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Alastor-アラストル-  作者: 詩音
王都
13/19

シルフィア

クレール村を出発し王都に到着しました。

新章の始まりです!

 クレール村を出発して3日後、途中狼の群に襲撃されるハプニングもあったがカイン達は無事王都に到着していた。


 王都クロエ。ダフニス王国の首都で人口10万人程の都だ。クレール村より北へ約40里、徒歩3日の距離に位置する。

 

 国を治めるクロード=ダフニス12世は若王ながら善政を施すと評判であり、流入してくる民も年々増えている。カイン達の暮らすクレール村も王国の一部だ。

 

 国は貴族制度を採用しているが、貴族に政治実権はなく実質王の独裁政治となっている。町村の代表者1名を各自治体で決定し、住民の経済事情や仕事等をまとめ貴族または王族へ報告する。その後税が決定されるという仕組みだ。

 

 更に貧しい村から徴収する税は住民の負担をなるべく減らせるよう考えられている。そのためダフニス王は王都に暮らす者だけでなく、小さな村や町の民からも大変慕われていた。

 

 城に籠りっぱなしではなく、城下へ降りてきては王自ら民衆との交流を楽しんでいる。大衆食堂で食事をし民衆と雑談を楽しむなど、王と民の距離が近いのもこの国の特徴だ。


 経済支援や兵の派遣を積極的に行っているため、周辺諸国との関係は良好である。

 ただし、王国の富を不埒にも狙う国があれば容赦無く殲滅するという内容の御触書を他国にばら蒔いてもいた。それだけ軍事力にも優れているという自信があるのだろう。


 王都は様々な商業施設が乱立し常に活気に満ちており、経済は上々の様だ。現王が発令した商業の自由化、貿易関税の撤廃による恩恵だろうか。様々な人種が忙しなく働いている。

 

 ウィリアム達の傭兵ギルドや商業、建築、鍛冶等様々なギルドを統括する本部もこの王都にある。王都で何かの職に就く際にはギルドへ所属する義務がある。既存のギルドに参加するか自身で立ち上げるかは自由だ。

 リコリス・ラディアータもグスタフが王都で設立しウィリアムが引き継いだ形になっていた。



「俺達は本部にコカトリス討伐の報告をしに行くからここまでだな。試験は明後日らしいし申込みは当日でも大丈夫だ。お前達は宿に荷物置いて王都観光でもしてきたらどうだ? 宿はそこの角を曲がった所にあるからな」


 ウィリアムは喧騒極める王都の光景に驚きを隠せないカイン達にここで別行動だということを告げるが、3人共ただ頷くことしか出来なかった。


「無事合格したら同業者になるわね。皆頑張ってね!」


 イリスも労いの言葉を贈る。一緒にコカドリーユを討伐出来たのだから心配ない、と付け加える。


「小僧ども、励めよ」


 イーゴリも同様、3人に期待出来るものがあると感じているようだった。


 傭兵団と別れた3人は兎に角荷物をそれぞれの部屋に置き、宿のロビーへ集合した。皆長旅の疲れよりも、都会の騒々しさに対する疲労感の方が勝っていた。


「これからどうしようか? 皆行きたい所はある?」

 カインは2人にこれからの予定をどうするか問い掛けた。


「俺は特に行きたい所ないし、ブラブラするだけで良い。強いて言うならどこかショーギ出来るとこないか探すくらいだな。」


「私は雑貨店とか服屋に行きたいかな」

 

