06 不穏なお仕事
ピンポーン
一人暮らしの知識その1。
一度鳴らされたらセールスか宗教の勧誘と思え。
ピンポーン、ピンポーン
一人暮らしの知識その2。
強盗の可能性あり。宅配があるならネットで追跡確認するべし。
ピンポーン、ピンポン、ピンポーン
一人暮らしの知識そのさ……ん…………
会いたくない人でした。
「帰れ」
バタン。
鍵をかけて再び寝室に戻った。
もう一度寝ようと出勤時間まで寝ることにした。
「んー。そっかぁ、とーまチャン大変だったわね」
会社についてから少し時間があったので休憩室でチナミさんと会話をしていた。
私の身に起こった一連の事件だ。
クリスマスに別れを一方的に告げられた元彼と付き合っている元親友が私の部屋を襲来した。
一度は顔見ただけでドアを閉めたが、ドアの前で出勤まで居座り続けたのだ。
「はい。まさか駆け落ちしておいて婚姻届の同意欄にサインしろって来るとは思いもよりませんでした」
「ほんとよね。アタシだったら破って水ぶっかけちゃうかも。トモダチの彼氏奪っておいて結婚したいから祝福しろって何の拷問かしらね」
「チナミさんならやりかねませんね」
当時はかなり傷ついたが、今ではその感情も薄れてきた。
なるべくならばもうその2人には関わりたくないのが本音だ。
「でもウィークリーマンションに避難とかするほどでもないんだよな」
「じゃあ今夜会社にでも泊まってく? その分仕事やってもらう事になるけどたくさん試作アイテムは見れるわよ」
「やります!」
私は二つ返事でオーケーした。
仕事を少しやるだけで新作が見られるのはありがたい。
人間ではなくなったけど人間らしい生活が送れるのは正直嬉しい。
私が入社してからはチナミさんが本来の仕事である研究をする時間ができた。
今ではトークの時間も増えたように思う。
ぞろぞろと午前からの人たちが帰宅していく。
もう夜勤の始業が始まるだろう。
私とチナミさんは席を立ち、夜間企画部の部屋へ向かった。
今日は泊まり込みで仕事をする。
今日もたくさんの書類があった。
新作のアパレル商品をアップしてからだろう。
わりと好評でネットではすぐ完売になった。
中でも【純血でも溶けずにオシャレシリーズ】は群を抜いて売れ行きが上々だ。
私もいくつか試着させてもらったけど途中休憩を少し挟んではみたけど1日を日中で過ごせる。
社員特権として社割を使って私も購入させてもらった。
おかげでクローゼットの中身はすべて自社製品ばかりに変わった。
そしてもうひとつ……。
「とーまチャン。これ今月の分」
チナミさんが私のデスクに錠剤のケースを置いた。
「ありがとうございます」
これは生命力を食事にするヴァンパイア にとってはありがたいものだ。
毎回花を買ってその日のうちに枯らしてしまうというのは大変な事だ。
人の目と出費において。
これは飲んだだけで食事ができるという画期的な品物だった。
発売してから瞬く間に人気になり、あっという間に品薄になった。
物が溢れる中で会社の収入はヴァンパイアを相手にする商品が全体の4割とわりと好評な成績を上げていた。
近くでクリスがドリンクを飲んでいた。
これもうちの製品で錠剤より効果のあるものだ。
「クリスも今日は泊まり込みですか?」
「いえ。これから外出します。ちょっと長丁場になりそうなので……」
「大変なお仕事ですか?」
クリスは少しだけ沈黙した。
「今夜は満月です。チナミさん。抗体はできてますか?」
「オッケーよん。いつもより多めにしておいたわ」
「涼香さん。今夜は初の外の仕事です」