第62話 さとりとフラン
私は、なぜ嫌われなければならなかったのだろうか。
なぜ、生まれてきたのだろうか。
なぜ、消えることすら選ばなかったのだろうか。
なぜ、ナゼ、何故。
「あれー? こんなおっきなお屋敷なんてあったっけー?」
古明地姉妹の妹、古明地こいしがたどり着いたのは紅魔館。
久しぶりに湖に足を運んだため、こいしは紅魔館ができていることを知らなかったのだ。
「なんか楽しそうなとこだなぁ。入ってみよー」
無論初めて見るものなど好奇心旺盛なこいしにとっては新しいおもちゃ同然で。
自分が他人に気づかれないのをいいことに、館へと近づいて行くのだった。
──紅魔館 門前──
「近くで見るとよりおっきー!」
門の前に立ち、自分の家と同じくらいの大きさの家を見る。
「こんにちはー、お邪魔しまーす」
気づくはずもないが、寝ている美鈴に声をかける。起きていても気づかないだろうが。
無論起きない美鈴を気にもかけず、こいしは勝手に門を開けて中に入っていった。
──紅魔館 エントランスホール──
「わー、外から見たのより広ーい」
中に入ってみての第一声はそれだった。
辺りを見回せば、メイドたちが忙しなく動いている。
「 あなた達はキッチンの掃除を5分後までにお願い。そこをウロウロしてる子は図書館に行ってパチュリー様に何が食べたいか聞いてきてちょうだい」
その中心で指示を飛ばしているのは十六夜咲夜だ。
的確に指示を出し、自身も光速で移動してその完璧な仕事ぶりを今日も発揮している。
「すごーい。ウチにも少し欲しいかもー」
咲夜を見ていたこいしは思わず感嘆の言葉をもらす。
だが、すぐに他のものへと意識は移動してしまっていた。
「ふぅ……あら?」
咲夜とこいしの視線が合う。
二人が、歩き出す。
そして、息のかかる距離まで近づいて、
「ドアの閉め忘れかしら」
二人はそのまますれ違った。
咲夜は特に違和感を感じることなく扉を閉めて仕事に戻る。
こいしの姿はすでにそこには無かった。
──廊下──
「わぁーいっぱい部屋があるー」
こいしはフラフラと館内を歩き回り、時折部屋の中を覗いてはまたフラフラする、ということを続けていた。
「この部屋はなんだろー?」
おもむろに扉を開け、部屋に入っていく。
その部屋では、レミリアが頭を抱えてうんうん唸っていた。
どうやら手元にある雑誌か何かを見て悩んでいるようだ。
「次はこれを咲夜に作らせようかしら。いやでもこっちも……。あーもう1日1つの制限がもどかしいー!」
レミリアの見ている雑誌を覗いてみると、何やら美味しそうな食べ物がたくさん並んでいる。
ぱふぇ……? なんのことだろう。
でも緑色っぽいのがかかっているぱふぇは美味しそうだ。
「私これがいーなー。今度お姉ちゃんにお願いしてみよーっと」
こいしはそれだけ言うと、すぐに部屋を出ていった。
「…………? 今誰かいたかしら……?」
再び廊下に戻ってこいしがフラフラしていると、前から金髪の少女がやってくる。
先ほど雑誌を見ていたレミリアによく似た顔立ちだ。
「色んな人が住んでるなー」
こいしは別に気づかれないと思い、少女の横を通り過ぎようとして、違和感に気づく。
少女が、ずっとこちらを見ている気がするのだ。
そしてそれは確信に変わった。
「ねぇあなた、どうしてここにいるの? お客さんなの?」
こいしを見て、そう言ったのだ。
「あなた、私が見えるの?」
「え、う、うん。見えるよ?」
突然当たり前のようなことを聞かれた少女は少し動揺している。
「私、古明地こいし! あなたの名前は?」
「フラン、フランドール・スカーレットだよ」
フランは少し警戒した様子でそう答えるが、その警戒もこいしが言った次の言葉で吹っ飛ぶことになる。
「私とお友達になってよ!」
「……え!? い、いいの!?」
フランはみるみる顔が明るくなっていく。
「もちろん! 私をヒントなしで見つけたのはフランちゃんが二人目だよ!」
「二人目? どうして?」
フランが首を傾げる。
「じゃあ一緒にお話しよ! 」
「うん!」
早速二人は空いていた部屋へ入り、お互いのことを話し始めた。
「だからねー、私を見つけられる人は少ないんだよー」
「そうなんだ……こいしちゃんも大変だったね」
こいしの話を聞いたフランが少し悲しそうな顔をする。
