04話 門前払い
◆14歳の冬(3) 【魔時計:0時0分】
「人が止めるのも聞かんと勝手に呪いアイテムと契約しおって! これじゃから最近の若モンは我が儘じゃとか、堪え性が無いなどと言われるんじゃあ、だいたいアンタが死によったら、ワシゃ寝覚めが悪いじゃろうがっ! こんの、バカモンがぁ!」
怒りつつも心配げな眼差しでまくしたてるお婆さんに、
「さっき、黒姫ってゆってましたよね? 100年前に大陸全土を席巻した大魔女。……シンクハーフってその大魔女・黒姫の家来の一人だったんでしょ? そんな有名な魔女さんが造ったモンなら、たとえ呪いアイテムでも効果はバッチシやと思ったんです」
絶句しタメ息に変わったお婆さん。
「100年前、ワシもその黒姫の配下の一人だったんじゃ。じゃけれど今や魔女は地上から真っ先に排他すべき存在。忌み嫌われ、唾棄される対象物のはずじゃ。それなのにお前さんは変わっとるのう」
「へーっ、メッチャすごーい! 生前の黒姫と会ったことがあるなんて、お婆さん、やるねぇ!」
「だ、黙らっしゃあ! 姫さまに対し、生前などと抜かすんじゃないわい! こんの無礼者めが!」
黒姫って単語を口にしたお婆さん、心なしか眼が潤んでる。
忠誠心、異様に高っか。
「無礼は謝ります。ごめんなさい。……あ、この懐中時計と遠望鏡は貰っていきます。幾らですか?」
「ま、待て。売るとは一言も言っとらんぞ? つーか、そもそも当店は【占い】が商売じゃ! いやいや、だいたい遠望鏡だけでもいったい幾らするか分かっとるのか?」
「あぁそっか。……ですよね。じゃあ懐中時計だけ買います」
「い、いや、ま、待たんか、オイコラッ、娘ッ!」
狼狽えるお婆さん。
しかしながら大概わたしも人の話を聞かない性分。(ここではわざとやが)
財布のお金をカウンターに全部ぶちまけ、ペコリと一礼し。
去った。
何やら背中でお婆さんが叫んでた……けども、ムシ!
ごめんなさい。
堪忍してな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
息を切らせながらラファイエット伯爵家のお屋敷に直行した。
ここに、長兄兄さまとアルマがいるのは分かってるんや。
なのに。
「そ、そんなハズはありません。確かにこちらのお屋敷にわたくしの兄が参っているのです。どうか今一度ご確認ください」
気が急き気味のわたしに対し、門番はまるでそこらの野良猫でも相手にしてるような、ノンビリした、気にもかけない態度を見せた。
こちらとしてはアポ無しだし、貴族の家を訪ねるには服装がラフ過ぎだし、色々マズかったのは直ぐに覚ったが、着替えに戻ったりとかなんて悠長な気持ちは持てなかった。
「その兄を訪ね、女の子も一人来てるハズなんです! その子を迎えに来たんです!」
必死に訴えても門番の心は揺らがなかった。
こうなったら例の魔力を使って押し入ろうか……と思案し始めた頃、門のずっと奥の方で、見覚えのある男性が何かの所用で「ちらっ」と通りかけたのが見えた。
――あれは、ラファイエット伯爵に違いない!
そしてその傍らに長兄兄さまも、いる!
「兄さま―ッ!! モーリス兄さまぁ!」
我を忘れ叫んだ。
聞こえて!
どうか聞こえて! わたしの声。
オナカに力を込めて力の限り叫ぶ。
「コラッ! 静かにせんか!」
例え野良ネコでも、目障りになれば構われる。
大概、「シッシッ」やが。
それでもわたしは呼び続けた。
モーリス兄さまのいるところにアルマがいるならば――。
アルマ。
アルマ!
アルマ、ゴメン! もっかい、ちゃんと謝りたい。
モーリス兄さま、わたし少しはお役に立てるかもですよ!
だから、だから。アルマに会わせてください!
「――! ……え?」
今、兄さまと目が合った。
ゼッタイに合った。
……それなのに、ムシされた?
しかも少し笑ったようにも見えた?
「――兄……!」
ドッ!
と予告もなしにオナカに衝撃を受けた。
よろけて跪く。
「娘、いい加減にしろ! 物乞いなら他を当たれ!」
門番ふたりに羽交い絞めにされ、大通りに引っ張って行かれ……、放り投げられた。
すんでのところで馬車が止まる。危うく轢かれるところやった。
それでも門番らは振り向きもしなかった。




