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人と妖怪とetc.  作者: 那々氏さん
閑話 幻想に生きる
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第75話 フランと家出その3

 ──花畑──


「ねぇねぇゆーか。この青い花はなんて言うの?」


 フランが立ち止まって指をさす。


「それは勿忘草わすれなぐさ。フランは花言葉って知ってる?」


「知ってるよ! バラだったら愛、ってやつでしょ?」


  フランが得意げに胸を張って答える。


「そうよ。ちなみに勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』ね」


「なんだか悲しい感じだね」


「えぇ、でも『真実の愛』って意味もあるのよ」


「ゆーかって物知りなんだね!」


「花についてだけ、ね」


 感心しているフランに小さくウインクをする。


「じゃあじゃあこの赤い花は?」


 すっかり舞い上がったフランが、そこら中を走り回って幽香に片っ端から質問していく。


「ゼラニウム。『真の友情』とか『信頼』『尊敬』ね」


「すごいすごい! ゆーかはお花大好きなんだね!」


「ふふ、そうね。他にも知りたければ教えてあげるわ」


「やったー!」


(迎えが来るまでなら、大丈夫よね)


 フランの微笑ましい姿を見ながら、幽香は紅魔館の誰かが来るのを待つのだった。





 ──香霖堂──


「ごめんください」


 店の戸の前で、中にいる店主に呼びかける。


「開いてるぞー」


「…………?」


 返事は香霖堂の店主、森近霖之助の声ではなかった。

 しかも、よく知る声。

 引き戸を開けると。


「あら、銀じゃない」


「よ。どうしたんだ」


 想像した通りの人物が店のカウンターからこちらを見ていた。


「ちょっと霖之助さんに聞きたいことがあってね」


「そうだったのか。おーい霖之助ー」


 銀は自分がなぜここにいるかは説明せずにそのまま霖之助を呼ぶ。

 そこへ、再び店の入り口が開かれる。


「すいませーん。咲夜さんいませんかー」


 声の主は文だった。


「お呼びだぞ?」


「何か分かったかしら」


 咲夜が入り口のほうへ駆け足で行く。


「あぁ咲夜さん、霊夢さんから伝言です」


 文が次に続ける言葉に意識を集中させる。


「謎の生物の名前はチュパカブラ、だそうです。一体なんのことなんです?」


「ありがとう文屋、あとでインタビュー答えてあげるわ」


「ホントですか!? やったぁぁぁ!!」


 文がガッツポーズする横で咲夜は銀のほうへ振り向く。


「霖之助さんに謝っといて! 私もう行くから!」


「お? おう」


 それだけ言うと咲夜はすぐに姿を消した。能力使うほど急いでんのか……。

 そこへ、さっき呼ばれた霖之助がやってくる。


「一体なんの用だい? って……あれ?」


「今帰った」


「……なんで」


「知らん。あとで聞いとくよ」


「そうしてくれ……」


 まさに嵐が過ぎ去った後だった。




 ──紅魔館──


(まだ美鈴は帰ってないみたいね)


