処からともなく取り出して応戦。
というか今更だけどトイレの花子さんなのに宙に浮けるとかズルくない? いや幽霊だから標準装備なのかもだけども。
そしてトイレットペーパーがトイレットペーパーしてない。それぞれが自律行動してアニメで見る妖怪のいったんもめんみたいな動きしてる。
強いね! 流石メジャー処は違うよ。出来ればその力で後ろの物凄いのが見えたり聞こえたりしないようにしてくれると助かりますけど、どうでしょうか。
是非是非検討して頂きたく。
そんなこんなでやっとのことでおうちに到着。
女の子は憑き物が落ちたかのようにストンと玄関前に着地すると、鍵とドアを開けて元気よくおうちの中に駆けあがる。
(足ぃ! 生きとったんかワレェ)
『家に帰ったことで元に戻ったのかな』
説明ありがとうイケメン犬。
『お母さんただいまー』
ドアの開く音にこちらへ来ていた母親と思しき人物に、女の子が抱き着き顔を埋める。
「? あの?」
そして目が合うお母さんと私。
「えっと」
(これなんて言えば・・・。お宅のお子さんの幽霊が開けましたなんて言えないし)
言うまでもないが、女の子の姿はお母さんに見えていない。
「!? その鍵・・・」
お母さんが靴も履かずに駆け寄り、私の手にある鍵に震える指先をのばす。
「これ、あの子の・・・。警察の方が探しても見つからなかったのに」
「これ、公園の砂場に」
「そうだったの。ありがとう、わざわざ届けてくれたのね」
お母さんに鍵を渡す。
「それにしても三回忌の前日に見つかるなんて、私もいい加減に前を向かないとあの子に叱られてしまうかしら。でも、だからッ、ごめんなさい。今だけは・・・」
崩れ落ちるお母さんを温めるように、泣くお母さんの頭を女の子が優しく抱きしめた。
その時──
『ワンッ』
突如響いた犬の鳴き声から数瞬、女の子の温もりが、確かにお母さんへと伝わった。
「あぁ、彩虹」
お母さんから零れ落ちる涙に浄化されるかのように、女の子──彩虹が、朱と共に洗われ透明な光となって空へ空へと落ちていく。
いつの間にか雨の止んだ空に、誰もが見れる二つの虹が架かっていた──。
──
────
────────
ここは、よくある公園角に面した十字路の交差点の一つ。
そこではもう、沈む夕日に照らされ朱く泣く雨は降らない。
しかし──
『私のこの鋏が真っ赤に燃える。悲鳴を掴めと轟き叫ぶ。・・・ねえ私、綺麗?』
一人だけ置いてけぼりをくらった時から、スカートの下の際どい部分まで見せるマスク姿のそれはそれは美しい女性が、春や秋になると時折出没するようになっていた。
彼女を褒め称える際に「虹」を引用すると、血の雨は降らず珍しい二つの虹を見れるのだとか。
もし今、空に二つの虹が架かっているように見えるなら、それは麗子さんたちからの小粋な贈り物かもしれない。
──おしまい。
怖かった、楽しめた、感動した、正直スカートの下気になった、抱かれたい男ナンバーワンにやられたという方は、1つでも評価入れて頂くと嬉しいです。
九字護身法。臨・兵・闘・者と続くあれ。
ささゆり。花言葉は清浄、上品。
ハルジオン。花言葉は追想の愛。季節は春。
彼岸花。花言葉は悲しい思い出。季節は秋。
三回忌。故人が亡くなって2年後の命日のこと。三年目ではない。
かごめかごめ。結構種類あります。なのでちょっと違うと思った人もいるかもしれません。
口裂け女の対処法。こちらも諸説あるので気にしない。傍に犬いたし(笑)
二つの虹。副虹(二重虹)と言うようです。作者は実際に見たことがあるの一度だけ。
コロナでマスク→口裂け女の発想は結構皆さんなさってると思うので、ちょっとばかり変化球狙えればと思いつつ書きました。割と上手くまとまったように思うのでこれで投稿。




