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間章1 天才少女の起源

カシャッ

少女を被写体にしてカメラのシャッター音が何度も切られる。

手慣れたようにポーズを決める少女は仕事の一環として撮影やトーク番組にも出演していた。

「チナミちゃんオッケー」

「はぁーい」

カメラマンのオーケーサインでチナミは背景の後ろを離れた。

少し離れたところに紙コップを配る女性スタッフが立っている。小学生ならではの足取りの軽さでそれを受け取り、一気に飲み干した。


葉加瀬チナミ。

発明で賞を取り、小学生の低年齢の天才少女として一度テレビで出演したが人気に火がついた。

ただのバラエティのみでの出演だったが視聴率は出演時間だけで最高値となり今では引っ張りだこ状態。

本来は発明のみで引きこもりたかったチナミだったが母親が出演の仕事を持ってくるものだから小学生には大人しく言う事を聞くしかない。


(早く大人になりたい……)


義務教育から抜けて独立したら自分の人生は自分で決められる大人になれる。

そう信じて疑わなかった。

カラフルでポップな服は嫌いではないけれど実験の邪魔になる。今すぐにでも脱ぎ捨てて引きこもりたい衝動に駆られた。

ちら、と仕事場の隅を見ると母親が立っている。

「お疲れ様でした」

チナミはスタッフに頭を下げ、母親と共に出て行った。

「チナミ。今日はこの後バラエティ番組の打ち合わせがあるわよ。早くしなさい」

「お母さん。アタシ学校に行きたい」

ぐいっと母親に手を引っ張られるようにして駐車場に連れ込まれた。母親はチナミを押し込むようにブルーの軽自動車の助手席に座らせる。

「何言ってるのよ。勉強できてしまうアンタにとって学校なんて意味ないでしょ。仕事をしてお金を稼ぐ事がアンタのためになるのよ」

チナミの仕事で家のローンは完済したのは知ってるし、かなりのお金が毎月母親の通帳に入っているのは知っていた。

口ごたえをすると倍になって返ってくるのはわかっているのであえて黙る事にした。




隣町のテレビ局まで走る道のりの中、街中は夕方の帰宅ラッシュに見舞われてしまった。

運転しているチナミの母親はイライラしたように方向転換を繰り返す。

母親はチナミのシートベルトを外し、ドアを開けて追い出した。

「走って行きなさい」

チナミは言われるままに走ろうとした。

すると車は動きだす。チナミは動き出したばかりのトラックに突き飛ばされるように轢かれていた。

空を飛ばされるようにして高く突き上げられる。

ドサッ…………。



叩きつけられた地面への衝撃は不思議と痛みは感じなかった。

「チナミ!!」

母親は心配そうに叫んだが、体は動かなかった。


(ああ。あっけない終わり方するんだ……)


その時、停まったトラックの前にスーツの紳士が入り、チナミの体を持ち上げた。

「おじさん誰?」

紳士は布手袋を口で外し、指先の先端を噛み切った。

少し血の滴る指先をチナミの唇に近づけていた。

「まだ君の()が死にたくないって言ってるからね。これから君は少し仮死状態になる。あと少しすれば全て終わるよ」

血はチナミの体内に入り、心臓が締め付けられるように痙攣する。

(苦しい)

チナミはそのまま意識を手放していた。





目を覚ますと違う場所にいた。

天井も床も真っ白な施設にいた。

「君は1週間ほど眠っていたよ」

チナミの近くにいたのは白衣の青年。

初めて見る顔に困惑する。

(誰? この人……)

青年は近くの椅子に座り、チナミと同じ目線の高さで話しかけた。

「君はトラックに轢かれてそのまま死亡が確認されたんだ」

「はっ……? 死亡。アタシ今こうして生きて」

「うん。それじゃあテレビをつけてみようか」

リモコンで近くのテレビをつけると音声で流れてきたのは、『葉加瀬チナミ、トラックに轢かれ死亡』のニュースだ。

どのチャンネルを変えても同じ内容が流れる。

「もしかしてあの世?」

青年は首を振る。

「君はちゃんと生きているよ。肉体は死んでしまったけれどヴァンパイアとして新たな命を授かったんだ」

「ヴァンパイア ……?」

すっ、とチナミの前に赤いガーベラの花を差し出された。受け取るとすぐに枯れていった。

心なしか体力は回復したような気がする。

「嘘……。なんで」

「これがヴァンパイアだよ。君も同じニコラス様の血で蘇ったんだ」

チナミを抱き上げてくれた紳士を思い出した。

中年ですらっとした不思議(ミステリアス)な人。

(あの人がニコラス……?)

「そのニコラスって人は」

青年の指先がチナミの唇に触れた。

「駄目。ニコラス様」

「そのニコラスさまはどこにいるの?」

「英国。ちょっと忙しい人だからね」

「本来なら人を襲った事のないヴァンパイアは世間で暮らすのがルールだけど、今回芸能界に長くいた君だからね。施設に来てもらったんだ。世間に出るのはほとぼりが冷めてからでいいかなって」

訳のわからない事に色々な事を詰め込まれる。

その感覚は久しぶりで当時の天才少女としての少し好奇心が湧いてくる。

「僕は秋吉航一(あきよしこういち)。医者でニコラス様の契約者(きみのせんぱい)だよ」

秋吉はチナミに手を差し出す。チナミもそれを受ける事にした。

(ここなら楽に生きられるかもしれない)

「ええ。よろしく。アタシは葉加瀬チナミ(はかせちなみ)。これからヴァンパイアの事色々教えてくれるかしら」

「喜んで」



チナミは20数年施設で暮らす事になるが、その貢献を認められてのちに渡会コーポレーションに移ることとなった。

カラフルなトレンドカラーの衣装の等身大が低い少女は徐々に仕事を認められ、僅かな期間でその地位を高めていく事になる。

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