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二枚看板

 いつの世にも好事家はいるもので、スフィンクスの問題を解いてやろうという人間は少なくないようだった。十人ほどの順番待ちの列ができている。


 その最後尾へ並ぶ。時間はまだかかりそうだった。


 と、その時。


「おーい、ソウヘイ! 見っけたよー! こっち、こっち!」


 その声の方を見遣ると、和装のようなパーカーを着た風変わりな少年がこちらへ走ってきていた。年齢は、ちょうど大人と子供の中間くらいに見える。そして私の真後ろで立ち止まると、その子の視線はまじまじと私の制服に注がれた。


「お、学芸員のお姉さん。これはこれはどうも。こんにちは」


「……あ、あぁ、こんにちは」


「解答者の列の最後尾はここでいいんですよね?」


「そうね。君もスフィンクスの問題に挑戦するの?」


「違う、違う。僕じゃないって。スフィンクスの謎を最初に解くのは、あの男さ」


 そう言って少年は、群衆の中を歩いてくる一人の長身の男を指差した。その切れ長の顔の男は、詰襟のシャツの上に着物を羽織っていた。


 それだけでも人目を引くというのに、さらにその男の手には、閉じた赤い唐笠が握られていた。


「この男の手にかかれば、どんな謎も一発解決! 迷い猫探しからハチの巣退治まで何でもござれ。いつも持っているトレードマークから、人呼んで『唐笠探偵』、笠乃屋かさのや草平そうへい、ここに推参!!」


「おい、エフ。ハチの巣退治はもうやらんぞ。金にならんからな。やるんならお前がやれ」


「えー、やだよー。一人じゃつまんないもん」


 ……どうやら私は、変な輩に関わり合いをもってしまったらしい。




「お騒がせしてすまないね、お嬢さん。私は笠乃屋。ここ、博物惑星ミューズで探偵をやっているんだ。どうぞお見知りおきを」


「僕はエフ。ソウヘイの助手のアンドロイドだよ」


「私は第十七学芸課のココ・レオーネと申します。探偵さんたちが、どうしてここへ? スフィンクスの謎ときですか?」


「それも確かに魅力的だが、今回はテーバイの街に用事があってね」


 見学に来た、とは言わなかったことからして、恐らくは仕事の関係なのだろう。


「ココさんこそ、どうしてこちらへ? 第十七学芸課というと、かなり遠いでしょう」


「私は、この故障したスフィンクスが出題する謎を解くために来たのです。テーバイの街へつながる門を開けさせるためにね」


「なるほど、なるほど。しかしそれは妙ではありませんか?」


 笠乃屋が首をかしげる。


「妙、というと?」


「確かに、問題を解きさえすれば通行は可能でしょう。ですが、スフィンクスが故障したのなら、まず呼ばれるべきはエンジニアのはずでは?」


「エンジニアも呼ばれたのです。けれど、どうも故障の原因が分からないらしいんですよ。修理となると時間がかかるから、とりあえずは問題を解いた方が早いだろう、というのが上の方針のようです」


「技術者をなめてもらっては困りますよ。たかがこの程度の故障、修理できない訳がない」


「技術者?」


 疑問を浮かべる私の袖を引っ張って、エフが言った。


「僕らを作ったのはソウヘイなんだよ」


「『僕ら』?」


「こういうことですよ」


 笠乃屋は、手に持っていた唐笠の持ち手を、ココの目の前に差し出した。


 ココは、恐る恐るそれを握る。


 すると。


「体温、脈拍、ともに正常値を保っています。ココ・レオーネの健康状態は良好です」


 突然、唐笠から声がしたのである。


「喋った!」


「驚かせて申し訳ございません。私はイロハ。主、笠乃屋によって造られた多機能傘です。我が主は、いい歳をして悪戯好きな子供ですが、どうぞよしなに」


「これはこれはどうも、ご丁寧に」


「このイロハとエフの二人が、うちの二枚看板でね。よろしく頼むよ」


 不意を突かれて動揺したが、思い返して気付く。


「というか、体温と脈拍って何なんですか、コレ?」


「探偵にとってデータ収集は基本だからね。対象者にイロハを持たせるだけで、色々なことが分かるようにしているのさ」


「便利な道具ですね」


 私がその言葉を発すると、エフは猫のように私の二の腕を軽くパンチした。


「痛っ! いきなり何?」


「イロハは道具なんかじゃないやい。人の形をしていなくたって、ソウヘイの作ったアンドロイドなんだ。僕とおんなじなんだ」


 エフの言葉に私はハッとした。形だけで私はこの傘を道具だと思い込んでいたが、実際には人のように言葉を話し、疑似的にであれ人格を持っている。


 中身としては、アンドロイドと呼ぶべきなのだ。


 エフの主張は、完全に正しい。


「ゴメン、私が悪かった。謝ります」


 するとイロハは少し申し訳なさそうな声で私に声をかけてくれた。


「いえいえ、いいんですよ。ココさんは悪くありません。悪いのは、私みたいなややこしい存在を生み出した我が主ですから」


「俺のせいかよ。全く、造った親に対する尊敬は無いのかね?」


「プログラムされておりません」


「やれやれ、困ったときにはいつもそれだ。今度修理するときには、『尊敬』を学習させておくようにしよう」


 そこで笠乃屋が何かに気付いたように視線を上げた。


「おっと。順番が来たようですな」


 気付けば、私の前に並んでいた人物が、為す術なく退散するところだった。


 ついにスフィンクスとの対決が始まる。

お読み頂きありがとうございます。


謎の探偵と取り巻きが初登場。


キャラ的には、かの「敗戦探偵」から着想を得ています。


ミステリは好きなのですが、探偵が登場する小説を書くのは初めてのような気がします。


探偵らしくなるだろうか……。


あまり期待しないでください。


どうか最後まで見守って頂ければと思います。


それでは。


2018/12/24 初稿

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