方向性の違いはあれど、同じ孤独を、いや、自分を超える孤独を今も抱えているこいしに同情したのかもしれない。
「でもねー。私はこれでもいいと思ってるんだー」
「何で? 誰にも見てもらえないのは寂しいよ……」
訳が分からないといったフランの顔を見て、こいしが微笑む。
「だって、私を1番に見つけてくれるのは、いつだって大好きなお姉ちゃんなんだよー?」
こいしが笑顔でそう言う。
その笑顔には、ただ純粋な姉への愛情を感じられた。
「ふふっ、今度はフランも見つけてあげられるね」
こいしにつられてフランも笑顔になる。
(なんだろう、この感じ。すごい……楽しい)
こいしにとっては初めてだった。
初めて、自分のことを古明地こいしとして見てくれた気がしたのだ。
「あ、もうこんな時間だ。こいしちゃんとお話するのは楽しいけど、もうそろそろ帰らないとお姉ちゃんも心配するんじゃない?」
フランに言われて空をみると、すでに暗くなり始めたころだった。
「うーん、私が帰らないのはいつものことだしなぁ」
「でも、こいしちゃんのお姉ちゃんはきっといつも心配してると思うよ?」
フランは真剣な表情でそう言ってくる。
初めてだ。お姉ちゃん以外でこんなにも自分のことを思ってくれる人は。
「……うん、分かった。今日はもう帰るね」
こいしが立ち上がる。
「ねぇこいしちゃん」
「なーに?」
部屋を出ていこうとしたこいしを、フランが呼び止める。
「また……来てくれる?」
「…………!」
こいしが目を丸くする。
今日は……初めてのことだらけだなぁ。
「もちろん!」
とびきりの笑顔でそう答え、こいしは地霊殿へと帰るべく、紅魔館をあとにする。
お姉ちゃんお姉ちゃん。私、お友達ができたよ。とってもかわいくて、私のことも心配してくれるの。
その子の名前は──
──地霊殿──
「ただいまー」
こいしが地霊殿の扉を開ける。
だが、誰からも返事はない。
「………………」
そのままさとりの部屋へ行こうとした時だった。
「おかえりなさいこいし様ーっ!」
横からお燐が飛びついてくる。
「わわっ、お燐どうしたのー」
「ふふふ……今日はこいし様が帰ってくる気がしたのでこいし様の好きなものを作って待ってたんですよ」
こいしから離れながら嬉しそうにお燐は言う。
「あ、こいし様だー。いってきますー!」
そこへ、お空がやってくる。
「お空、人が帰ってきた時はおかえりなさいでしょうが!」
「あれーそうだっけ? あははー」
お燐にツッコまれ、お空は頭をかいている。
そこへ、
「騒がしいわね……どうしたの?」
地霊殿の主、古明地さとりがやってくる。
「あら、こいしじゃない」
「お姉ちゃんっ、ただいま!」
「ふふ、おかえり、こいし」
小さく微笑み、こいしのもとへと歩いてくる。
「あのねあのね、聞いてほしいことがあるの!」
「なあに、ちゃんと聞くわよ」
「私ね、お友達ができたの!」
その言葉を聞いたさとりは、一瞬大きく目を見開き、やがていつもの優しい微笑みにもどる。
「そう……お友達が……。よかったわね、こいし」
さとりがこいしの頭を撫でる。
「えへへー」
「あ、こいし様ずるーい。私もー」
その様子を見ていたお空も、さとりにおねだりする。
「ちょ、お空! 失礼でしょうが!」
お燐はやめさせようとするが、さとりは優しくそれを許す。
「いいわよ、こっちに来なさい」
「やったー!」
「お燐、あなたも来なさい」
さとりのサードアイが開いている。おそらくお燐の心を読んだのだろう。
「……! ………………お願いします」
頬を赤らめながら小さな声で呟き、お燐もさとりに近づく。
「ねぇねぇお姉ちゃん。私のお友達の話聞きたい?」
「えぇ、ぜひ聞かせてほしいわ。じゃあ夕飯を食べながらにしましょう?」
「うん!」
さとりのその言葉でお燐とお空も食堂へ歩き出す。
その少しあとをさとりとこいしが並んで歩く。
私の一番のお姉ちゃん。
私のことをいつも思ってくれて、いつも最初に見つけてくれる。
私はそんなお姉ちゃんが
──大好きだよ!
いかがだったでしょうか。
今回はこいしちゃんメインのお話ですね。
妹繋がりでフラン様も書けて満足です。
あの二人には本当に幸せになってほしいですね。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




