第68話 鬼と鬼
交錯する二匹の鬼は、地形を変える勢いでぶつかり合う。
勇儀の攻撃は大振りだが、その分一撃一撃が必殺の威力を持っている。
対する銀は膂力こそ勇儀には遠く及ばないが、技量だけで勇儀と対等に渡り合っている。
「さっきから逃げてばっかりだなぁオイ!!」
「…………ッ!!」
勇儀はおそらくあえて隙をつくっている。俺の攻撃だと彼女にほとんどダメージを与えられない。それこそ全力でなければ彼女の本気のガードを抜けることはできないだろう。
(もっと大きな隙を……つくらせる!!)
勇儀の攻撃をわざとギリギリで受け流す。
「ぐっ……!」
「隙アリィ!!」
ここぞとばかりに勇儀が足を振り上げる。
(かかった……!)
振り下ろされる足をかわし、構えをとる。
「あん?」
攻撃の勢いで足が地面にめり込んでいる。一秒足らずで抜け出すとは思うが、それだけあれば十分だ。
「発勁!!」
勇儀の腹部に渾身の一撃が入る。
だが、
「なっ!?」
勇儀の体が全く動いていない。
「てめっ……!?」
「つーかまーえた」
見れば、足をめり込ませたことで発勁を耐えていたのだ。
気づいた時にはもう遅い。
勇儀はすでに俺の腕を掴み、すでに拳を構えていた。
「ぶっ飛べ!!」
華麗なまでのボディーブロー。軽く20メートルくらい上空まで吹っ飛んだんじゃないだろうか。
無防備な状態で地面に叩きつけられる。
「ふぃぃー……ようやく一撃入ったな。って、今ので終わっちまったか?」
勇儀の声が遠く聞こえる。
あーくそ……内臓どっか破裂してねぇかこれ……。口の中血の味で気持ち悪ぃ……。
ふらふらとしながらもなんとか立ち上がる。
「やっぱりお前は楽しめそうだ」
立ち上がった俺を見て、勇儀は嬉しそうに笑う。
「あークソっ……もう考えるのやめた、とりあえず一発でもぶん殴る」
「ははっ、かかってきな!」
踏み込む度に骨が軋むがもうそんなのも関係ない。
「オラァッ!」
勇儀の拳を避け、その腕と胸ぐらを掴む。
「ぐっ……あァァ!!」
勇儀の勢いを利用してそのまま投げる。背負い投げ、というやつだ。
だが勇儀は地面に叩きつけられる寸前で膝を立て、耐えきる。
行き場を失ったエネルギーは勇儀の足から地面に伝わり、大地がひび割れる。
「フンッ!!」
勇儀はそのまま腕を振り、俺の体を逆に投げ飛ばす。
空中で体勢を立て直し、向かってくる勇儀を見る。
(勇儀の動きは見えてる……勝機がないわけじゃない!)
彼女の攻撃に合わせ顔面に拳を叩き込む。
勇儀の体が勢いよく吹っ飛び、山肌に叩きつけられる。
「…………案外やるねぇ」
真上に落ちてきた岩を粉砕しながら歩いてくる。
まさに鬼神だなこりゃ。
「もっと……楽しませろ!!」
「一時はどうなるかと思ったけど……銀のやつも中々やるねぇ」
萃香が酒を飲みながらポツリと漏らす。
紫はそれに答えず、ただ二人の戦いを眺めている。
「いよいよどっちが勝つか分かんなくなってきたね〜」
そう言って、萃香は楽しそうに笑った。
「ハァ……ハァ……」
勇儀の攻撃を躱し続けるのも限界がある。致命傷だけは避け、当たっても沈まない攻撃は最悪そのまま受ける。
「ハァー……ハァー……」
かといって勇儀の体力も無尽蔵というわけでもない。今までよりも隙が大きく、腕の振りも遅くなっている。
「しまっ」
地面の亀裂に足を取られ、勇儀がバランスを崩す。
「いい加減倒れろっ!!」
勇儀の体を腕を横に薙ぎ払い、岩に叩きつける。
「はぁ……クソっ……体が言うこと聞かねぇ……」
ふらふらと勇儀が立ち上がる。
限界なのはこっちも同じ。
そろそろ……決着を……。
「フッ……!!」
勇儀に全速力で突っ込む。
「オラッ!」
それに合わせて彼女も拳を放つ。
上半身を反らし、彼女の左腕をかわして左足を脇、右足を刈るようにして振り上げ、彼女の首の前に持っていく。
「左腕もらうぜ……!」
そのまま体をくの字に曲げ、バキンッという景気のいい音とともに勇儀の左腕を折る。
「小賢しいんだよッッ!!」
「バケモンがぁっ!!」
勇儀は折れた腕を俺の体ごと地面に叩きつける。
さらに追い討ちをかけようと、かかとを振り上げる。
「クソっ……」
顔をずらし、顔の真横にかかとが下ろされた瞬間に勇儀の体を蹴飛ばす。
「ゼェ……ゼェ……」
「ぐふっ……ガハッ……」
今にも倒れそうな状態でも、二人は立ち上がる。
「ぐっ……痛っ……なぁ……銀」
「あぁ……ゲホッ……分かってる……」
ボロボロの状態でも、それでも、
──二人は、笑っていた。
「次がアタシは限界だ……お前もだろ?」
「だな……つーことで……」
二人が、拳を構える。
「「最後の一発決めてやろうじゃねぇか!!!」」
二人が同時に走り出す。
「銀ンンンンン!!!」
アタシの利き腕折りやがって……うまく殴れなかったらどうすんだよ……。あぁ……楽しいねぇ……。
「勇儀ィィイイイ!!!」
あーくそ……意識が霞んで勇儀が二人に見えらぁ……。右か左か……。
でも、こういう賭けは……左って相場が決まってんだ。
勇儀の拳か目前に迫った時、ほんの少しだけ顔を左にずらす。
拳が勇儀の顎にめり込み、その体を吹っ飛ばす。
「やっぱ左が正解だったな、勇儀」
大の字で仰向けになっている勇儀に小さく呟き、銀も地面に倒れ伏した。




