05 モニター
今日はかなり疲れた。
肉体的ではなく精神面で緊張した。
久々に私は自分のアパートに帰ってきた。
実家にいた期間中には固形物は食べられなかった。
ようやく喉を通るのは水分のみ。
入院していたから通りにくくなったと誤魔化したが、数日たっているのでそろそろ誤魔化しもきつくなってきた。
自分の部屋ってこんなに落ち着いたかな。
チナミさんから「モニターに協力してね」と渡された紙袋を玄関に放りだし、無造作にスーツを脱ぎ捨てておうちスタイルになる。
赤ジャージと冬にはちゃんちゃんこを着る。
彼氏が来ない日はこのスタイルだったのよね。
ヴァンパイアになってからの私の変化は食べ物を口に入れられなかった事。
元々激務で毎日のようにゼリー飲料で過ごしていた事もあったんだけどさらに輪をかけて酷くなった。
私は事故にあうまえに冷蔵庫に入れていた野菜室をチェックする。たまたま古くなっていたネギがあったのでそれをとった。
「いただきます」
念じるとネギはみるみる枯れてゆく。
私のはちょっとだけエネルギーを得たような気がした。
シワシワになって乾燥したネギをゴミ箱に捨てた。
そしてこたつに入って横になる。
「明日は花を買ってこないとなぁ……」
まだ足りない空腹感に思わず呟いた。
あー。生命力たりない。
私はとにかく明日の夕方まで寝ることにした。
起きたのは午後3時過ぎたころだった。
私は昨日放り出してそのままにしていたモニターの紙袋を開けた。
薄手の手袋とブラウス、スカート、ストッキング、そして帽子だ。
今日はこれで来いということなのかな。
とりあえず着替えてみると採寸していないのにぴったりだった。
それに季節感を出すようにコートとブーツを履いていざ出発。
ちょっとのんびりしていて出る頃には陽は少しだけ出ていた。
服のおかげか体の痛みとかの不調はない。
よし。張り切って出勤だとアパートを少し出たあたりに人影が見えた。
気配からにひとりだろう。
ちらっと顔が見えて足を止める。
今は会いたくない人だった。
「麻友……?」
以前私が事故に遭う前に元彼が選んだ元親友だ。
今更何の用なんだ?
私と目が合うと麻友は逃げていった。
足音がだんだん遠くなってゆく。
逃げるなら来なきゃいいのにと思う。
用があれば本人からまた来そうね。
体に不便さを感じないことに機嫌がいいので忘れる事にした。
これ製品版絶対買おうと決意して。
そして、その用件はすぐに訪れた。
午前10時、ヴァンパイアが眠る時間帯にやってきたのだから。
なんて迷惑な時間帯に来るんだ。