「僕は鍛冶屋を見て回りたいし……皆バラバラだね」


 3人とも意見はバラバラで、一緒に行動すると時間が足りないことになる。結果今日は各々行きたい所に行って夕飯時に宿に戻るという予定に落ち着いた。


「じゃあ皆また後で。夕飯は集まってから決めようか」


「うん、そうしよ。私美味しいお店聞いとくね!」


「ウィー」


 其々は目的地へと向かった。




 解散後アニエスは雑貨店に来ていた。予め宿の受付に良い店を聞いていたので、迷うことなく目的地へと辿り着いた。


「聞いてた通りおっきなお店ね。すっごいオシャレ!」


 店の入口を見てはしゃぐアニエス。早速店内へと入る。インテリアから洒落た生活用品、裁縫道具や生地など各種雑貨が所狭しと並んでいた。


「これは吟味するのに時間がかかるわね……。皆遅れたらごめんね~」

 口では謝っているが勿論悪いとは微塵も思っていない様子だ。

「すみません店員さん! ちょっと生地を探してて……」


「はい。どのような生地をお探しでしょうか?」


「紺碧の鮮やかな物はありますか?」


「畏まりました。こちらなどは如何でしょうか?」


「しばらく見させて下さい!」


「またご要望がございましたら御気軽にお声かけ下さいませ」


「ありがとうございます!」


 アニエスは買い物を満喫することにしたのだった。

 



 一方ローベルトは手当たり次第にショーギを出来る施設がないか通行人に聞き廻っていた。


「ねぇおっちゃん。この辺にショーギ指せる施設なりスペースってある?」


 知略戦略が必須なゲームだ。若者よりも中高年に狙いを絞った方が良いだろうとローベルトは道行く老人に声をかける。

 

「いやぁ知らないなぁ……」


「そっか。ありがとう! ねぇそこのおっちゃん!」


 通行人に片っ端から声を掛けていく。しかしなかなか良い答えを聞くことが出来ないでいた。


「うーむ……あんまり流行ってないのかな……。取り敢えず後1人聞いてみてダメだったら適当に移動しよ」

 

 最後の1人に声を掛ける。その中年男性は有益な情報を持った人物であった。


「ショーギ? ああ、確か王宮前の広場で集まってやってたぞ」


「本当ですか? ありがとうございます! 王宮へはどうやって行けば良い?」


「この大通りを真っ直ぐ行くだけさ。兄ちゃん観光かなんかか?」


「そんなとこ! ありがとうねおっちゃん!」


 中年男性に礼を言い、広場へと急ぐローベルト。

 歩くこと数分で例の場所へと着いた。確かにテーブルを囲んでショーギを指す集団が居た。意外にも若者が大半を占めている。

 ローベルトは参加すべく適当な人物に話し掛けた。


「なあ。これ飛び入りでも参加出来る?」


「ん? 勿論歓迎するぜ。でもお前ショーギ指せんのか?」


 話し掛けられたローベルトと同年代くらいの男はそう答えた。どうやら参加は自由らしい。


「ああ、まぁな。これでも結構このゲームには自信あるんだぜ?」


 笑顔でそう答えるローベルト。思ったより早く遊び場を見つけた上に参加自由ということに喜んでいる。


「そうなのか。てことはお前もアレが目的なのか?」


「アレ? 俺はただ指しに来ただけだが」


 男の言うアレとは何なのか、ローベルトは言葉の通り暇潰しに趣味のショーギをしに来ただけなのだ。


「え……お前何も知らずに参加するって言ってんのか?」


「何だよ。悪いかよ?」


「いや悪いとは言わないが……あそこに軍服来た奴がいるだろ? 王宮直属の兵士だ。このショーギで勝ち進んだ者は軍師として軍に召集されるんだ。皆必死さ」

 

 男の指差した先には確かに軍人が居た。ずらりと並んだテーブルを見て何か紙に書いている。目ぼしい人物をチェックしているのであろう。


「ふ~ん。つまり就職活動ってわけか。俺には関係無いな」


 ローベルトは興味無さそうに言う。


「お前本当にただ指したいだけなのか……?」


 その様子を見て男は驚いている。ここに集う者全員が王宮に召し使えるチャンスだと、必死に戦っているんだと熱弁した。


「さっきから言ってんじゃん。俺は指せれば良いの。王宮どうたらなんて今知ったし。それに俺が目指してんのは傭兵」


「本当に何も知らずに来たんだな……まあお前がそれで良いならもう何も言わん。俺はアンリ=アントルモン。お手柔らかに頼む。」


「ああ。ローベルト=コルトだ。手加減は無しだぜアンリ?」


 お互い笑いながら握手を交わした。ローベルトは今日1日の暇潰しが出来たと思っていた。



 

