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Alastor-アラストル-  作者: 詩音
旅立ち
6/19

傭兵

「そんな訳で是非討伐に協力してもらえませんか?」


 カインは複数の猟師達に次々と声を掛けている。渋る者、直ぐ様参加を申し出る者、思案する時間を欲する者様々だ。

 

 粗方声を掛け終えた頃、広場入り口付近にグランが数人と一緒に歩いてくるのが見えた。

 グランの元に駆け寄り、アニエスとローベルトの討伐参加、現在共に居る事を伝え2人の所へグラン達と向かう。


「アニエスとローベルトの他に協力してくれる奴は居たか? こっちは今のところ俺を含めて6人だな。まだ話せてねぇ連中も居るが多く見積もっても頼りになるのは後5人くれぇだと思う」


 グランは同伴してきた農夫仲間を顎で指しつつ尋ねた。小さな村なので皆顔見知りだが、どの男達も大柄で日々畑を耕し日焼けしている為か更に屈強に見える。


「皆さんご協力ありがとうございます。どんな事態が起こるかわからない危険な仕事なのに引き受けてくれて……頭が上がらないです」


 グランが連れて来た者達に深々と礼を言い、先程声掛けした結果協力を引き受けてくれた者は2人、他は数名返答待ちであることを伝えた。


「なぁに、俺達の村のことだ。他人にばっか任せてらんねぇやい」


 そうだそうだと農夫たちは口を揃える。


 皆頼もしい限りだとカインが思っている時グランは口を開いた。


「今のところ11人か……傭兵の数にもよるがちと少ねぇかな……」


 頭を掻き悩ましい表情をしている。モンスターの脅威がどれ程のものなのか誰にもわからないが故に戦力は少しでも多く欲しいところだ。


「確かに敵に関して情報が無いですからね。その辺りも含めてどう動くか話し合いましょう。何通りも想定しておいた方が良いでしょうね」


 カイン含め全員が同じ意見だった。

 話しながら歩いて数分後にローベルトとアニエスが待つ所に着いた。


 皆を一列に並ばせ、その列の前にグランとカインが立つ。


「皆さんご協力感謝します。今日はもう陽が沈んでしまいますので挨拶くらいしか出来ませんが、明日朝から少しでも生き延びる可能性を高める為に訓練を行います。コカドリーユの出現まで時間はあまりありませんが、宜しくお願いします」


 カインが頭を下げる。皆緊張感と共に戦闘へ向けて士気を高めているようだ。


「どんな陣形を組むのか、誰が何の役割をするのかをローベルト、君に指揮してもらいたいんだが良いか?」


 ローベルトの方を見て今回の指揮を任せたいと意見する。


「それが良い。俺もお前にはショーギで勝ったためしがねぇ。適任だ」


 グランも同感だと頷きローベルトに話し掛ける。


「ああ構わないよ。俺にはそれくらいしか出来ないし、一番死なないポジションだろうからね」


 そうくるだろう事はローベルトにもわかっていたのか、直ぐに了承する。


「皆武器は何が使えるか教えてよ。その情報があれば一晩で十数通りは考えられるから」


 もう自分の戦いは始まっていると言うかの様に皆の実力を把握しにかかる。全員の情報を聞き出しローベルトは思考を開始する。口では嫌と言ってはいるが、戦略を立てるの自体は好きなのだ。


