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人質が殺されるループを繰り返すうちに、森田に発砲させなければ良い事に気が付く。
森田の銃は、カーテン越しだが、窓から狙えるために私の射線軸上にあった。
まずは運命を変えるために、それらしき所に発砲した。
森田の視界があらぬ方向を向いた。
森田にヒットしたようだ。
森田の手に持っている銃に当てれれば、運命を変えれる気がする。
初弾は、森田だったか……
ヤバイ!
と思った瞬間に、時間がまた巻き戻った。
「お前ら何者だ!銃を捨てろ!人質を殺すぞ!」
「人質?俺らは鎮圧しか依頼されてないからご自由にどうぞ」
森田が発砲する前の時間へ戻る。
森田の手に持った拳銃に当たるまで、再び何回、何十回、全百回と巻き戻る。
そして、銃に当てることに成功する。
森田の銃が、銃弾の当たった衝撃で手から飛ばされていく。
「な!まだ仲間がいるのか?」
手の銃を撃ち落とされたのを、私の狙撃ではなく犯人の仲間だと森田が勘違いしたようだ。
とっさに、物陰に森田が隠れてナイフを取り出した。
「ちきしょう!なめやがって!お前ら全員殺してやる」
人質を抱えながら犯人が叫んだ。森田が落とした銃の方へ犯人が移動する。
銃を回収するつもりなのか?
だが、そこは私の射線軸上である。
森田と志向のライブカメラから見える画像と、建物の窓のカーテン越しの犯人の位置を考えて初弾をカンで発射する。
人質の頭にヒット!
人質が頭から流血している。
もう少し右だった!!
ヤバすぎるだろ!!
と思った瞬間に、時間がまた巻き戻った。
「ちきしょう!なめやがって!お前ら全員殺してやる」
ちょうど良い具合の巻き戻りだな。
再度、森田と志向のライブカメラから見える画像と、建物の窓のカーテン越しの犯人の位置を考えて初弾をカンで発射する。
犯人にヒットしたが、犯人が死力を尽くして人質に発砲した。
人質が頭から流血している。
犯人が持っている拳銃に当てないと無理なのか?
と思った瞬間に、時間がまた巻き戻った。
「ちきしょう!なめやがって!お前ら全員殺してやる」
犯人の持っている拳銃に当たるまで、再び何回、何十回、全百回と巻き戻る。
そして、銃に当てることに成功する。
「うぁ!」
犯人の手から銃が飛んでいき、手から出血している様にみえる。
森田が、ナイフを持って犯人へ走りこんだ。
犯人が、人質を森田の方向へ蹴り飛ばした。
出血していない方の手を懐に入れて何かを取り出そうとしている。
取り出すと頭の上に掲げて叫んだ。
「お前らも道づれだあぁ!」
パン!
犯人の額に銃弾の跡がついて出血しながら倒れて行った。
志向が、撃った弾で犯人が沈黙した。
犯人の手から、何かのスイッチのような物が落ちた。
何か爆発物でも仕掛けていたのかも知れない。
「おわったか?」
「志向さん、終わってないぜ。俺の銃を撃ちおとした奴がまだ隠れている!」
「あ、それ帆井の狙撃だぞ。窓ガラスが割れた音と同時だったからな」
「え?見えてないのに俺の手の銃を撃ち落としたって事か?まさか、最後の犯人の銃も志向さんじゃなくて帆井が撃ち落としたのか?」
「そうみたいだな。とんでもない奴をスカウトしたようだな。あははは……」
「笑い事じゃないですよ。帆井!テメー覚えてろよ!俺の銃をなんで撃ち落としたかじっくり聞かせてもらうからな!」
鎮圧は、終わったようだが、これからの事を考えると頭が重い。
☆
ジオフロントの会議室へ再び戻ってきた。
行く時もそうだし、帰りもそうだったが全て警察車両で送り迎えであって信号も関係なく最速の移動であった。
幸手が、会議室で待っていた。
幸手の前の、椅子に3人で少し隙間を空けて着席した。
「ご苦労。次回の招集まで自由にしてくれ。報酬は指定口座に国庫から振り込んでおく」
「ここからは、プライベートタイムで良いんですかね?今回、ちょっと納得いかない事がありましてメンバーでの喧嘩はご法度だけど解散後はいっすよね?」
「かまわん。好きにしろ。ただ、その対象が帆井だとするとお前が負けるぞ」
幸手が少しだけにやけたように見えた。
「森田が俺に喧嘩を売る訳がないから、そういう事だな」
志向も少しだけにやける。
メキメキ!
突然、視界に拳が見えて私の顔面にめり込んだ。
気が遠くなるほど痛い!不意打ち?
ヤバイ!
と思った瞬間に、時間が巻き戻った。
「森田が俺に喧嘩を売る訳がないから、そういう事だな」
志向が少しだけにやける。
まって!今回は数秒しか戻ってない!
