第7話 紅魔編 主と従者
──紅魔館 エントランスホール──
首を少し傾け、向かってくる数本のナイフを避ける。
恐ろしいほどのナイフ投げの腕前だ。彼女との距離は約20間ほどあるにも関わらず、投げてきたナイフはどれも俺の頭を狙っていた。
「美鈴を倒したくらいだもの、最初から全力でいくわよ」
「どうかお手柔らかに・・・!」
彼女はまたナイフを投げる。
今度は6本。
のはずだった。
真っ直ぐに飛んできたナイフは、中間ほどの距離で、突如数十本に増える。
「なっ・・・!クソッ!」
間一髪で跳躍、ナイフを避けきるが、彼女の攻撃は終わらない。
「いくわよ、幻符・殺人ドール」
二階の手すりに捕まり、咲夜のほうを見ると、何かを口走り、周囲にナイフをばらまいていた。
(何だ・・・?とち狂ったのか?)
そんなくだらないことを考えてしまった次の瞬間、乱立するナイフが、すべてこちらを向き、文字通り高速で向かってくる。
「おいおいおい笑えねぇぞ!」
すぐさま手すりから手を離し、初めの数本を躱す。着地と同時に前転、起き上がり残りのナイフを躱しつつ、ひとつだけナイフを手にし、咲夜に向かって投げつける。
だが、そのナイフは咲夜に届く前に跡形もなく消え去った。
(クソがッ!瞬間移動させることもできんのかよ!)
一瞬だけ後方を確認したが、投げたナイフ同様、刺さっていた跡だけ残し、全て消えていた。
「意外とやるじゃない。」
「お褒めにあずかり光栄ですってか?」
おそらくは本心なのだろう。表情を隠す気もないようだ。だが、この状況ではそれはただの皮肉でしかない。
「さぁ、次よ。幻世・ザ・ワールド」
言葉とともに、咲夜はまたナイフをばらまく。
ただ、さっきとは軌道が明らかに違う。ほとんどのナイフはおそらく適当に投げたのだろう。だが、その中にこちらを狙ってくるナイフがあるだけで、全てを躱すのは非常に困難になる。
(クソッ!数が多すぎる!)
いくら見極めることができても、対象物がありすぎて、死角ができてしまう。致命傷にならないように避け続けるも、体に浅い傷が増えていく。
「そこッ!!」
ナイフの弾幕に紛れて背後に来ていた咲夜に回し蹴りをかます。
だが、彼女はそれを余裕でかわす。
「同じ手が通じるほどバカではないようね」
何か言っているが、聞いている余裕はない。次々と向かってくるナイフを避けつつ、思う。
(やっぱり人のままじゃ勝てねぇか・・・!)
やりたくはないが、本当にやりたくはないが、背に腹はかえられない。
鬼としての能力もフルで発動させる。角が生え、さっきまであった浅い切り傷がすべてふさがっていく。
「なっ・・・貴方、何者・・・?美鈴を倒したっていうから、人間ではないと思っていたけれど・・・」
まさか本物のバケモノだったとは。
「色々と事情があるんでね」
飛んでくる最後の一本の刃を、素手で握りつぶしながら言う。
「こっからが本番だ。覚悟しろよ」
一瞬で階段の上の咲夜がいるところまで跳躍、かかとを下ろすが、転移させられてしまう。
鬼が相手ならば、出し惜しみしている余裕はない。一気に片をつける!
「幻葬・夜霧の幻影殺人鬼!!」
咲夜の周囲に紅いオーラを放つナイフが設置され、(おそらくランダムで)こちらに放たれる。さっきの技より、ナイフの速度は段違いだ。
向かってくるそれを弾き、躱しながら再び数歩で彼女のもとへ到達する。
もう一度全力の右で殴りつける。だがそれは彼女の居た場所に、大きな亀裂を作っただけだった。
(今度は上か・・・!!)
