違和感☆
久々の更新でございます。
後頭部を強打する鈍い音が会場へと木霊する。倒れたカインは動かない。
「お返しだよ」
男は横たわるカインを見下しつつ微笑みかける。
試験官がカインの状態を確かめに近付き、顔を覗き込む。
試験官の気配を感じたカインは急ぎ飛び起きた。流れ出る血を手の甲で拭い、ふらつく足で何とか剣を構え直す。
先ほど痛みを感じた左太股には微かな痺れを感じていた。
「まだまだこれからだよ?」
男は微笑みを浮かべたまま、剣を左右へと揺さぶっている。カインの様子を見て満足気だ。
再び攻撃の為に動き出す。先程とは違い1歩1歩ゆっくりと。
回復の追い付かないカインは、一先ず防御に専念することを選択した。未だ痺れの残る左足を引き、右手に握る剣を立て気味に構える。
細目の男は右斜め上から大振りに斬りつける。防御されてもお構い無しに同じ軌道での攻撃を繰り返す。
その太刀筋は対戦者への敬意は皆無。弱った者を屠る悦び、ただそれに酔いしれているのみであった。
「どうしたんだい? 防ぐだけかい?」
欲望に身を任せた笑みは、下卑たものへと変貌していた。
カインは単調な斬撃を防御し、反撃の機会を窺っている。
しかし隙を突くことが出来ない。単純な攻撃ではあるが、鋭い太刀筋は経験不足とダメージの残るカインに易々と反撃の機会を与えなかった。
カインは左側から振り下ろされた剣を受け、間合いから逃れるため半歩下がる。
そして再び攻撃が飛んでくる。防御してまた下がる。
何度その攻防を繰り返しただろうか。何とか反撃の機会、敵の隙を見つけようとしている。
細目の男は半歩下がり、左手を後ろへと回し木剣を構え直す。
直後カインは右膝に鋭い痛みを感じた。
「痛っ…!」
痛みにより視線を相手から外されてしまう。咄嗟に自分の右膝を見たため隙が生まれた。
「ほらっ! また隙が出来た!」
口角をこれでもかと上げ、男は嬉々とした声を挙げる。同様に右斜めから剣を振り下ろす体勢に入る。
カインは急ぎ視線を相手へと戻し、以前と同じ軌道上に剣を構え防御姿勢を整える。今まで同様の攻撃ならば、それで防ぐことが出来ただろう。
しかし、甘い考えだと後悔しても既に遅かった。
男はカインが構えるのを確認すると歪んだ笑みを浮かべ、剣の軌道を横凪ぎに変更した。
何の変哲もない横凪ぎではあるが、判断力の鈍ったカインにとって、素早く対応することは至難の技であった。
男の攻撃はカインの右頬に直撃し、木剣と骨の衝突する鈍い音を立てた。
「ぐ…!」
カインは声にならない悲鳴をあげ、衝撃をまともに喰らい左へとぐらつく。受け身も取れぬままに倒れ混み、地面に左肩と頭を強く打ち付けてしまった。
余程強くぶつけたのか、左こめかみから鮮血が流れ出す。
そんなカインの様子を見て相手はご満悦だ。左手で切っ先を弄びながら、笑みが零れるのを抑えられないでいた。
「くくく……単純な手に引っ掛かるようじゃぁこの先が思いやられるねぇえ? ほら! 立ちなよ! まだまだやれるんだろう? 遊んであげるからさぁ! ねえ!」
左手でカインを煽り、男は高らかに嗤い続ける。
男の攻撃を警戒しつつカインはゆっくりと立ち上がり、震えと痺れを止める為ふらつく足に何度も拳を叩き付ける。
「随分と余裕ですね。経験不足の僕に苦戦するようでは先が思いやられますよ?」
頭から流れる血が目に入らないよう、左手の甲で拭い強がってみせる。少しでも回復の時間を稼ぐ為の安い挑発だ。
その態度が相手は気に入らない。
「はぁ? ふらふらのくせに良く言う! 良いだろう。すぐ楽にしてあげるよ!」
剣をカインの方へ向け、左手を後ろへ回す。自分の身体で死角となる位置だ。
その不自然な構えにカインは違和感を覚えていた。決まってこの構えを取った後に刺すような痛みを感じたからだ。
何か仕掛けがあるはずだと、男の動きに全神経を集中させる。
細目の相手は剣を構えたまま切っ先を左右に振り、摺り足でゆっくりとカインへ近付く。相変わらず不気味な笑みは浮かべたままだ。
カインも刃先を相手へ向け、じわりじわりと右側へと動きつつ相手の出方を伺っている。
こちらから攻撃を仕掛けるのか、また防御に徹するのか決めあぐねていた。
付かず離れず繰り返している内に、男が仕掛ける。右足を踏み出しカインの左肩目掛けて突き出す。
カインは迫り来る切っ先を横目で追いつつ身体の重心を右側へ傾ける。そして人差し指と中指の力を緩め、やや下方気味に構えた剣を相手の右手首下側へと潜り込ませる。
男の腱を斬り上げるため、すかさず2本の指に力を込める。力が加わったことで柄頭は下がり、その反動によって切っ先が鋭く跳ね上がった。
細目の男は安い挑発に乗って先に仕掛けているが、カインの得意とするこの型への警戒を怠ってはいなかった。
右手首に切っ先が当たる寸前、咄嗟に剣を立て接近する刃先を柄頭で受け止める。勢いを殺したことを確認した後、剣は立てたままに下方へ力を込め、カインの体勢を崩しに掛かる。