「すみません! 砥石とハンマーが欲しいんですがオススメはありますか? あと油も!」


 カインは鍛冶屋でクレアの手入れ用具を物色中だ。流石王都だけあって品数が多く決められないでいた。


「おう兄ちゃん! 若いのに鍛冶仕事に興味あんのかい? ちょっと待ってな! 特別品を見繕ってやるよ!」


 鍛冶屋の親父は嬉しそうにゴソゴソと探し始めた。


「ありがとうございます」


 親父が探し物をしている間店内を見て回ることにした。店主が打ったものだろう立派な剣や防具が所狭しと並んでいる。


「やっぱり本職は全然違うなぁ…どうやって造ってるんだろう……」

 

「兄ちゃんあったぜ! 何だ? それの良さがわかるのかい?」


 目を輝かせながら真剣に剣を見るカインに店主が話し掛ける。


「はい。一体どうやって鍛えたらこんな剣を造れるのか不思議で…相当な技がないと打てませんよこれ」


「兄ちゃんお目が高いな! 自慢の息子達さ! よし、気分が良いからまけてやるか!」


 親父は笑顔でカインにハンマーと砥石を渡す。感触を確かめてみろということらしい。


「これは手に馴染みますね。これに決めます!」


「兄ちゃんに合いそうなの持ってきたかんな! 馴染んで当然だぜ! その手に持ってる袋は剣だろ? 普段はやんねぇが今日は気分が良い。特別にタダでメンテナンスしてやるよ!」