見上げると、彼女はすでにナイフを放ち、自身もナイフを手にし、斬りかかってきていた。
「チィッ!」
後ろに飛び退き、なんとか軽傷ですます。
「もう一丁!!」
再び殴りかかる。だが、彼女はそれを、瞬間移動を使わずに避けた。
「くっ・・・力任せな・・・!!」
その後に彼女はまた転移する。
彼女はなぜ今、転移せずにかわした?もしかして、連続して転移することはできないのか?だとしたら・・・
確かめる余裕はない、それに賭けるしかないだろう。
「ふっ!!」
距離をとらせないようたたみかける。
「まだまだァ!!」
右腕と両足で、怒濤のラッシュを繰り広げる。
躱しきれなくなったのか、彼女はとうとう転移する。
よし、今が攻めどき・・・!!
「あまり使いたくなかったのだけれど・・・!」
そう言うと彼女はまた、自身の周囲にナイフをばらまいた。
(またそれか・・・!!)
だが、先ほどと明らかに違う点がある。
速度、だ。
投げたナイフに高速で飛んでくるもの、遅延が発生しているもの、途中でいったん減速、再加速してくるものなど、ひとつとして同じ速度のナイフがなかったのだ。
俺は、大きな思い違いをしていたのだ。彼女の能力は瞬間移動ではなく、おそらく時間を操る能力。
それならば、全てに説明がつく。
そしておそらく、咲夜は俺が彼女の能力に気づいていないことを分かっていた。だから、今の今まで、加速や減速をしなかった。
「クソがッ!避けづれぇったらありゃしねぇ!」
「時符・プライベートスクウェア!!」
彼女がそう唱えると、世界が加速した。飛び交うナイフ、瓦礫の落ちる速度、その全てが。
(いや、違う。これは・・・)
「貴方が、減速したのよ」
かなり疲弊した様子で、彼女はこちらに語りかける。
「さぁ、仕上げといくわよ」
咲夜は、さらに多くのナイフを投擲してくる。
全身に切り傷ができていく。何本かは、腕や足に刺さっている。
致命傷がないのは、彼女がそれだけ疲弊している証拠だろう。
(くっ・・・まずい!はやくとどめを・・・)
「あっ・・・」
咲夜の技の効果が切れる。世界が減速する。
「もらったぁぁぁぁ!!」
勝った。彼女が次に能力を使うまでまだ時間がある。
その状況で、彼女は
──笑みを浮かべていた。
「咲夜の時間」
─────全てが、停止した。
「はぁ・・・まさかここまで追い詰められるとは思わなかったわ・・・」
息を切らしながら、静寂の中で彼女は言う。
「咲夜の時間」今までにたった一度しか使ったことがない、彼女の切り札とも言える技だ。
「お嬢様以来かしらね・・・これを使ったのは・・・」
反動で、体が重い。視界がぼやける。
ぼろぼろの体に鞭打ち、ナイフを設置していく。
「はぁ・・・どうあれ、これで終わりよ・・・」
時間停止、解除。
「俺の勝ッ・・・」
刹那、予備動作などは一切なく、自分を中心に球状にナイフが配置されていた。
一体何が起こった?彼女は能力を使えないはずでは?考えることもできないまま、ナイフは動き出す。
(あっこれ死・・・)
「んで・・・たまるかぁぁぁ!!」
迷っている暇はない、走り出す。
前方のナイフを数本取り、さらに数本弾く。動かない左腕を盾にし、突っ込む。肩や胸、足にナイフが刺さっても走り続ける。
「アアアァァァァァァ!!!」
「ホント・・・つくづくバケモノね」
呆れたように彼女は、向かってくる“鬼”にそう呟いた。
動けない彼女の首に手刀を入れ、気絶させる。
「あの程度の攻撃避けらんないようじゃ・・・俺は紫との修行でとっくに死んでるよ」
おそらくもう意識のない彼女に向かって、そう囁いた。
「ハァ・・・痛って・・・」
倒れた彼女を支え、大きな声で言う。
「おい!その辺に誰かいんだろ!この人頼んだぞ!」
柱の裏で何かが動く気配がする。おそらくほかの従者たちだろう。
「さっさと・・・痛っ、腕治してもらわねぇと・・・」
体に刺さったナイフを引き抜き、彼は今度こそ、図書館へ向かって歩き出した。
いかがだったでしょうか。今回は咲夜さんとの戦闘回でした。自分で書いてて、時止めとかチートやん勝てるわけねぇとか思ってましたが、なんとか無理くり勝ってもらいました。次は、パチュリーに会いに行くところから始まります。また次回も、読んでいただけると嬉しいです。