とっさに、体を伏せる。
頭の上を森田の裏拳が通り過ぎるのを感じた。
伏せた私に、森田の蹴りが迫ってくる。
蹴りが鳩尾に当たった。
めちゃくちゃ痛い!
同じ要領で、森田の攻撃をくらって巻き戻って回避して、再び何回、何十回、全百回と巻き戻る。
これって、素直に一発殴られた方が良いのか?
巻き戻る為にダメージが無いのだが、何回も攻撃を受けて痛い思いをしていて腹が立ってきた。
一度、反撃を試みたが日ごろ鍛えていない私の攻撃など、ダメージを与えることができなかった。
そこで、思いついたのが志向がいる方向へ逃げて、森田の攻撃が志向にあたる様に誘導する事である。
ゲーム感覚で、攻撃をくらって巻き戻って回避して、再び何回、何十回、全百回と巻き戻る。
そして、森田の攻撃を避けて、その攻撃の勢いが止まらずに志向に当たった。
「あ!何さっきから避けてんだよ!この野郎!」
「この野郎じゃねーよ!俺殴ってその言い訳か?」
志向の拳が森田の腹にヒットする!
「ぐは!わざとじゃねーだろうが!」
「わざとじゃなきゃいいのか?じゃあおれも偶然だな」
森田 VS 志向になったので、こっそり逃げだすことにした。
外に出ると、ジオフロント内部の夜中の田舎町である。
地上へどうやって戻るか不明だが、散歩をかねて探索してみようと思う。
なんで、こうなったんだろう?
★作戦司令室での幸手の思考
内閣総理大臣の娘が攫われる案件が私に回ってきたが、救出ではなく鎮圧。
相変わらず、我が組織での人命の価値は低い。
メンバーがCランクの森田とCランク志向しか、すぐに動かせる人がいない悪条件だ。
しかし、志向が推薦したい一般人がいると言う。
一般人で推薦?何の冗談だろうか?
我が特殊機関は、そんな生易しい所ではない!
「スカウトはするが、少しでの不備があれば殺すけど良いのか?」
「あいつは、絶対殺されない気がするねぇ。銃弾の不良品をカンだけで当てる奴ですよ」
志向とのやり取りで興味が湧いたが、調べると経歴詐称してるのかと疑うほどの一般人である。
しかも、記録されている全ての成績が悪い。
しかし、世界大会のライフル部門優勝者?
初心者で優勝などできるものなのか?だが、帆井と言われる人物の過去に、ライフル関係の経験の痕跡がまったくない。
物凄い、帆井には違和感を感じる。
なにか、少しでも逆らったり否定的だったら殺そうかと思っていたがスカウトをして、サインをもらって作戦開始までたどり着いた。
こう言ったら殺そう。
こんな行動をしたら殺そうと思うが、全て想像外の行動する。
過去にも、同じ感覚を感じたことがある。
『ゼロ』?
私が、過去に一度だけ信じられない体験をしたが、それを何故か思い出す。
しかし、その感覚は本物だった。
作戦を開始した直後に、戦慄した。帆井は、Cランクどころではない。Aランクレベルだ。
組織には、A、B、C、Dランクとメンバーと案件をランク付している。
Dランクは見習いレベルで、通常組織のエース級の能力者である。
Cランクは最低限の仕事をこなす一番人数が多いランクである。
Bランクは仕事の処理の内容が優秀なメンバーで、ほぼ失敗は無い。
Aランクは神業的な処理が可能なメンバーで、数人しかいない。
いま、まさにそのAランクの神業を見た気がした。
カーテン越しに、突入部隊のカメラ画像を見て犯人の位置を確認して狙撃。
しかも一発で戦闘不能にした。
狙撃されたのは『スナッチ』の幹部の鈴木だった。彼の体には大量の爆薬が仕掛けられていた。
爆発させぬように頭に一発で処理している。
その後も、『スナッチ』最凶と言われているナイフ使いの田中を志向のカメラ画像から場所を特定して狙撃。
しかも一発で戦闘不能にした。
もはや、2回繰り返されて事から偶然という言葉は消える。
最後が一番驚いたのだが、森田が所詮Cランクのために人質ごと鎮圧しようとしたのを森田の銃を打ち抜いて止めやがった。
見えていれば驚かない。
帆井は、森田が見えていないのだ。
激しく動く森田の右手に持っている拳銃を、持っている人の目線についているライブカメラを見て場所を予測し、カーテンで閉じられた窓の外500mほどから、一発で拳銃だけに弾丸を当てる。
もはや、『ゼロ』しか不可能な狙撃だ。
まさか、帆井が『ゼロ』なのか?
何故、ここに現れた?
しかし、年齢がおかしい。
『ゼロ』であれば、現れたのが30年前と言われているから絶対におかしい。
興味が湧いたのは確かだ。内部調査組織に帆井の調査を依頼した。