「良いんですか!? 是非お願いします! 特殊な剣で困ってたんですよ……」


 カインはそう言い袋からクレアを出し親父に手渡した。


「任せな! ……おい兄ちゃん……コレをどこで手に入れた?」


 クレアを手に取ると先程までの笑顔は消え、親父は何か悲しそうな懐かしむような複雑な表情になった。


「それは僕の村の村長から頂いたものなんです。村長とその剣の名誉にかけて僕は一人前の傭兵になるべく王都へ来ました」


「そうかい……これはな、俺が若い頃に打ったものなんだよ。ある傭兵の為にな」


 我が娘を見るような目でクレアを眺めている。


「グスタフ……お前は……」


「親父さんグスタフ村長をご存知なんですか?」


「ああ。奴の武具類は全部俺が造ってやったんだ。気の良い奴だったが突然どっか行っちまってな。そうか、兄ちゃんとこの村長やってんのか。元気にしてんのかい?」


「そうだったんですか……詳しい事情は知らないんですが、村長はクレール村で元気にしてますよ。娘のアニエスも傭兵を目指して今回一緒に来てます」


 グスタフの村での暮らしぶり、クレアを授かった経緯、アニエスを溺愛していること等々カインは親父に話した。


「そうかい。それを聞いて安心したぜ。兄ちゃん村に帰ることあったらよ、あいつに顔でも見せろやって伝えてくれよ」


「わかりました。伝えておきます!」


 グスタフに関わった人達はウィリアムを含め皆彼を慕っているのが感じられる。親父の反応を見れば一目瞭然だった。カイン自身も村長を師としても人としても尊敬している。

 そんな偉大な人に剣を授かったんだと誇りに思うと同時に、師を超える傭兵になれるよう精進しなければならないと決意を新たにするカインだった。


「クレアの柄ちょっと弄ってんな? 延長されてやがる。だがまだ甘いとこあるからよ、時間かかるから飯でも食ってきな!」


 鍛冶屋の親父はクレアをカイン専用に鍛え直すと言ってくれた。


「ではよろしくお願いします。夕方には戻りますね」


「おうよ。その頃には出来てるぜ」


 集合にはまだ時間に余裕があるため、昼食を取るべくカインは店を出た。

 鍛冶屋から少し離れたところに飲食街がある。立派な店構えのものから屋台まで選り取り緑だ。


「色々あって迷うな……屋台食べ歩きにするかそれとも……」


「ねぇちょっとそこのお兄さん!」


「ここはせっかく王都に来たから高そうな店に突撃するのも……」


「ねぇってば!」


「ん……?」


 何を食すか悩みに悩んでいるカインは自分が声を掛けられているとは思いもしなかった。


「ちょっとワタシの話聞いとるね!?」


「え? 僕ですか?」


 話し掛けられていることに気付き、声のする方を見る。そこには真紅の髪をした小柄な少女が立っていた。

 ベージュ色をした短めのスカートを靡かせ、紺色のシャツの上には黄色のジャケットを羽織っている。

 少し背伸びをした格好ではあるが、ボーダーの長めの靴下とヒールのない靴は幼さを残していた。


「あんた以外誰が居ると? 道ば聞きたいけんちょっと良か?」


「……え? 何て?」


 少女は何かを尋ねているであろうことは分かった。だがカインには聞き取れない。


「む……だけん道のわからんけん聞きたかって言いよるとよ! 訛っとるけんてバカにしとると!?」


 少女は涙目になり今にも泣き出してしまいそうだ。


 カインは慌てて宥めにかかる。


「ごめんごめん! 聞き慣れない言葉だったから! それで、どこに行きたいのお嬢ちゃん?」


 少女の目線に合わせるようにしゃがみ、笑顔で話し掛けた。


「今……何て? お嬢ちゃんって言うたと……?」


「ん? どうしたんだいお嬢ちゃん?」


「ワタシはお嬢ちゃんじゃなか……っ!」


 その瞬間カインの体が宙を舞う。


「え? ……痛っ!」


 体が浮いたかと思うと地面へ落下し背中を強打した。眼前には剣が突き付けられている。


「ワタシはシルフィア=S・ウェヌス! こう見えても16ばい! お嬢ちゃんじゃなか!」


 小さな体に似つかわしくない大剣を携え、涙で潤んだ黄金の瞳はカインを睨み付けていた。

カイン:はい! 後書きのコーナー!

新章も始まり、ほぼ出番が終わりな予定のウィリーさんとイリスさんにお越しいただいてます。


ウィリアム:え? マジで? 俺たち出番終わるの?

俺とアニエスちゃんの甘酸っぱい話とかねぇのかよ。


カイン:そこは重要な話ではないので終わりですね。

そもそもウィリーさんがナンパキャラってことを伝えるだけのくだりですし!


ウィリアム:おいマジか。


イリス:まぁ普通に考えたらそうなるわよね。

私達の影響でカイン君が傭兵になって旅をしていくってお話だからねこの作品。


ウィリアム:嘘だろ……話進んだらまた出番あるよな!?

ほら、強敵が現れて俺たちがピンチを助けて、それから新技伝授とかあるんじゃないの!?

そういう王道のやつ必要でしょ!


カイン:王都編は僕らクレール村の3人が傭兵試験を受けるって話ですからウィリーさん出るとこはないですしね。

その後は作者次第ですね!


イリス:ある程度話が進んだら話を読み返して、伏線に出来そうな所を拾って出番作るかもってことらしいわよ?


ウィリアム:リアルな回答どうもイリスさん!

何かいけそうな伏線はないか?


カイン:まぁ村長が言ってたギルド解散の理由くらいでしょうね。

他に出演できそうな所は僕がアラストルの真相を知っていよいよ手に入れる時とか最後の敵を倒す時に力を借りるくらいだと思いますよ。


ウィリアム:そんだけかよ! 何かあるだろう長編の予定なんだからさ!


イリス:カイン君、傭兵になって旅を続けてると、またいつか会えるかもしれないわね。

世界は繋がってるんだもの。

その時はもしかしたら敵かもしれない……それが私たち傭兵よ。


カイン:イリスさん……


イリス:でもね、私たちリコリス・ラディアータと一緒に戦ったこと、勝利を手にしたことを胸に全力でぶつかってきなさい。

受け止めてあげるわ。


カイン:イリスさん……!


ウィリアム:そういうの本編でやって! 何でここでやっちゃうんだよ!?


カイン:ぐすっ……さあ新キャラも登場し王都編スタートですよ!

これからどんどん盛り上げていきますのでよろしくお願いしますね!


ウィリアム:もうお前訛りっ娘に斬られてしまえ!

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