07話 ブチキレタ
◆14歳の早春(1) 【魔時計:0時35分】
アルマが田舎に帰ってからだいぶ経った。1ケ月? もっとかな?
その後もわたしは何とか暮らしを維持している。
彼女の残してくれたレシピを頼りに自炊を始め、どうにか自己採点でも及第点をあげれるくらいには料理も上達した。
でもひとつ、大きな気掛かりがあった。
それは、お金。
今月と来月の家賃は無事払い終えたが、再来月の分は……となると正直心許ない。
アルマが書き置きしたメモを信じると、モーリス兄さまとの約束じゃ、昨日、第1回目の返済が履行されてることになっていた。けども両替所は「そのような振り込みは無かった」とゆう。
実務手続きのもたつきもあるやろし、あの兄さまのことやから期日にいい加減にやってるのもありそうで、いきなしワーワー騒ぎ立てるのもどーかと思うワケやねんけども。
アルマとの別れ際に感じた後味の悪さもあるし、イライラ、ムカムカがどーしよーもなく沸き上がるのはしょーが無いでしょ?
「お婆ちゃん」
「毎日毎日、またオマエさんかい。……と言いたいとこじゃが、ま、昼時じゃ、一緒に喰ってけ」
最近はこの自称【占い屋さん】に、三日にあげず通い続けてる。
初来店したときにはガラクタにしか見えなかった珍品・奇品の類が実は魔道具だってことに気付いたから。
庶民街にしても、こんな街の真ん中で魔女がお店を経営してるなんて驚きだし、なんとゆってもこのお婆さん、かつてあの黒姫、フィルメルク大陸全土を恐怖に陥れた大魔女の家来やったなんて! そんな人がこんなところで人知れず店を営んでるやなんて、誰が想像すんねんなって。
それこそパヤジャッタの騎士連中とかに知れたら大変なコトになんで?!
分かってんのかな、お婆ちゃん?!
「けどさ。なんでわたしにペラペラ過去話してくれたん?」
「さぁの。……ほら、しっかり食べんか」
遠慮のカタマリになってたパンを押し付けられる。もうオナカ、いっぱいやってぇ。
「ところでさぁ、お婆ちゃん。今日は遠望鏡、貸して欲しーねん」
「へ? 何じゃと?」
「遠望鏡。覗き見できるヤツ。ちょっと貸して?」
「……あ、い、いや。……アレは……」
「? 何なん? 貸したくないの?」
困った、弱ったとゆーような表情でアタマを掻くお婆ちゃん。
「あー、えー……。一応聞くが、何に使いたいんじゃ」
「アルマや。トモダチが元気に暮らしてるんか知りたい。それとな、モーリス兄さま。ちゃんと約束守ろうとしてくれてんのか、しっかり確かめたくって」
……お婆ちゃんはますます困ったカオをして、脂汗を流し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんにちは」
「……?」
もう一度、ゆっとくか。
「こんにちは」
ラファイエット伯爵家の門前で丁寧な挨拶をする。
屈強な二人の門番は、わたしをチラ見して無視を続けた。
ヨレヨレの上着に毛糸のほつれたフレアスカートの出で立ち。
物乞いやと判断したんやろう。……まぁ、それでもエエし。
わたしは彼らをほっといて鉄格子の内側に首を突っ込んだ。
うっすらと積もった新雪から、ぽつりぽつりと新芽が背伸びしだしている。その点々とした青さが広大な庭のそこらじゅうで見て取れた。
象牙色をした重層の邸宅とその後ろに垣間見える尖塔が、ラファイエット家の財力を物語るように敷地の奥に忽然と聳立している。
「コラッ。ここは教会じゃない。金の無心は他を当たれ」
二人の門番のうち、年嵩の方がドスを利かせた声でゆう。
息を合わせて若い方が剣を抜く素振りを見せる。ビビらせようってカンジで。
……思い出した。
この二人、前にわたしを小突いて道端に放り投げたヤツらや。
「……はぁ。お構いなく」
素っ気なく応じたわたしは、彼らの威圧感を間近に受けつつ全く意に介さず、ひとしきり屋敷内を見渡した後、数歩後ずさりした。
「娘! とっとと失せろ! また同じ目に遭いたいのか! 汚い手で触りやがって」
「……へぇ。ちゃんと覚えてくれてたんや。そりやどーも」
「な、何だと?! オマエ――」
がなった語尾が掻き消えるほどの轟音と振動が一帯を襲った。
そして門柱が消えた。
跡形もなく。
静かに手を下ろすわたし。その掌中から光渦が漏れ出ている。
「わ、わ、わ……」
尻餅をついたまま、動けなくなってる門番。
若い方はとっくに庭の奥へダッシュしていた。
「お、オマエ……魔女?! いったい……」
「ギャーギャー煩いねん。もう黙れや」
彼の真横すれすれに鉄格子が降り、地面にドン! と突き刺さった。
「うわぁぁ……!」
「だからやかましいって。通ってええんやな?」
コクコクと首を縦に振る。
新芽の芽吹く庭に、ザラザラと無数の石片が散らばっていた。門柱に残骸やった。




