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Alastor-アラストル-  作者: 詩音
序章
3/19

お伽噺

『昔々、戦がありました。長い長い神々の戦です。

 

 世界は3つに分かれ、長い長い戦が続くこととなりました。


 荒神ユーザと浄神ユパは手を組み世界を支配しようとしました。

 

 拳神シュナは巨神ルシャと共に抵抗を試みました。

 

 力無き美神フロンは堅神ゲルム、豊神エングラート、熱神スパーナ、他の小さな神々と融合し集合神オーとなりました。

 

 戦は終わらず世界は荒れ果て、神々は疲れていました。


 この戦を終わらせようとそれぞれの神は「天変地異の神アラストル」を召喚し、一斉に攻撃を始めました。


 そして大地は焼き尽くされ、毒されて世界は滅んでしまったのでした。


 汚れた大地を見て憂いた神はアラストルを封印し、数千年の月日が流れました。


 神の剣アラストルを手にした者は世界を滅ぼし、世界を手に入れる力を授かることとなるでしょう。』



「……おしまい。もう寝たかしら?」


 隙間風の吹き込む寝室で穏やかな寝息をたてる幼い我が子に女は呟き、読み聞かせていた本を静かに閉じると木製の椅子から立ち上がる。

 蝋燭が照らす腰まで伸びた艶やかな銀髪、灰色の澄んだ瞳。顔にしみひとつない女は気品に溢れている。継ぎ接ぎだらけの寝間着と貧しい住処に対し、女の佇まいは違和感を覚える。


「このお話が本当に好きなのね…男の子だものね」


 女は床が軋んで音を立てないよう我が子の眠るベッドへ近づき、微笑みかけ自分と同じ髪色の頭を撫でる。


「う~ん……ボクがアラストルを見つけるんだ……そうすれば……お母さんに……楽を……すぅ……」


 撫でられくすぐったいのか、夢を見ているのか、子は呟いた。


「ふふっ……お伽噺を信じてるのね。でもね、例え貧しくてもカイン、貴方が居ればそれが一番の幸せなのよ」


 僅かに憂いを帯びた表情で呟きそっと布団を掛け直す。

 蝋燭を消し女も横になり、我が子と共に眠りに落ちる。

 

 静かな夜は更けていった……。


 

 数年後のとある朝、青年が目を覚ます。

 大きく伸びをしてクシャクシャした柔らかな銀糸のような癖毛をかき混ぜた。


「懐かしい夢だったな。確かあの本はあそこにしまったはず……」


 ショートヘアだが、前髪だけがやや短い。利発そうな灰色の丸い瞳は想い出の夢で暖かな色に染まっていた。


 幼少の頃の夢を見てもう一度読みたくなったのだろうか、乱れた寝間着と寝癖もそのままに、母から読んでもらった本を探す。


「あったあった! 懐かしいな」


 古びた本をベッドの下から取りだし埃を払う。表紙は日に焼けて色落ちしてしまっているが、中身は昔見たままだ。


 少しばかり読んでみる。


「やっぱりアラストルの話は良いな。必ず存在するはずなんだよな」

 

 特別な想いのある本を見る瞳は、純粋な少年のように輝いている。


「カイン起きたの? 朝食出来てるわよ」


 母の呼ぶ声が聞こえる。


「今行くよ!」


 青年は読みかけの本を閉じ、寝癖のついた髪を手ぐしで直す。

 着古した寝間着から母が丁寧に手織りして草木染めしてくれたリネンの若草色のシャツに袖を通し、朽葉色のズボンに着替えると、滴る森の木々のような抹茶色の靴を履いた。

 

 着替えを終え、くすんだ窓で寝癖が直ったのを確認し母の所へと急ぐ。


 カイン今日の予定は?

 

 ローベルトと仕掛けた罠を見に行って、それからグランさんに頼まれた柵の修理かな。


 そう、グランさんによろしくね。それからこのスープをアニエスちゃんの所に届けてくれない?


 わかった!



 朝食時の何気ない会話。

 後に英雄と呼ばれる青年の物語。

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