思わぬ防御方法と崩しにカインの重心は不安定になる。前屈みのまま急ぎ剣を引き、次の攻撃へ備える。
相手はカインが立て直す時間を与えないよう、直ぐ様次の攻撃を繰り出す。
間合いはそのままに身体を反らせ右肘を後方へ引き、上半身のバネを利用しカインの右肩目掛けて鋭い突きを放った。
回避行動は間に合わないと判断したカインは剣を横にし、右肩に迫る切っ先へ鍔を向ける。
鍔に剣の当たる衝撃を利用し、体勢を立て直す。
直後、剣を縦にし相手が武器を引く前に脳天へ真っ直ぐ振り下ろした。
防御は追い付かないと踏んだ男は、右足に力を込め身体を反らせ回避した。
刃は眼前で空を斬る。
透かさず右足を踏み込みカインの喉元目掛けて突きを放つ。
カインは踏み込んだ右足に更に力を込め、無理矢理に後方へと身体を移動させつつ頭を右へと傾ける。
男の剣はカインの首筋左側を掠める。
カインはすかさず左手で男の右手首を掴み、相手の勢いを利用し左斜め後方へ引き倒そうと試みる。
同時に、相手が体勢を崩した直後、攻撃出来るよう木剣を胸の前に移動させる。
男は勢いそのままに腕を引かれ、体勢を崩した。体勢を立て直そうにも左足は浮き、右足にも力は入れることが出来ない。
右手を掴まれたまま横向きに倒れそうになっていた。
この機会を逃すまいと、カインは右手に握る剣を固く握りしめ、渾身の力で相手の心臓目掛け突きを放つ。
切っ先が男の左胸に迫る。
男は右手首を掴まれた状態のため、回避することは困難に思わた。
しかし右腕と腹筋の力を使い何とか上体を捻る。
カインの持つ木剣はまたも空を切る。
男は捕まれた右手を強引に引き寄せ、捻った上体を利用しカインの左手を小脇に抱え込む。そのまま地面に投げ飛ばし、腕の1本でも破壊してやろうかという魂胆だった。
自分の左手をこのまま預けていては悪い予感がする、とカインは敢えて握る力を緩めずに自分へと引き寄せた。
そして、迫る男の顔面に向かって頭突きを叩き付けた。
予想だにしなかった反撃、男に僅かな隙が出来る。
その間にカインは手を離し、お互いの間合いから僅かに外れた場所へと後退する。
切っ先、目線、足捌き……両者は全神経を集中させる。
時間にして数秒だが、数時間にも感じられる。
様子を見守る他の受験者たちも固唾を飲む。先に動くのはカインか、それとも氷のように冷たい笑みを浮かべる男か。
「……いきます!」
静寂を切り裂いたのはカインだった。
木剣を逆手に持ち、相手の左方向へ飛び出す。
右足で踏み切り跳躍、同時に敵の頸動脈目掛けて剣を突き出した。
至極単純な攻撃に男は違和感を覚えつつも、難なく左肩を後方へ退き紙一重で回避する。
しかし、眼前にカインの左膝が迫っていた。
画:鳥海 鼎 様
カイン:はい! 後書きのコーナー始まります!
ということでね、長らくお待たせいたしました。
シルフィア:いやほんとばい! 全っ然更新しとらんっちゃもん!
あっ、皆さん久しぶり! 真のヒロイン! シルフィアばい!
アニエス:ちょっと待ってシルフィアちゃん!
正規のヒロインは私……ってこの件大分前にやった気がする!
ええっと、皆様お久しぶりです。眼鏡っ娘のアニエスです。
カイン:えっ、改めて自己紹介する感じなの?
皆様ご無沙汰しております、主人公のカインです。
ほら! ローベルトも改めて自己紹介!
ローベルト:え? 俺もやんの? 正直メンドクサイ……
シルフィア:ちゃんとやれよガリガリ!
ローベルト:うるせぇチビッ子! 人の容姿をバカにしちゃいけません!
シルフィア:今チビって言うた! 自分もバカにしとるやっか!
カイン:はいはい、仲良く仲良く。
ええ更新が止まってる間にですね、何と! 僕たちのビジュアルが公開されました! 皆拍手!
一同:わー!(拍手)
シルフィア:ワタシ達のイラストば描いてくれたとはね、作者もバリお世話になっとる鳥海鼎さんばい!
鼎さんほんとにありがとうばい!!
お礼はしますけん! 作者が!!
アニエス:鳥海鼎さん、可愛くデザインして頂いてありがとうございます! ワンピースも凄く素敵です!
ローベルト:俺のこともイケメンにデザインしてくれて、どうもありがとうございます。
カイン:僕も主人公らしく描いていただきありがとうございます!
自分で言うのもアレですけど、凄く好青年ですね!
作者に代わりこの場でお礼申し上げます。
そして本編の挿絵も沢山いただいております! 皆様も是非チェックしてみて下さいね!
シルフィア:ほんとどれも可愛く描いてくれとるばい。特にワタシ! 真のヒロイン決定ばい!
アニエス:ちょっと待ってシルフィアちゃん!
正規のヒロインは私……ってもう良いよ!
ローベルト:はいはいお前らちゃんとしてくれよ。
ということで、これからも不定期に更新予定なので『Alastor-アラストル-』をよろしくお願いするぜ!
カイン:ちょっと待ってローベルト! そこは主人公の僕に〆させてよ!