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Alastor-アラストル-  作者: 詩音
旅立ち
9/19

其の知らせは突然に

 夜明けと共に村人と傭兵とで結成された討伐隊は今日も訓練のため広場に集合し整列していた。


「はい、皆さん今日も訓練頑張りましょう! あまり時間はありませんからね! まずは準備運動から!」


 昨日のハードな訓練の疲れが抜けきっていない村人達にウィリアムは笑顔で声を張上げた。

 

 皆何とか準備運動を開始する。腰が痛い、筋肉痛で動けん等々思っている様子だが、村を家族を守るためだと自分に言い聞かせ体を動かす。


「今日も陣形確認、各自役割の確認、もたもたしてらんねぇからな! はい動いた動いた!」


 ウィリアムの号令と共に開始され、傭兵団員が昨日分けられたチームそれぞれに付いて指導を行う。

 グランはその全体の把握と討伐時のあらゆる事態を想定し、自身の動きを確認する。


「カイン君、ローベルト君、アニエスちゃんの3人はこっちだ。お前らは俺達に動きを合わせる訓練をやる。守ってやるとは言ったし自信はあるんだが何が起こるかわからんからな。死にたくなければ必死で覚えろ!」


 ウィリアムが3人を呼び出し自分のチームに合流するよう指示した。傭兵団からはウィリアム、イリス、大柄で寡黙な男イーゴリの3人が今回のパーティーらしい。


「はい。よろしくお願いします。それと昨日預かった鎧修理しときましたよ」


 カインはそう言うと昨夜何故かボロボロになっていた防具をウィリアムに渡した。

 

「え? もう出来たのか? ありがとう。まだ支払い済んでなかったから俺凹んでたんだ……」


 防具を受け取り着用したウィリアムはあることに気付いた。


「あれ…心なしか軽くなってる? 動きやすい気もするんだが?」


 それだけ言い少し体を動かしてそのまま黙ってしまった。


「はい、余計な事だとはわかってるんですが気になって…強度が保てるギリギリまで薄くしてます。それとウィリーさんの身体つきを見ると防具が動きに干渉してる部分があるなと思ったので、そこを切り落としました」


 カインが申し訳なさそうに答える。余計なお世話だったと反省しながら恐る恐るウィリアムを見る。


 ウィリアムは物凄い勢いでカインに詰め寄る。


「いやお前凄いな! これは良い! 王都にもこんなの無いぞ? もう鍛冶屋になったら?」


 興奮しながら鍛冶屋になることを薦められた…。


 怒られなくてほっとしたカイン。


「いえ、鍛冶仕事はあくまで趣味なので…それに元から出来上がってる物を弄っただけですから。始めから作るのは出来ませんよ」


 カインは趣味で時間のある時に農具の製作や修理、獣肉用のナイフ製作を行っている。

 村人、ウィリアムには好評だがそれを仕事とするには実力不足だと自分では思っている。


「そっか……勿体ないなぁ……考え直さない?」


「やりません! それより早くしましょうよ! 時間がないですから!」


 鍛冶職人になることを断り訓練を始めるよう催促する。


「おおそうだったな。ここじゃ危ねぇから別の場所に移動しよう。実戦を想定して武器を使うからな。何処か良い場所はないか?」


 気を取り直しウィリアムが移動を提案する。

 

「あっ、それなら彼処が良いんじゃないかな?」


 アニエスが都合の良い場所を思い付いたようだ。カインとローベルトにも意見を求める。

 

 そう言った彼女の意見にローベルトも察しがついたのか、アニエスに賛同する。


 「確かに。そこなら広さ的にも丁度良いかもね。そんなに遠くないし」

 

 納得し合うクレール村の3人を見てウィリアムは案内するよう言うとイリス、イーゴリに合図を出す。

 3人に連れられ村近くの森を歩くこと数分、開けた場所に到着した。


「ここです。僕たちがよく集まって遊んだり勉強していた場所です」


 カインは懐かしそうにその場所を見る。


 ウィリアムが周りを見渡し口を開く。


「ああ、丁度良い広さだ。早速始めるぞ! まず陣形の確認だ」


 そう言い落ちていた小枝で地面に絵を描いて説明を始めた。

 

 前衛は力のあるウィリアムとイーゴリの2人、攻撃の要である。

 2人の丁度中間、そのすぐ後ろにカインを配置する。動きの速いカインは遊撃だ。状況により後衛の護衛、前衛での攻撃参加を担う。

 中・遠距離攻撃の出来るイリスとアニエスは後衛。援護射撃を軸に離れた所から敵を狙い打つ。

 視野が広く洞察力のあるローベルトは攻撃のタイミングや引き際など、後ろで臨機応変に指示を出す司令塔だ。

 

