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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院1年生
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018 魔物とは

「そういえば、先日言っていた魔物の植物の話なのだが。」


 ジョノミディスが切り出したのは、新年のパーティーでハネシテゼが料理に魔物が混じっていると言っていた件についてだ。


 あの後、料理人たちに確認したところ、魔物を使っているという認識はなかったというのが彼らの言い分らしい。


 知っていても馬鹿正直にそれを言うとも思えないが、念のため、ハネシテゼの勘違いではないかと確認のために調理前の材料を持ってきたと言う。


「あれは確か、メニポゥル豆でしたよね?」

「ああ、そうだ。この豆なのだが、本当に魔物なのか? 色々聞いて回ったが、誰も魔物だと言う者はいなかったのだが……」

「私のお母様も存じていませんでしたから、知られていないのでしょうね。ですが、畑で成長していくところを見れば、魔物だとわかるはずですよ。」


 私やフィエルは畑なんて見たことがない。収穫直前の黄金色の麦畑や、花が咲き誇る芋畑は知っているが、野菜や豆がどのように成長するかなんて知ろうと思ったこともない。


「魔物には見れば分かるような、明らかな特徴でもあるのですか?」

「そうですね、私は見れば分かります。魔力の流れや持ち方が全然違いますから。」


 魔力を見れば分かるというのは初耳だ。だが、魔力を見るということ自体が父も母も兄姉たちも知らなかったのだから、初耳なのも当然か。


「この豆は、何も変なところがあるようには感じないが。」

「既に死んでいるのか、眠っているのかは分かりませんが、活動をしていませんからね。成長真っ最中だと一目瞭然なのです。初めて外の畑で見つけたときは、思わず焼き払ってしまったくらいです。」


 何の説明もなしに畑に火を放ったために、親にとても叱られたのだとハネシテゼは笑って言う。その後、きちんと説明したうえで畑を焼いて回って、領内の魔物栽培は根絶したらしい。


「畑を焼いてしまっては、収穫に影響が出るだろう?」

「ええ、その年から収穫量は増えました。」


 焼いた分以上に周辺の畑の収穫が上がったので、税収が落ちることもなく、飢えに苦しむ民もいなかったのだと胸を張る。


「魔物を植えると、そんなに周囲に影響があるのか⁉︎」

「ザクスネロ様は魔物とは何だかご存知ですか?」


 一体、どういう物を魔物と称するのか、というのは人によって少し違ったりする。

 父は魔力で人に害をなすものが魔物と言っていたが、学院の説明は少し違う。


「魔物とは、魔力を喰らうものです。」


 ハネシテゼの説明は、今まで聞いたものとは全然違った。一体、どこからそんな説明が

 出てくるのだろう?


「生き物は、魔力を生み出すものと、魔力を喰らうものに大別されます。そのうち、魔力を喰らい消費するのが魔物です。」


 人間や普通の獣や作物は魔力を作り、周囲に振り撒きながら生きているらしい。だが、魔物は魔力を喰らうことで生きているのだとハネシテゼは説明する。


「土地に魔力が満ちていると、作物の収穫が多くなることはご存知ですか?」


 そんなこと聞いたこともない。ジョノミディスやザクスネロも戸惑ったように首を横に振る。


「お母様も存じていなかったようで、驚いていましたけど、やはり世の中には知られていないのですね。」


 魔物の植物といい、何故、誰も知らないことをハネシテゼは知っているのだろうか?


「やってみたら収穫が増えたというだけです。最初は私の畑だけが作物の成長が良かったので、他の畑にも魔力を撒くようにしたら、収穫が倍増したのです。ただし、魔物がいると増えません。」


 魔物を駆除して魔力を撒けば、不作続きなんてすぐに終わるとハネシテゼは自信満々に言う。それが本当ならば、ここ数年のデォフナハの豊作の原因は、本当にハネシテゼだったのか。


「国中に知らせた方が良いのではありませんか?」

「ティアリッテ様はこの話を信じるのですか? 自分で畑に出向いて魔力を撒くつもりがおありですか?」


 問われて私は言葉に詰まる。城から出ることも許されていないのに、畑になど行けるはずもない。兄や父が行くのかと考えても、それもないと思う。父たちではなくても、大人はみんな多くの仕事を抱えている。畑になんか行っている暇はないだろう。


 だからといって、魔力の低い平民では効果が期待できない。


「ティアリッテの気持ちは関係ないだろう。恐らく、やるようにと命令される。」

「ティアリッテ様もハネシテゼ様も現状を正しく認識されていないのではないでしょうか。ハネシテゼ様の言葉は利も害も大きすぎる。もはや、子どもの戯言と受けとる者はいませんよ。」


 ジョノミディスもザクスネロも呆れたように言う。そんなに私、分かっていないのだろうか? ちらりと横目でフィエルを見るが、こちらは難しい顔をして黙りこんでいる。


「本当に魔物であるかはともかくとして、この豆の栽培は土地に良くない影響を与えるということで間違いないのですね?」

「デォフナハでは、その豆の苗を焼き払ったら周辺の畑の収穫が良くなりました。それは間違いのない事実です。」

「分かった。そう伝えよう。」

「そうそう、忘れていました。」


 真面目な顔をして頷くジョノミディスに、ハネシテゼはポンと手を打って微笑みかける。


「栽培するなとは言いましたが、実は安全に育てる方法もあるのですよ。大きめの壺などに土を盛り、そこに魔草を植えるのです。お城のバルコニーなど地面から離しておけば、土地を侵されることなく魔草の栽培ができます。問題は、そのやり方ではほんの僅かしか収穫できないことですね。」


 本当に、どのようにしてそのような知識を得るのか不思議でならない。ハネシテゼの口から出てくる話は、聞いたことのないことばかりで、本当なのか嘘なのか、大袈裟に言っているのか判然としない。



 午後の演習が終わったら、自室で両親に宛てた手紙を書く。手紙と言っても、昼間にハネシテゼが言っていたことの報告ばかりだ。内容に間違いがないか、念のためフィエルに確認してもらい、封をして側仕えに渡す。冬の間は両親とも王都の(やしき)にいるので、明日、私が講義を受けている間には届く。


 夕食後、湯浴みを済ませたらベッドに潜り込む。最近は、なんだかとても疲れる。側仕えたちは心配そうな顔をするが、だったらゆっくり休ませてほしい。

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