「よし、今日はこれで解散して明朝日ノ出と共にここに集合だ。

 良いな?」


 グランが解散を告げカイン、ローベルト、アニエスを残し皆取り合えず帰って行った。


「アニエスもローベルトもありがとよ。若い奴らが居ることは頼もしいぜ。だが危険と判断したら直ぐに逃げるんだぞ?」


 そう言って3人の肩に1人ずつ手を置く。皆表情を引き締めてグランの顔を見ていた。


「これから皆で夕食でもどう? カインとローベルトに荷物を運んでもらわないといけないしね。今後の事も情報を共有した方が良いでしょうし、父とも話した方が良いわ」


 アニエスが3人を夕飯に誘う。


「良いな。腹も減ってきたし是非行かせてもらおう」


 グランは笑顔で誘いに乗り、カインとローベルトも言葉に甘えることにした。


 4人は村長宅に到着し、アニエスが夕食の準備をしている間食卓を囲み今日集まった戦力の報告と今後の方針を話し合うことにした。

 カインとグランが現在の戦力と増減の見込みの報告、ローベルトは現段階で考えることの出来たプランを村長と擦り合わせる。


「そうか…ローベルトのプランの中で現段階では村人を2、3ヶ所に集め護衛に数人、それぞれ三人一組で動く方が最適だろうな」


 村長は髭を触りつつローベルトの作戦の中で最適であろうものを選択する。


「村長、例の傭兵の戦力はどんなもんですかぃ? それによってローベルトのプラン立ても変わってくると思うんですが」


 グランは気になっていた傭兵の人数を聞く。ローベルトもそこが重要なとこであると村長の方を見て体を乗り出す。


「そうだな、大事な事であった。多くて10人ほどであろう。だが皆腕利きの猛者どもだ。頼りにしてくれて良い」


 そう答え水を口にする。


 その言葉にローベルトは質問する。


「実際コカドリーユに対してその人達は最低何人で対処出来るかわかりますか?」


 腕利きと聞いても相手はモンスターだ。初めての事でありモンスターについて何も知らないローベルトの疑問は最もである。


「おそらくだが3人居れば充分だろう。しかし今回は村人を守らねばならんのでな。前線は馴染みに任せ、万が一を考え我々はその支援及び村人の護衛避難が主な仕事だ」


「なるほど……となるとやはり村長の選択したプランを軸に傭兵の配置を本人達と話し合う必要がありますね。最も俺の案よりも経験者の方がどうすべきか分かっているでしょうし。到着予定は?」


 自分の経験不足の部分を認め冷静に対処しようとするところがローベルトの長所だ。決して背伸びはしない。


「奴らの事だ。明日午後には着くだろうな」


「話はまとまったかしら? 準備が出来たから一旦中断して食べましょう」


 傭兵の戦力や訓練の内容を話し合っているとアニエスが夕食の支度を終え料理を運んで来た。カボチャのパイ、カインが今朝仕留めた鹿肉のスープ、その他豪華な食事が食卓に並べなれる。


「今出来ることは大体話したから美味しく頂くよ」


 カインの言葉に男達も同意し、それぞれ自分の取り皿に料理を盛って食事に取り掛かる。


「それにしてもあのおてんば娘がこんな美味そうなもん作るようになったってか」


「まあグランさん。今日はお酒いらないの?」


 とても良い笑顔だがアニエスの目は笑っていない。


「いや酒は必要だ! 良い嫁さんになるってこった! なあカイン、ローベルト?」


 慌てて2人に話を振る中年グラン。


「ええ……俺アニエスみたいなのはちょっと……」


 明らかに嫌そうな顔をするローベルト。


「おいローベルト。お前少し賢いからって調子乗るんじゃないわ! 娘はやらん!」


 普段は渋め初老の村長であるが、娘の嫁入り話になると慌てる。


「まぁまぁお父さんそのくらいにして下さい」


「誰がお父さんか! 鍛練内容を劇的に増やしてクレアの代金請求しても良いんだぞ、え? カイン」


「じょ……冗談ですって! 鍛練頑張ります!」


 ちょっとしたジョークのつもりが戦士の目で睨まれたカインは涙目である。


「娘は誰にもやらんからな!」


 コカドリーユも逃げ出すのではなかろうかというオーラを発しつつ威圧する村長であった。


「父さん……そのくらいにしないとグランさんにこのお酒出しちゃうよ?」


 アニエスの手には見るからに高価なワインボトルが握られている。村長が隠れて飲んでいる秘蔵のワインだ。


「おい娘よ! 何故それを! 王都でしか手に入らん私の貴重な……!」


「村長さんよ。それを見せられちゃあ俺も味を知らなきゃ帰れねぇぜ?」


 空のグラスをアニエスの方へ向け、注いでくれと言わんばかりだ。村長は強面に似合わない何とも情けない顔をしている。

 こうして楽しい夕食は過ぎていった。


 翌朝、まだ夜の闇が少しばかり残る薄暗い時間。カインは日課の走り込みと、クレアを早く手に馴染ませるために抜き身での素振りをしていた。

 