 ウィリアムが配置場所の説明を終える。


「質問がないなら次に移るぞ。戦略のことだが……ローベルト君、君の意見はどうだ?」


 頭脳担当のローベルトへと話を振る。


「そうですね、アニエスの弓は分かるとして、イリスさんの武器はどんなですか? 確か魔女なんですよね? 一度見せて頂きたいのですが。他のお2人は武器を見れば何となく把握出来ます」


 作戦を立案するにはイリスの攻撃力を知りたいとローベルトが進言する。ウィリアムは片手剣、イーゴリは戦斧を装備しているので大体の戦法が想像はつく。


「それもそうね。私の武器はコレよ」


 イリスが金属製のロッドを見せる。


「あそこの木を見ててね?」


 そう言ってロッドを軽く振った直後光弾がロッドより発射され、着弾と同時に閃光と轟音が駆け抜けた。

 

 クレール村の3人はとっさのことに驚き眩しさに耐えられず目を瞑る。耳も痛い。

 

 そして数秒後にそっと目を開け指定された木を見る。その木は幹が抉れ倒され、微かに焼け焦げた臭いもしている。


「何? 今の……」


 アニエスが無惨に倒された木を呆然と見ている。


「攻撃魔法ですよね? 始めて見た……」


 カインも同様だ。


「でも…今詠唱してませんでしたよね?」


 それと同時にイリスが詠唱を破棄して魔法を使ったことに驚く。


「確かに俺も呪文を聞いた覚えがない。魔法を使うには詠唱が必要だって本で読んだんですが……」


 ローベルトもカインに言われその事に気付く。魔女が力を行使する際には不気味な呪文を唱える、と大抵の書物に書いてあるし世界中の人々がそう認識している。

 しかしイリスは呪文を唱えていなかった。詠唱破棄が出来るのは相当上位の魔女ではないのだろうかと、3人は放たれた魔法への恐怖と共に羨望の眼差しをイリスへ向けていた。


「ああ……そのことなんだけどね……? 夢を壊して申し訳ないけど……殆ど、いえ全ての魔女が詠唱を必要としてないわよ?」


 イリスが頬を掻きながら申し訳なさそうに告げる。


「「「え?」」」


 クレール村3人はイリスが何を言ったかすぐには理解出来ない。


「あのね、詠唱なんてしてたらその隙に殺されちゃうでしょ? 魔女が参加してる大抵のパーティーには護衛担当が居るけど、複数に囲まれたらどうしようもないわ。それにわざわざ呪文を大声で言うなんて敵をビビらせる時くらいにしかしないわよ。それでも恥ずかしくてあまりしたくないのだけどね」


 イリスは人差し指を立てて左右に振りながら3人に諭すように事実を話した。魔法に詠唱は必要ないそうだ。常識が覆った瞬間だった。


「そ……そうだったのか……マジかよ。色んな本の情報は嘘っぱちか」


 ローベルトはその真実に驚いたが、薄々確かに詠唱は邪魔だなと戦略家らしい考えを持っていたのも事実だ。


「わかりました。他に攻撃の術はありますか? あとは1日に何発打てますか?」


 素早く頭を切り換え質問する。


「そうね、今使ったのは爆破魔法。他には敵を氷らせる魔法と炎の魔法よ。目を眩ませる光と目潰しの闇もあるわ。どれも今のところ1日に15発程度が限界ね。少ないかしら?」


 自分に使えるのはこれだけとイリスが説明する。

 

 ローベルトは顎に手を添え考える。


「いえ、それだけあれば充分だと思います」


 再び試案に入り数秒した後ウィリアムへ質問する。


「ウィリアムさん、コカドリーユの知能はどれ程か、あと行動パターンはわかりますか?」


「まあ化け物と言えど所詮鳥だからな。知能は低い。目に入った人間、つまり奴にとって餌の目ん玉をまず襲って喰らうって感じだ」


「なるほど、わかりました」


 それだけ言うと小枝を手に取りウィリアムの描いた図に書き足していく。


「これが俺の考えられる最適な方法ですかね。見てください」

 

 皆ローベルトの書いた図を囲み作戦概要を真剣に聞く。


「まずは前衛の2人とカインを入れ換えます。危険は伴いますがカインには囮をやってもらう。モンスターがカインに気を取られている隙にタイミングを見計らって俺が前衛に攻撃を指示します」


 ローベルトの案に一同ざわめく。

 当然だ。戦闘経験の無いカインを最前列に置くのはあまりにも危険すぎる。


「待てローベルト君。それは危険すぎる! 俺達にカイン君を守れる保証はないんだぞ!?」


 ウィリアムが止めに入るがローベルトは遮り話を続ける。


「まぁ聞いて下さいよ。カインは足が速いし反射神経も抜群だ。危険な賭けですがギリギリでモンスターの攻撃にも対処出来る計算です。それに敵がカインに襲い掛かる前に攻撃指示を出します。それでカインが逃げられる確率は格段に上がる。出来るよな? カイン」