 一瞬門のほうを確認したが、それらしい姿はなかった。やはりそう簡単にいくものではないだろう。




「パチュリー様!!」


 図書館の扉を勢いよく開け放つ。


「あら、お帰り咲夜。どう、何か分かった?」


「はい。名前だけですが……」


「それで十分よ」


 パチュリーが読んでいる本を閉じ、咲夜のほうに向き直る。

 すでにかなり探してくれたようで、両脇には大量の本が積み上がっていた。


「その生物の名称はチュパカブラ。早苗の居た世界ではUMAというそうです」


 咲夜の言葉にパチュリーが何かピンときたらしい。小悪魔に命じて何冊かの本を持ってこさせる。


「たぶんこのどれかに載ってるわ。10分もあれば見つかるはず」


「ありがとうございます。パチュリー様」


「レミィに言っておいたほうがいいんじゃない?」


「えぇ。それでは失礼します」


 最後に深々と礼をし、主の部屋へと急ぐ。





「お嬢様!!」


「なによ咲夜落ち着きなさい。はしたないわよ」


 咲夜が入ってきたのが分かった瞬間に、バタバタと勢いよく羽を動かしはじめたレミリアは人のことは言えないが、そんなことはスルーする。


「申し訳ございません。ですがあの生物のことが分かりました!」


「上出来よ。言ってみなさい」


「あの生物の名称はチュパカブラ。UMA、という別名ももつとのことです。現在パチュリー様が詳しいことは調べてくださってます。すぐに判明するかと」


 すこし早口ではあるが、現状で分かっていることを報告する。

 レミリアはそれに満足げに頷く。


「では私は妹様を探して参ります」


「その必要はないわ」


 咲夜がドアノブに手をかけた瞬間、レミリアが呼び止める。


「どうせすぐに帰ってくる」


「そういうことでしたら……」


 レミリアの顔ですべてを察する。

 どうやら運命が見えたらしい。なら、自分がわざわざ行く必要もない。


「では、紅茶をお持ちしますね」


「えぇ、お願いするわ」


 妹が帰ってくる、その事実を知ったレミリアは、嬉しそうに羽を動かした。




 ──花畑──


「すごーい! ずっといられるね!」


 自分の手を引く幽香にフランが笑いかける。


「そう。それならよかったわ」


 幽香もそれに微笑み返す。


「でも」


 少し、目を伏せる。


「もうお迎えが来たみたいよ?」


「え?」


 幽香の言葉に、周囲に気を向けてみると、どこかから声がする。


「フラン様ー! どこですかー! フラン様ー!」


 おそらく、美鈴だ。

 どうやら自分を探してここまで来たらしい。


「ほら、行ってあげなさい。きっとみんな待ってるわ」


「うん!」


 フランが大きく頷く。


「またここに来たら会える?」


 少しの間でかなりなついてしまったようだ。期待するような眼差しを幽香に向ける。

 だが、幽香はそれには答えない。


「この花を上げるわ」


 フランに一輪の花を渡す。


「これ、なんて花?」


「ネリネ。花言葉は……ふふ、自分で調べてみて」


「分かった!」


「あぁそうだ」


 花を握るフランの手に、自分の手を重ねる。


「…………これでこの花は枯れないわ。フランがこの花を大切にしてくれる限り、ね」


「わぁありがとう! ずっと大切にするね!」


 嬉しくなったフランがくるくると回り出す。

 丁度吹いてきた風によって舞った花も相まって、その中にいるフランは妖精のようだった。


「はやく行ってあげなさい」


「うん! またね、ゆーか!」


 大きく手を振りながらフランは声のするほうへと消えていった。


「また、ね」


 舞い散る花とともに、フランとは反対の方向へと姿を消した。





「フラン様! ようやく見つかったぁ……」


「ごめんね美鈴。大変だったでしょ」


「いえいえ、フラン様が心配でそんなこと考えなかったですよ」


 美鈴はこう言ったが、フランにとっては自分を心配してくれるだけでとても嬉しかった。


「美鈴、一緒に謝ってくれる?」


「えぇ、いいですよ!」


 無茶なお願いにもかかわらず、美鈴は笑顔で承諾する。

 幽香のこと、花について教えてもらったこと。美鈴と手を繋ぎ、笑顔で紅魔館へと帰っていった。





 ──紅魔館──


「た、ただいま……」


「ただいま戻りましたー」


 堂々と帰ってきた美鈴の後ろを、恐る恐るついてくるフラン。

 二人の目線の先には、咲夜とその主、レミリアが立っていた。


「お、お姉様、あのね……」


「あの生き物、飼ってもいいわよ」


「……え?」


「拾ってきたやつ、飼ってもいいって言ってるの」


 断固拒否してからの一転して許可したのはやはり恥ずかしいのか、レミリアはそっぽを向く。


「ごめんなさいお姉様。大好き!」


 階段を駆け上がってレミリアに抱きつく。


「実はお嬢様がお調べになったんですよ」


 わざとレミリアにも聞こえるような声でフランに耳打ちする。


「そうなのお姉様!?」


「えっちょっちが」


 だが、咲夜のほうを見ると、彼女が人差し指を立てて口元に当てている。このメイドもたまに言うことを聞かないのがなんとも。


「そうね。色々と分かったから、あとで話してあげるわ」


「ありがと〜っ!!」


 咲夜が階段を降りて美鈴の横に並ぶ。


「咲夜さん……私……なんか浄化されそうなんですけど」


「奇遇ね、私もよ」


 手を繋いで部屋へと向かう姉妹を見て、二人は微笑む。


「何はともあれ一件落着ね。お疲れ様」


「お疲れ様です」


 互いに互いを労って、二人もあとを追いかけるのだった。





 次の日、チュパカブラが逃げ出して紅魔館が大騒ぎになることは、まだ誰も知らない。

いかがだったでしょうか。

ちなみにネリネの花言葉は『また会う日を楽しみに』『箱入り娘』です。

フランが花畑を巡っていけば、いつかまた幽香さんに会えるかもしれないですね。

こういう花言葉とか小粋なのは結構好きなんですよね。

それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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