 クレアでの素振りが一段落し村の外周を走っていると、村の入口に見慣れない集団が居るのを見つけた。


「そこの少年! 朝早くにすまないが少し良いか?」


 その中のひとりが声を掛けてきた。

 

 カインはその男に近づき返事をする。


「何でしょうか?」


 近くでその男を確認すると、使い込んだ鎧を全身に纏っている。その横に顔は見えないが大きなフードの付きの漆黒のローブを被っている者が1人、更に後ろには同じく装備はバラバラだが防具を身に付けている者が8人。


「マスター=ルビンスタインのお宅を探しているんだが、案内してくれないか?」


 全身鎧の男が道案内をしてくれと頼む。


「今はマスターじゃなくてこの村の村長よ。何度言ったら覚えるの?」


 ローブを被った者が口を開いた。声からするに女性だろう。


「どっちでも良いじゃねぇか。俺達のマスターであることに変わりはねぇ! で、引き受けてくれるかな少年?」


 鎧の男が話を中断してすまないとジェスチャーで謝り、再度案内をしてくれるか尋ねる。


「村長の家ですね? わかりました。僕も向かう予定だったので案内しますよ。それから少年じゃなくて僕はカインです。カイン=ニコラエヴァ」


 少年と呼ばれるのが嫌なのかカインは名乗り道案内を引き受けることにした。


「そうか、すまないなカイン君! 俺はウィリアム=フィールド。ウィリーで良い。こっちのローブの奴はイリス=S・ルーナ、後ろのその他大勢だ! では案内を頼むよ。行くぞお前たち!」


 鎧の男がそう名乗り大雑把に仲間を紹介した。


「よろしくね、カイン君。ウィリーがこんなのでごめんね? 他の皆は後できちんと紹介するわ」


 ローブを取ると透き通る様な肌の金髪の女性が姿を現し、カインに向かってウインクする。


「いえ構いません。こちらです」


 カインは苦笑いし村長の家に向かって歩き出した。ウィリアム達もカインに着いて行く。


 道中カインは薄々思っていたことを尋ねる。


「皆さんが村長の依頼を受けた傭兵ですよね。村長とはどんなご関係で?」


 成りからして傭兵であろうことは想像がつくが、村長の昔馴染みとはいったいどんな関係なのかをカインは知りたかった。


 カインの質問にウィリアムが答える。


「ああその事か。俺達は皆マスター=ルビンスタインを長とした傭兵ギルドに属していた。あの人はそれはそれは凄い戦士だったんだぜ? グスタフ=ルビンスタインの名を聞けば大抵の奴は震え上がったもんさ。それに愛剣のクレアを振るう姿は一種の芸術を観てるようなもんだったな!」


 まるで自分の事であるかのように誇らし気に話す。


 その事実を聞いてカインは驚いた。まさか自分の住む小さな村の村長がそんなに凄い人物だったとは。


「そうだったんですか……何故今はこんな村の村長をしているのでしょうか?」


 そこまでの実力者ならある程度の地位を獲得し不自由ない暮らしが出来ただろうにと考える。


「ああ……ある時急にギルドの解散を告げられたから俺達にも解せないな。まぁ何だかんだで当時の奴ら殆どが俺のギルドでまだつるんでんだけどな!」


 少し寂しそうな顔でウィリアムは呟く。よほどマスターの事を慕っていたのだろう。他の面子も皆同じような表情をしている。


 あれこれとギルドについて話している内に村長の家に到着した。


「ウィリーさん着きましたよ。ここが村長の家です」


「おお! 感謝するよカイン君!」


 いいえ、ついでですからとカインは答えドアをノックする。

 

 この傭兵団との出会い、コカドリーユの討伐が今後のカインの人生を大きく動かすこととなる。

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