「ああ。かなり驚いたけど僕にしか出来ないことならやらせてもらうよ。僕はローベルトの案を支持する」


 ローベルトを信じているからこそカインはこの戦略に乗ることにした。


 ウィリアムは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。他傭兵2人も同じ表情で押し黙っていた。いくらなんでも無茶過ぎると。


「前衛の攻撃が通ったら3人は速やかに離れる。その直後に後衛の2人には射撃を行ってもらいます。おそらく奴は後衛に目を向けるでしょう。そしたらまたカイン、お前は再びコカドリーユの注意を引いてくれ。後の手順は繰り返しだ。以上が俺の考えうる最良の手段です。前衛お2人、カインをくれぐれも頼みましたよ」


 戦略を語り終えローベルトは皆の返事を待つ。


「無茶だわ……」

 

 そう言ったイリスにカインは自身の考えを話す。


「イリスさん。僕はこの討伐が終わったら村を出て傭兵を目指そうと思っています。これくらいの事も出来ないのなら傭兵になるなんて夢の又夢です。それにクレアを授けてくれた村長にも申し訳が立ちません。やらせて下さい!」


「でも……」


 当然納得いく訳がないイリスは賛同しようとしない。


 目を閉じ考えていたウィリアムが口を開く。


「わかった…その案でいこう」


「ウィリー!」


 そう決断したウィリアムをイリスが睨む。この男は何て無茶苦茶な判断をするのか。


「カイン君は俺とイーゴリが全身全霊でサポートする。良いな? イーゴリ」


「了解」


 ローベルトの案に男2人も賛同する。

 

 結局イリスの反対を無理矢理押し切る形で作戦が決定された。


「どうなっても知らないわよ……」


「出来るの? カイン……」


 心配そうにカインを気にするアニエス。一度言い出したら聞かない性格であると知っているが、今回のことは気が気でない。


「うん。やるんだ」


 決意に満ちた目でそう言ったカインを、アニエスはただ見ていることしか出来なかった。


「援護は任せて……」


 一言だけ必死に絞り出して。


 その時。


「団長!」


 馬を急いで走らせ6人の元へ傭兵の1人が向かって来る。


「どうした? 何かあったのか!?」


 ウィリアムはその様子にただ事ではない雰囲気を感じ取った。


 団員の男が慌てて馬を降り話し出す。


「ここから西の森で奴が食い散らかした残骸を見つけました! 内臓やら肉片やら散らばって……それはそれは悲惨な現場でしたよ……もう粗方喰い終わった後だと思います」


 男の知らせに黙り混む。予想よりも早くにモンスターが現れるかもしれないと皆思ったからだ。


「何てこった……早くても後2日後じゃねぇのかよ!」


 ウィリアムが唇を噛み頭を掻きむしる。


「お前はすぐ村に戻って住民の避難を開始させろ! 俺達はこのまま配置に着いてモンスターに備える! 急げ!!」


 ウィリアムの命令に了解し団員は村へ急いだ。想定よりも早い段階で事を進めなければいけないため焦りが先行する。


「頼んだぞ……」


 去り行く団員の背中にウィリアムが小声で語りかけた。


「全員ローベルトの案は頭に入ってるな!? 俺達も急ごう!」


 ウィリアム団長の掛け声で全員走り出す。不安を圧し殺しながら。

 

 グェッグェェェェ!!!!!

 走りながら全員が背中に化け物の不気味な鳴き声を感じていた。

カイン:はい!突然始まりましたこのコーナー!

作者の気紛れで不定期に続けていくそうです!

第一回目のゲストは傭兵ギルド、リコリス・ラディアータからウィリアムさんとイーゴリさんにお越しいただいております!


ウィリアム:はいどうも~。

イケメン団長ウィリアム=フィールドでっす★

皆ウィリーって呼んでね!


カイン:まあイケメンかどうかは置いといて……。

よろしくお願いします!

いやぁ、やっと話が動き出しましたね。

僕頑張っちゃいますよ。


ウィリアム:まぁ死なない程度に頑張ってくれや。

君主人公なのに目立ってないからね。

今まで殆ど喋ってないし?


イーゴリ:俺なんて初登場で「了解」だけである。


ウィリアム:頑張ってイーゴリちゃん!

次はいっぱい台詞あるって!

その斧も思う存分振り回しちゃって!


イーゴリ:うむ。作者に進言しておくのである。


カイン:イーゴリさんてそんな喋り方だったんですね…。

あの、お互い頑張りましょう……。

では次回!いよいよ討伐開始!


ウィリアム:可愛い子ちゃん達からのお便り待ってるぜっ!


カイン:ウィリーさんちょっと黙って!

皆さんこれからも末長く『Alastor-アラストル-』をよろしくお願いします!


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