第75話 フランと家出その2
──どこかの花畑──
「もうっ! お姉様ったら酷いよ。咲夜はいいって言ってくれたのに……」
頬を膨らませながらゆらゆらと空を飛ぶ。
「…………ここ、どこだろう」
今更ながら周りを見てみると、どうやら自分が初めて来る場所らしい。見るもの全てに覚えがない。
「あっ、お花畑!」
そんな中、色とりどりの花が咲き乱れる花畑を見つける。
「綺麗だなぁ……」
すぐさまそこまで降りていき、花を見つめていると、背後から声をかけられる。
「お嬢ちゃん、迷子?」
「……お姉ちゃんだあれ?」
日傘を差し、瞳の色も赤い。まさか吸血鬼?
緑髪の長身の女性を前に、フランが少し警戒を示す。
「私は風見幽香。……そうね、花好きの妖怪よ」
──博麗神社──
「……なんであんたがここにいんのよ」
扇風機の風を受けてゴロゴロしていたところに、咲夜が瞬間移動してきたのだ。多少は機嫌も悪くなる。
「ちょっとね。妹様が家出してしまったのよ」
「それちょっとどころの騒ぎじゃないでしょ」
霊夢のツッコミ通り、紅魔館ではまともに動けるのが咲夜とパチュリーと美鈴しかいない。しかも咲夜の場合は内心はもうこれ以上はないほど焦っているが、顔に出していないだけなのだ。
「今はお嬢様の命令で、謎の生物についてを調べてるの」
「謎の生物?」
「……ちょっと説明が難しいの。何か紙と書くものを持ってきてくれない?」
咲夜に言われた通りに紙と筆を持ってくる。
「ありがとう。こんな感じよ」
霊夢から紙を受け取り、机に置いた時点で絵は完成していた。さすが、というべきだろう。
だが、それを見た霊夢は眉間にシワを寄せる。
「……これ、咲夜に絵心ないのか本当にこんな姿なのか分からないわね」
書き上げられた絵は、確かに拾ってきた生物そのものなのだが、一度もそれを見たことのない霊夢は判断がつかないようだ。
「そうね……じゃあこれでどう?」
言い終わる前に咲夜がまた違う絵を描く。
「こ、これって……」
「これでもまだ信用できない?」
「悪かったわ。確かにこういう生物なのね」
咲夜が描いたのは魔理沙だった。
今にも動き出しそうなほどにリアルで美しかった。少し美化しすぎな気もしたが。
「うん、そうね……。私は見たことないし、咲夜が言うように外の世界の生物なんだったら、早苗とか霖之助さんに聞くのがいいかもね」
他にも紫なら知ってそうだが、どうせ寝てるからもとより期待するだけ無駄だろう。
「ありがと。じゃあ私は行くわね。急がないといけないから」
霊夢の言葉を聞くなり咲夜は足早に立ち去ろうとする。
「あぁ待って、手分けしたほうが早いでしょ。私が早苗に聞きに行ってくるわ」
「ありがたいけど……時間がかかるんじゃない?」
確かに、妖怪の山へ行ってまた咲夜と合流するのには時間がかかる。
「なら、文にでも頼むわ。それならはやいでしょう?」
「分かったわ。ありがとう霊夢愛してるわ!」
言い終わらないうちに咲夜が走り出す。
「心にもないこと言うんじゃないわよ気持ち悪い」
咲夜も相当手一杯なのだろう。普段ではありえないような冗談を飛ばしてくるが、とりあえず率直な感想を述べる。
「さて、行ってあげますか」
重い腰を上げて、霊夢も妖怪の山へ向かうのだった。
──花畑──
「ゆーか……お姉ちゃん?」
「幽香でいいわ。それよりこんなところでどうしたの?」
フランの横に座り込み、目線を合わせてくる。
「えっとね、私フランドール。フランって呼んで!」
「分かったわフラン」
幽香が小さく微笑む。
「それでねそれでね……」
少女説明中……
「ふぅん。謎の生物を拾ったら元の場所に置いてきなさい、ねぇ」
フランの話を聞いて、幽香が頬杖をついて花を見つめる。
「フランは何が気に入らなかったの?」
「え?」
何が、と言われても今の話だと明らかにお姉様が悪いと思うんだけど……。
「だって……捨ててこいって……」
「そうね。連れてきたあなた側からすればそれはひどい行いに見えるかもしれないわ」
「……どういうこと?」
フランが首をかしげる。
「難しいかもしれないけど、その生物にはもしかしたら家族がいたかもしれないし、今も探しているかもしれないでしょう? あなたのお姉さんはそういうことも考えていたんじゃないかしら」
「それは……そうだけど……でもだとしたらフランお姉様に大嫌いって言っちゃった……」
レミリアがそこまで考えていたとは思わなかったフランは、みるみるうちに肩を落とす。
「大丈夫よ。きっとフランが本心で言ったわけじゃないって分かってるわ」
「そう……かな……そうだといいな」
フランが小さくはにかむ。
「後で謝ればきっと許してくれるわ。どう? 少し花を見ていかない?」
「いいの?」
フランの顔が分かりやすいくらいに明るくなる。純粋な子供の笑顔だった。
「えぇ、私が案内してあげる」
「ありがとうゆーか!」
──守矢神社──
「私に会いに来てくれたんですね霊夢さぁぁぁぁぁぁん」
「違うわよ」
いつも通り突っ込んでくる早苗をひらりとかわす。
霊夢の服装が少し赤っぽいせいか、その様は闘牛士のようだ。
「ちょっと早苗に聞きたいことがあってね」
「やっぱり私に会いに来てくれたんじゃないですかー!」
「だああもう抱きつくな!」
いつもの。
一通りいつもの流れをやったあと、疲れきった様子で霊夢が本題に入る。
「これ、あんたこいつ知らない?」
「……なんですかこのゴブリンみたいなよく分からない生物は」
「これ、咲夜が描いてくれたのよ」
「咲夜さんが……画伯というわけですか……」
画伯、というのがなんだか分からなかったが、なんとなく悪い意味だと思ったので念の為魔理沙の絵も見せる。
「こっちも咲夜が描いたの。つまり実際にこういう生物がいるみたいなのよね」
「へぇ〜咲夜さんガチの人だったんですねぇ」
「で、知ってる?」
「たぶんこれ……チュパカブラじゃないですか?」
「チュパ……なんて?」
唐突に発せられた謎の言葉に今度は霊夢が聞き返す。
「チュパカブラ。確かUMAの一種だった気がします。詳しい生態とかは分からないです。ごめんなさい」
「名前が分かれば十分よ。ありがとう早苗」
早苗の頭をポンポンと撫でて、走り出す。
「今度なんか奢ってあげるからあとでウチに来なさい。それじゃ」
それだけ言い残すと、霊夢はさっさと守矢神社を去ってしまった。
「ハ、ハイ。アリガトゴザイマス……」
すでに霊夢が見えなくなっているが、早苗が呟く。
(れ、霊夢さんが私の頭を撫でっ、撫でて……はわぁぁぁぁ!?)
内心オーバーヒートしていた。
「さて、さっさと文を見つけないと」
もちろんそんなことを知らない霊夢は、文を見つけるために妖怪の山を飛び回るのだった。




