第86話 闘技大会編 優勝者
「霊夢さん! 魔理沙さんが勝ちました!」
「ん、そうね」
興奮して思わず立ち上がってしまった早苗を手で制し、言葉を続ける。
「接戦になるかもしれないけど、きっと魔理沙が勝つわ」
「なんでそう言い切れるんです?」
「そうね……負けず嫌いは怖いってことよ」
「あとはお前だけだな」
箒を手に持ち、背後の木のほうを向く。
「まったく……もう少し消耗してくれてたら嬉しかったんだが……」
木の裏から声の主、妹紅と魔理沙の勝負を傍観していた藍が現れる。
「もう逃げられないぜ?」
「そんなつもりないさ」
藍が構えをとる。
「残りはもうお前と私。しかも有利なのは私のほうだ。逃げる意味はないだろう?」
そう言って、おどけたように肩を竦めてみせる。
「そうやって足すくわれるのはお前のほうだぜ?」
「そうならないよう努力するよ」
二人が睨み合う。
「行くぜッ!」
「行くぞッ!」
「さぁ始まりました最終決戦! これに勝利した方が一日目、バトルロワイヤルの優勝者となります!!」
「まだ明日もあるってのに頭が痛くなるわね……」
藍の拳が顔の真横を通り抜ける。
「くっ……」
「逃げに徹してばかりか?」
さっきから藍は執拗に近接戦を仕掛けている。
魔理沙も魔法使いとは言っているが所詮は人間、身体能力にも限界がある。もとより少し身体能力が高い程度では九尾である藍を相手に近接で上回ることなど不可能なのだ。
「いい加減にするんだぜッ!」
遂に耐えきれなくなった魔理沙が、地面に向かって何か玉のようなものを叩きつける。
「目くらましか……!」
叩きつけられた玉は眩い閃光を放ち、藍の視界を白で染め上げる。
あらかじめ目を瞑り、投げた瞬間振り向いて走り出していた魔理沙は藍から距離をとることに成功する。
「反撃開始ってな!」
まだ視界が戻っていない藍を上から見下ろし、魔理沙が小さな玉や札などを大量に取り出し、
「そらそらそら!!」
片っ端から藍へと投げまくる。
爆発するもの、周囲を凍結させるもの、電撃を発生させるものなど、その効果は多岐にわたる。
「恋符・マスタースパーク!!」
もはや煙で何も見えないがとりあえずマスパを放つ。
手応え、などは分かるわけがない。だが、倒せていないことだけは何となく感じ取っていた。
少し離れた辺りで煙が吹き飛ぶ。
「げほっ……お前本当に無茶苦茶だな……」
咳き込みながら藍が現れる。
当たったのは二発だけらしい。尻尾のあたりに静電気が走っているのと、服が若干焦げていたりするところで判断はつく。
「今のでやられたかと思ったぜ」
「ははっ、ほざけ」
「ここで二人の戦いの場は空へと移りました!」
「むしろ逃げる場所が無くなった気がするんだけど……どうするのかしらね」
「式輝・狐狸妖怪レーザー!!」
「恋符・マスタースパーク!!」
二人が放ったレーザーがぶつかり合う。だが、若干押し負けているのは、魔理沙だ。
「どうした……! 十八番の割にはやけに力が入ってないんじゃないか!?」
「う……ぐ……くっそぉ……!!」
藍のレーザーがギリギリまで迫ったところで体を反らし、失敗作を投げつける。
「そんな小細工はもう効かない!」
藍が手を振れば、たちまち細いレーザーによって小道具が撃ち抜かれる。
(くっそ……どうする……考えろ、考えろ……!!)
「れ、霊夢さん……」
「どうしたの?」
「どうしたのって……魔理沙さんピンチじゃないですか!」
早苗がモニターを指さして言う。
「そうね、でも、まだ目が死んでない」
「?」
「魔理沙の負けず嫌いはこっからよ」
「よし、大丈夫」
「……?」
魔理沙が小さく呟き、深呼吸をする。
「恋心・ダブルスパーク!!」
二本のレーザーを藍に向けて発射する。
「行符・八千万枚護摩!」
魔理沙のスペルに対し、扇形に大量の札を配置してレーザーを受けきる。
「バカ正直になんのつもり……なっ!?」
札を消し、目の前を見れば魔理沙が急降下して森へと逃げていた。
「くっ……待てッ!」
魔理沙の後を追いかけて藍もスピードを上げる。
「逃がすものか! 式神・仙孤思念!」
入り組んだ森にさらに幾何学的な弾幕を発射する。
木の合間を縫うように弾幕が追いかけてくる。
「よし、行くぜ……」
藍の姿は見えないが、大体の場所は分かっている。
「彗星・ブレイジングスター!!」
周りの木々をなぎ倒しながら、マスタースパークと同等の規模の光を纏って突進していく。
木を吹き飛ばして突進してきた魔理沙に藍は避けることができずスペルを展開する。
「くっ……行符・八千万枚護摩!」
魔理沙と正面からぶつかり合う。
(魔理沙はたぶんこれで打ち止め……これだけ耐え切れば……!!)
「はぁぁぁぁぁ!!」
藍の札による結界にひびが入り、砕け散る。それと同時に魔理沙のスペルも効果切れになる。
(これで私の勝ち……!)
その一瞬の安堵が、大きな隙となる。
「魔砲……」
「なっ!?」
魔理沙が手にしているのは八卦炉。だがすでに魔力は底をついているはずなのだ。
「ファイナル……」
ゆらりと、体が一瞬揺れ動き、藍の腹部に八卦炉を押し当てる。
「スパァァァァァァク!!!!」
限界を越えた、正真正銘全力の一撃。
その軌跡は空へと続き、やがて途切れる。
「はぁ……はぁ……」
息を切らす魔理沙の前に、藍が倒れる。
「はぁ……勝った……」
魔理沙が地面に座り込む。
「審判が……黒の旗を上げたーッ!! 激闘の末に勝負を制したのは魔理沙さん! 従ってこのバトルロワイヤルの優勝者は、霧雨魔理沙さんです!!」
「最後のあれ、完全に気力だけじゃない……呆れた。これだから人間は分からないのよ」
「すごい……本当に魔理沙さんが勝ちました!!」
「ん、そうね。どう? 紫、自分の式が負けた感想は」
「さぁ? ま、おめでとうと伝えておいて」
それだけ言うと紫はスキマを使ってどこかへ行ってしまう。
「戻ってきたら、なにか奢ってあげましょうか……」
闘技大会一日目、バトルロワイヤルの優勝を飾ったのは人間の魔法使い霧雨魔理沙。
「一日目はこれで終了となります! 二日目のトーナメント戦もご期待ください!」




