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人と妖怪とetc.  作者: 那々氏さん
閑話 幻想に生きる
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第69話 勝ちと負け

 

「あーらら、勇儀負けちゃったか〜」


 銀のカウンターを受けて吹っ飛ぶ勇儀を見て、心底驚いたような顔で萃香が言う。


「銀が勝ったけど、お祝いしてあげないの?」


 いたずらを成功させた時の子供のような顔で萃香が笑う。


「うっさい。賭けは私の勝ちなんだから、今度なんか奢りなさいよ」


 あくまで銀のことは触れずに紫はそっぽを向く。


「…………そんじゃ、また今度ね。私はもう帰るわ〜」


 意味ありげな沈黙に紫はツッコミそうになるが、ギリギリのところで耐える。

 紫に背を向けた萃香が、ゆっくりと振り返る。


「じゃーね、ゆかりん」


 笑顔でそう言った後、彼女の姿は霧となって消えた。


「ゆかりんって言うな」


 既に霧散して跡形もなくなった萃香を流し見て、彼女はそう呟いた。





「ああーくっそ……いってぇなぁ……」


 大の字に倒れたまま話す勇儀の声が遠く聞こえる。

 一度立ち上がろうとして転ぶ音がする。


「ぐっ……寝転んだままっつーのは……性にあわねぇ……」


 震える膝に手を置き、無理やり体に言うことを聞かせて立ち上がる。

 足取りがおぼつかないまま俺のもとへと少しずつ、少しずつ歩いてくる。


(あーあ……いいとこまでいったと思ったんだけど……)


 俺の負けか……。

 仰向けになって寝転んでいる俺を勇儀が見下ろす。

 だが、その口が放ったのはあまりにも意外な言葉だった。


「アタシの負けだ」


 その言葉に、目を、見開く。


「能力なしとはいえ、アタシをここまでボコしたのはお前が初めてだ。武術ってーのもバカになんねぇなぁ……」


 そう言って、勇儀がその場に胡座をかいて座り込む。


「ははっ……まだ体力あるように見えるけど?」


 自嘲気味に笑いながら、勇儀に向かって言う。

 もう考えることすら億劫な状態で、体を動かすなんてもってのほかの俺より、今現在立っている勇儀の勝ちに見えるのは当然だ。


「アタシはもう殴れねぇし蹴ることもできない。そんな状態になりゃあ誰だって負けを認めるさ」


 本当に潔い、裏表のない言葉が返ってくる。

 それはこっちのセリフ、なんて言うのは野暮だな。そんなことは向こうだって分かってる。先に言わせたんだからもう俺の勝ち……か。


「語られる怪力乱神にそう言ってもらえるとは思わなかったぜ?」


「ばっ、お前どこでその恥ずかしい肩書きを聞いてきた!?」


「さぁー誰でしょうねぇ?」


 俺たちと同じ鬼を思い浮かべる。

 地底に行けばいいって言ったのもその小さな鬼だったことを思い出す。


「はぁ……まさか勇儀に勝てるとは思わなかったよ」


「最初は雑魚だと思ったんだがなぁ……あとから突然角が生えて動きも変わりやがった。あれ、お前の特性かなんかか?」


 勇儀が俺が鬼化した時のことを思い出し、顎を手でさすりながら言う。


「そ、俺は鬼化って呼んでる。最近は自分の意思で操れるようになったんだ」


「半人半鬼ねぇ……」


 少し含ませるように勇儀が呟く。

 二人でそんな会話をしていた時だった。

 誰かの足音がする。正確には歩く振動に気づいた、だが。

 地面に寝転んでいるせいか、そういうのがよく分かるようだ。


「アタシの迎えが来たみたいだな」


「迎え?」


 勇儀の視線を追って、俺もそちらを見る。

 そこにいたのは


「これ、環境破壊だのなんだのって閻魔に説教されるんじゃない?」


 嫉妬妖怪、水橋パルスィだった。


「悪ぃなパルスィ、負けちった」


 勇儀がパルスィの肩を借り、ゆっくりと立ち上がる。


「そ、勇儀より強いなんて妬ましいわね」


 意外にも驚いた様子はなく、いつも通り妬ましいと口にするだけだった。


「銀、アタシたちは帰るけど、お前はどうするんだ?」


 少し歩いたところで立ち止まり、首だけ少し傾けた勇儀が尋ねてくる。


「大丈夫、紫がどっかで見てたみたいだから、人呼んでくれるだろ」


「そうか」


 俺の言葉を聞き、勇儀は小さく笑って頷く。


「次はアタシが勝つからな。そん時まで修行でもしとけ」


「今度は誰が見ても俺の勝ちにしてやんよ」


 そう言って、互いに拳を合わせた。




「あーあ……行っちまった……」


 一人残された俺が呟く。

 そこへ、頭上に紫のスキマが現れる。


「あれ、本人が来るとは……思ってなかったな……」


「誰が来たって変わらないでしょ」


 紫がスキマからこちらを見下ろす。


「で、勝ったの?」


「え?」


「勇儀に勝ったのか、ってこと」


 あぁ、そういうことか。

 ってかこいつ見てたんだから分かってるだろ。あぁでも考えるのもめんどくせぇ……もういいか。


「一応は俺の勝ちだ。だけど次は完全に勝つ」


 その言葉を聞いた紫がどこか納得したような顔をみせる。


「そ、ならいいわ。永遠亭まで連れてってあげる」


「それ負けてたら連れてってくれなかったってこと……?」


 だが紫はその問いには答えなかった。絶対そのつもりだった……。

 まぁその前に負け=死だっただろうけどな。


「ほら、行くわよ」


「はいはい、丁重に頼むわ……」


 紫の肩を借り、永遠亭へと向かっていった。




 その後、永遠亭で永琳にこっぴどく叱られたのは、言うまでもないことだった。



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