第65話 メイド長の一日
──紅魔館──
目を、覚ます。
「んっ……」
小さく伸びをして、完全に意識を覚醒させる。ベッドから体を起こし、カーテンを開ける。
「さて、始めようかしら」
まだ昇っていない日を前に、紅魔館のメイド長は仕事を始めた。
「そろそろお嬢様を呼びに行かないと」
あとは数分煮込むだけの料理を前に、彼女は自分の主の元へと歩き出す。
「とと、遅くするの忘れてた」
部屋を出る前に、鍋周辺の時の流れを遅くする。
「よし、これでOKね」
能力が発動したのを確認し、扉を閉め、主の部屋へと歩いていった。
「お嬢様、失礼いたします」
ドアを軽くノックし、部屋の扉を開ける。
少し大きすぎるベッドに小さな少女が静かに横たわっている。
私の主、レミリア・スカーレット様だ。
「お嬢様、起床のお時間でございます」
ベッドの横に立ち、頭を下げる。
お嬢様がゆっくりと目を開ける。
「おはよう咲夜」
「おはようございますお嬢様。では後ろ、失礼します」
レミリアの後ろに回り、彼女の髪を梳く。
とても美しい、青みがかった灰色の髪を、絹を扱うようにという言葉すら児戯に思わせる手つきで整えていく。
「ではお嬢様、私は美鈴、パチュリー様を呼んで参ります。妖精メイドをお付けしますので、先に部屋へどうぞ」
レミリアの支度を終えた咲夜が、妖精メイドを呼びつける。
「どうせ咲夜の方が早く部屋に戻ってると思うけどね」
「もちろんです。主を待たせる訳にはいきませんから」
「フフ、それでこそ私の従者ね」
満足気に頷いたレミリアは、手で下がっていいと合図する。
まず最初に向かうのは美鈴の方だ。フラン様を起こしてもらうのに彼女ほどの適役はいない。
「美鈴、もう朝よ。起きなさい」
美鈴の布団を引っペがし、強引に起こす。
「うぅ……もう朝ですか……」
「なーに寝ぼけてるの。起きたなら早く妹様を呼んできて。ほら行った行った」
大きなあくびをする美鈴を無理やり押し出し、フラン様のもとへと向かわせる。
「さて、次は図書館ね」
「小悪魔。パチュリー様は今日はどうされるって?」
「あぁ咲夜さん。今日は珍しく行くみたいですよ。なにかあったんですかね」
図書館の司書、小悪魔は緩く笑う。
「とりあえずは分かったわ」
それじゃ、と短く返して咲夜は図書館をあとにする。
そろそろお嬢様が部屋に着く。先に行って料理を並べておかないと。
「お嬢様、こちらの席へ」
レミリアが入ってくる寸前で全ての料理を並べ終え、彼女の座る椅子を少し引く。
「ありがとう咲夜。さて、ちょうど集まったようね」
レミリアが座るとほぼ同時に、紅魔館の他の住人が続々と部屋に入ってくる。
「本日も腕によりをかけて作らせていただきました。ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと、咲夜は足早に部屋を出ていく。
(今のうちにお嬢様方の部屋を掃除しておかないと)
「ふぅ……このくらいかしらね」
腰についている銀時計を見る。
「朝食を食べ終わったころね。片付けに行かないと」
小さく呟き、彼女は再び光速で動き出した。
「咲夜〜なんか面白いことないかしら〜」
片付けが終わってからしばらく経ち、現在は執務室。
机の上で上半身を投げ出した主が、しきりに翼を動かしている、
「なにかご希望のものはありますか?」
「じゃあ手品見せてちょうだい! 今までやったのはナシで!」
「おまかせください」
さて、みなさま。ここからは私の数少ないお嬢様との自由時間。
申し訳ございませんが夜までみなさまの時間を停止させていただきます。
では、後ほど。
誰に言うわけでもなく心の中でそう呟き、彼女は指を鳴らした。
夕食の片付けを終え、メイド長としての一日の仕事もあと少し。
「お嬢様、ベッドの支度はいつでもできています」
「ご苦労さま。いい時間だし、寝ようかしら」
読んでいた本(絵本)を閉じて立ち上がるレミリアに、ロウソクを持って近づく。
「ではお部屋までご一緒させていただきます」
レミリアの手を引いて彼女を立たせ、一歩分後ろを歩いていく。
「でねー、明日のデザートは……」
「はい、そのように……」
レミリアはいつも寝る前に決まって明日のことを話す。大抵はデザートなどの内容だが。
(一日一つという制限、お嬢様は命令一つで変えられるというのに……)
そのことに気づいていないのか、はたまた分かってて毎日きちんと守っているのか。どちらにせよ純粋というかなんというか。
(そこが可愛らしいところではあるんだけど)
色々話しているうちに、レミリアが寝息をたてはじめる。
「では、お嬢様。失礼いたします」
レミリアを起こさないように本当に小さな声で挨拶する。
そして咲夜が部屋を出ようとドアノブに手をかけた時だった。
「おやすみ咲夜」
寝ていると思ったレミリアが小さくそう言う。
それに咲夜は少し驚いたような顔をして、すぐに笑顔に戻る。
「おやすみなさい、お嬢様」
「寝たと思ったんだけど、私もまだまだね」
一人廊下を歩きながら呟く。
今は戸締り確認と最後の見回りの最中だ。
ちょうど一階の廊下を歩いていた時だろうか。
「…………本日はお客様が来られる予定はなかったはずなのですが……」
背後からの気配に、ゆっくりと振り向く。
「……アァァ……ァァ………………」
「怨霊の類い……かしら」
苦痛に呻く人間のような表情をしたその化け物を、咲夜はそう判断する。
「アアァァァ!!」
怨霊が咲夜に襲いかかる。
「静かにしなさい」
咲夜の姿が消える。
「お嬢様が起きたらどうするのよ」
気づいた時には怨霊の額に妖しく光る銀のナイフを突き刺し、背後に移動していた。
「知ってる? 銀のナイフには魔除けの効果があるのよ」
そう言って、彼女は怨霊を背後から斬りつけ、完全に浄化させた。
「……予想外の来客だけど、聞き分けがよくて助かったわ」
見回りを終えた彼女は自室へと戻る。
「あぁそうそう」
ドアを開けて、何かを思い出したかのように振り向く。
「今のこと、お嬢様には内密に」
人差し指を口元で立て、小さく微笑む。
「よい夢を」
最後に小さくそう呟いて、咲夜はドアを閉めた。
いかがだったでしょうか。
今回は咲夜さんのいつもの日常的な感じです。
こういうの想像するの楽しいんですよね。
このキャラやってほしい出してほしい!っていうのがあればTwitterとかメッセージとかで言っていただければ私でよければ書きますんでご自由にどうぞ。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




