168 魔物退治も一段落
ミメフィヤの騎士たちへの指導は、王都でしていたようにティーカップの水に魔力を詰め込む、なんてやり方ではない。
最初から畑に出て、桶に水を注ぎ、魔力を詰め込んで辺り一面に撒く。手本を見せながら騎士たちにもやらせるが、やはり下級騎士では大変な作業のようだ。
段階を踏まずにいきなりの実践は中級騎士でも大変そうだが、私たちが教えられるのは今日だけだ。ディグニオたちもふくめて、みんな頑張っているのだが、元々の魔力が少ないため日が暮れるよりも魔力が尽きてしまう方がずっと早かった。
「では、私たちは周辺の魔物退治でもしましょうか。」
「そうですね。西の方を重点的にやった方が良いのでしょうか?」
「いえ、西はわたしがやります。ティアリッテ様とフィエルナズサ様も、それぞれ北と南を担当してもらえますか?」
三人が一ヶ所に揃っていたのでは、少々効率が悪い。それぞれ別々にやった方が良いだろうと、私たちは三方に分かれて魔物退治をすることになった。
いつものように畑の端で魔力を撒けば、いつものように森から魔物が出てくる。見たことがない種類の魔物も出てくるが、雷光で倒れるならば別に気にすることでもない。
一人で行くということに心配する声もあったが、特に何ごともなく何百かの魔物を退治して、夕焼け空の下、町に戻る。
「お疲れ様です、ティアリッテ。北の方はどうでしたか?」
「いつもとあまり変わりはありませんね。初めて見るような魔獣がいたくらいですけど、小型ですし問題はないと思います。」
「植物もデォフナハやエーギノミーアでは見かけないものもありますからね。知らない魔物も一つや二つくらいあるでしょう。」
見知らぬ魔物は、ハネシテゼも大して気にもしていない。小型の魔物は一匹や二匹であれば平民でも退治したり追い払ったりすることができる。纏まった数がいると脅威だが、今回、かなりの数を退治したし暫くは大丈夫だろうということだ。
少し遅れて戻って来たフィエルの方も、私とそう大きな違いはなさそうだった。小領主に夕食に呼ばれ、その席で魔物の退治状況について報告する。
あまり細かく数えてはいないが、今日一日で倒した魔物の数は合計で一千を超えているはずだ。これだけやっておけば暫くは大丈夫だとは思うが、だからといって普段からの魔物退治を怠っていれば再び同じ状況に陥るだろう。
「魔物の対策は、殖えてからではするものではありません。殖えないように日々退治するものでございます。」
「しかし、畑にも人を出さねばならぬのでございましょう? どちらを優先すべきでしょうか。」
ミメフィヤに限らず、小領主の抱える騎士は、そう多くはない。畑で魔力を撒くのに人員を割けば、必然的に魔物退治をする者が減ってしまう。
ハネシテゼも難しい顔で考え込むが、最終的に「一週間だけ畑に専念しましょうか」と結論付けた。
一週間必死に頑張れば、魔力も少しは伸びる。畑も町に近い区画から処理していけば、山から魔物が大量にやってくることもないだろうという予測だ。
だが、それも一週間までだとハネシテゼは強調する。
「畑に魔力を撒けば、必ず魔物を誘引することになります。畑の周辺の魔物退治をしっかり行わなければ、収穫の増加よりも魔物の被害の方が大きくなってしまいます。」
一週間もあれば、新たに魔物がやって来てもおかしくはない。それに対処する班は不可欠だということだ。
「頑張ってやってみます。」
「一ヶ月も頑張れば、魔力も随分伸びると思いますよ。そうすれば魔物退治も楽になるはずです。」
昨年、エーギノミーアで魔力撒きを多くの人に手伝ってもらったが、いずれも一ヶ月ほどもすれば、明らかに分かるほどに魔力を伸ばしていた。
真面目に頑張れば、ミメフィヤの騎士たちだって成長するだろう。
そう説明すると、小領主も少し安心したように息を吐く。相当に大変ではあるだろうけれど、未来が見えればやる気も出る。
翌日は朝食後すぐに発って、次の町へと向かう。道中の魔物は相変わらず多いし、町の周囲も魔物だらけだ。魔物退治が今回の私たちの仕事だから、それらを全て退治していくのは良いのだが、延々と同じようなことの繰り返しというのも飽きてくるものだ。
イグスエンの北西部を一周して領都に戻ったのは、私たちが出発してから十三日後だった。ムーポリュから同行していたディグニオたちともこれでお別れなのだが、最後に領都の畑で魔力の操作についての訓練をつけてやる。
もちろん、訓練するのはディグニオたちだけではない。領都にいる貴族の子どもらも集めての訓練だ。各町で子どもにも働くよう求めているのに、領都では求めないなんてことはない。
この訓練で驚いたのは、ディグニオたちの末弟メリルニオが既に魔力を感じることができるようになっていたことだ。
その言葉が嘘ではないことは、最終的に火花を放つことで証明された。魔力を感じられるならば、ゆっくり分かりやすく雷光の手本を見せてやれば、雷光の魔法の使い方は分かるはずなのだ。
何度か見せて、試してみると、本当に小さな火花を放つところまではできるようになった。
「二週間もやっていないのに、メリルニオは結構才能があるのではありませんか?」
「才能もあるでしょうけれど、随分努力したのでしょう。」
朝から晩までずっと魔力操作の訓練に勤しんでいられたわけでもない。馬に乗って移動している間は、魔術の訓練などできるはずもない。
私たちがそう言って褒めるとメリルニオは照れくさそうにするが、まだまだ魔力量も少ないし、魔力操作も未熟だ。このまま訓練を続けていけば相当な実力者になるだろうが、それはまだ先の話である。
翌日にはディグニオたち三兄弟はムーポリュに帰っていく。
領都の状況は変わらずで、ウンガスの動きも特に情報が入ってきていない。ミシェグリンが着いているが、こちらは私たちが送らせたものだから特に新しい情報というほどでもない。
「ミシェグリンは何か新しい情報をもたらしてくれましたか?」
イグスエン侯爵に魔物退治の状況について報告した際に、ハネシテゼが聞いたが、応えは否であった。
他の生存者が隠れているであろう場所でも知っていれば良かったのだが、そのようなこともなく、只々対応の手間が掛かるので困っているのだと言われてしまうくらいだ。
「其方らは何らかの情報が得られるかと思ってのことなのだろうが、これならばその場で処刑してくれたので構わなかった。」
侯爵が人払いをしてまで出てきた言葉がこれである。領都ではただでさえ人手が足りないのに、余計な手間を増やしただけだったと言われても困る。
三人の騎士は降格した上に謹慎という処分になるのが妥当ということだが、それを管理監督する者がいない。
ミシェグリンは最終的に処刑となるのは確かなのだろうが、領主一族ということで、それに際しての事務的な処理はとても面倒なのだそうだ。だが、現状では文官をそれに回す余裕がない。
どちらも人手が割けないため、現在は四人とも牢に入れたままなのだそうだ。
二日間の休息をはさみ、私たちは北東部の魔物退治に向かう。予定通りにいけば、帰ってくるのはまた二週間後だ。




