118 質問から始まる新学期
中央高等学院の新学期は十四月から始まる。その前に試験を受けねばならないので、少し早めに王都に到着しておかなければならない。
私たちが王都邸に着いたのは十三月の二十五日、これ以上は遅らせられないギリギリの日程だ。大急ぎで学院に試験の申し込みを出して二十七日、最終日に試験を受ける。
二十八日は新学期の準備のため、試験はやっていないのだ。
座学の口頭試問から始まり、体術、魔法と試験が進んでいく。落第してしまうような醜態を晒すようなことはないが、最上位グループに入っているかは少しだけ不安だったりする。
しかし、そんなことはおくびにも出さず涼しい顔をしているのが貴族というものだ。
「お久しゅうございます、みなさま。」
挨拶して入った講義室には、まだ半分ほどしか揃っていない。室内を見回してみるが、上位グループは他にまだ誰も来ていないようだ。
「お久しゅうございます。」
席に着くと、そう間をおかずにジョノミディス・ブェレンザッハが入室してくる。三年連続で二位の彼だが、もはや悔しさを滲ませてもいない。座学は満点の自信があるのだろう。差が付くとしたら、点数に上限のない魔道だ。
さらに四位のザクスネロ・モレミアがやってくるが、相変わらずハネシテゼは時間ギリギリまでやってこない。昨年と同じく、先生と一緒の入室だ。
「諸君、お久しぶりでございます。本日より、皆様がたは三年生となりました。夏の間はそれぞれ色々な事情がおありでしょうが、春まで過ごすこの学院では勉学に邁進されることを期待しています。」
ミャオジーク先生の挨拶の後、軽く事務的な話になる。一通り終わったら講堂へと移動して進級の式典だ。この式典は、私たちはただ話を聞いているだけのつまらないものだ。
二年生から学年代表が挨拶していき、最後にハネシテゼが「今年は何事もなく過ごしたいです」とやる気のなさそうなことを言う。
最後に学園長が締めて式典は終わる。その後は自由時間となる。
「ティアリッテ様、お食事をご一緒に……」
講堂を出ると、早速取り囲まれてしまった。私のところに来る者がいれば、ジョノミディスやザクスネロに声をかける者たちもいる。
詰めかけてきたのは三年生に限らず、というより三年生以外が大多数だ。同じ学年ならば、講義の前後や演習の時にでも話はできるが、学年が違うとどうしても話す機会は少なくなる。この機会を逃したくはないのだろう。
「そのように押し掛けられても困ります。どうせ皆、話したい内容は同じなのでしょうから、昼食後に講義室をお借りしましょう。」
良くも悪くもハネシテゼは面倒くさがりで、格式や体面を度外視したことを言いだす。普通はお茶でも飲みながら談笑するものなのだが、完全に事務的に終わらせてしまうつもりのようだ。
近くにいる先生に講義室使用の許可を取ると、その場は解散となる。寮へと戻り、それぞれに昼食をとる。
「さて、本日のお話は魔物退治と、食料増産についてで問題ないでしょうか?」
講義室にやってくる人が落ち着いてきた頃、ハネシテゼが壇上に立って声を上げる。まさか、あの流れで結婚の申し込みはあるまいし、誰からも異論は出ない。
「まず最初にお聞きしたいのですが、今年、魔物退治や畑に出てのお仕事をした方は挙手をしていただけますか?」
話が始まる前に確認しておきたいことだ。自分でやってみた上で話を聞くのと、全く分からない状態で話を聞くのでは全く意味合いが違う。
半分以上が手を挙げるが、キョロキョロ左右を見回しながら縮こまる者も少ないとは言えない。
「それで、皆さまは一体どのようなお話を聞きたいのでしょう?」
「まず、今年、畑や魔物退治に取り組んだ方から質問を受け付けてはいかがでしょう? 来年の課題として残っていることも恐らくあると思うのです。」
私が提案すると、ジョノミディスやザクスネロも大きく頷いて同意する。




