第61話 無縁塚と閻魔
──香霖堂──
店に入ると、すでに準備は終えているらしい霖之助が出迎えた。
「やぁ、こんな早くに来てくれるとは思わなかったよ」
「お前に呼ばれりゃすぐ来るけどよ……なんでこんな早いんだ?」
外を見回しながら霖之助に問う。今はまだ太陽がようやく顔を出したというころだ。
「そこそこ遠い場所にあるからね。夜になる前に帰ってきたかったし……とりあえず、歩きながら話そうか」
「おう」
そう言うなり霖之助と俺は店を出て、魔法の森のほうへと向かった。
──魔法の森──
「目的地はこの森のどっかなのか?」
森の中のかなり奥まった場所まで来たところで、霖之助に行き先を聞く。
「いや、無縁塚という場所でね。知っているかい?」
「無縁塚……聞いたことはあるが場所は知らないな」
確か紫だったか霊夢だったかが一度教えてくれた気がする。危険な場所だとも言ってたような……。
「そうか、では説明しようか」
そう言った霖之助の顔は少し嬉しそうだ。
霖之助は自分の知識を人に教えるのが好きらしい。教え方も上手いからなかなかに助かるのだが、特定の人間としかあまり仲良くしてないからな……。
「まず無縁塚、というのは幻想郷に存在する共同墓地で、無縁仏の集合体なんだ」
面積は結構小さめで、魔法の森を通り抜けて再思の道を進んだ所に存在し、周りは木で囲まれているんだ。
「再思の道?」
「そう、その名の通り、再び思い直す道である。思い直すのは主に外来人だけどね」
この辺り、幻想郷住民が滅多に来ないことも相まってか他所に比べ非常に結界がゆるいんだ。
そのため生きる希望をなくしたり、幻想になりかかってたりする人間がときたまふらふらと迷い込んでしまう事があるのだ。
そして彼らはそのまま幻想郷に入って行ってしまう・・・のかと思いきや、いきなりふと立ち止まり来た道を引き返して行くんだ。
彼岸花が密集した場所を歩いているうちに生きる気力が湧いて来ると言っているらしいね。
「へぇ、いいことじゃねぇか」
「僕もそう思うんだけど、まぁここは幻想郷だからね……彼らのほとんどは帰ることは叶わないんだ」
「……あっ」
「分かったみたいだね」
そう、外来人が来やすいと言う事は当然それを知っている妖怪も居るわけで・・・もちろん人家などは近くに無いので助けも呼べない。もしかしたら張りこんでる妖怪も居るかもしれない。
「なるほどな……ってか結構危ねぇ場所なんだな」
「まぁね。だから君を呼んだのさ。……っとと、脱線してしまったね」
どこまで話したかな。
そうそう、無縁塚は再思の道を抜けた先にあってね。
幻想郷では遺体を放置すると妖怪化する可能性があり、人間と妖怪のバランスが崩れる可能性もあるんだ。だから縁者のいない遺体であっても発見されればここで纏めて埋葬される。
とは言っても人間の住む場所も限られている幻想郷には「無縁」の人間など殆どいない。みんな人里周辺に住んでいるからね。
そのためここの墓に眠る人間の殆どは幻想郷に紛れ込んだり、妖怪の食料として連れて来られた「外の世界」の人間なんだ。
「それ連れてきてるのってまさか……」
「そう、君もよく知る八雲紫さ」
「なるほどなぁ……あいつも妖怪らしいことしてんだな」
……続けようか。
その内墓の下に眠る外の人間の比率が大きくなったことで、この周辺の結界が緩み外と繋がりやすくなっていると言う事態にまで発展してしまっているんだ。しかも墓地であるため冥界とも繋がりやすく、そのため外と内、そして冥界の3つの『ありえない結界の交点』と化して、自分の存在の維持をすることが困難になる場所になってしまっている、らしい。
「すげぇな……そんなとこに行くんだもんな。で、らしいってのは何でだ?」
「うん、僕は今までにも何度か行っているんだけどね、そんな感覚に陥ったことは無かったし」
なんだかんだ言って霖之助も中々やばいことしてる奴だよな。
「話しているうちにもう森を抜けそうだ」
視界の奥に明かりが見える。
初めて行く場所。少しわくわくしているのはきっと気のせいではないのだろう。
──再思の道──
「……道?」
「一応道だよ。彼岸花で見えないけど」
この辺はまだ冬に入っておらず、ギリギリ秋の範疇のようだ。
多くの彼岸花が美しく咲き乱れ、道を覆っている。
……美しい、というのは語弊があるか。見る者によっては毒々しいと感じるかもしれない。
「で、霖之助はなんのために無縁塚に行くんだ?」
「そうだね……君はヒヒイロカネって知っているかい?」
メガネを指で押し上げ、首を少しこちらに向ける。
「ヒヒ……なんだって?」
「ヒヒイロカネ、まぁ知らなくても当然か」
霖之助は再び前を向き、歩き出す。
「なんせ僕が名前をつけたんだからね」
「へぇ……そうなのか」
そりゃあ俺も答えらんねぇわ。
「それを取りに行くのが目的?」
「あぁ、魔理沙の八卦炉をヒヒイロカネ製にしようと思ってね」
八卦炉……魔理沙がいつも持ってるあれか。風を出したり火を出したり結構便利そうなんだよなアレ。
「その金属、なぜか錆びない上にどんな環境においても性質が変化しないようなんだ。初めて見た時は驚いたよ」
霖之助が少し興奮気味に捲し立てるが、俺からすれば何を言ってるのかさっぱりだ。すまん。
「さて、もう着くよ」
霖之助の言う通り、もう彼岸花の切れ目が見えていた。
──無縁塚──
「これは……なんとも……」
周りを見回すと、墓標などの代わりなのだろう。両手に収まるほどの石があちこちに置いてあるだけだった。
「無縁塚なんてこんなものさ。だから僕も、こうして来た時は弔うくらいはしてるんだ」
霖之助の方を見ると、石の前にしゃがんで手を合わせていた。
「まぁ感覚的にだけどあまり長居しないほうがいいと思うぞ? 見張っててやるからはやく目的の物とって帰ろうぜ」
「元よりそのつもりさ。10分ほど待っててくれ」
そう言うと、霖之助はそのヒヒイロカネとやらを探し始めた。
(俺もちょっとぶらぶらするかな)
霖之助に何かあっても駆けつける範囲で無縁塚を探索することにした。
──数分後
(……なんかおかしいな)
さっきと明らかに空気が変わった。
霖之助の方を振り返ったが、彼の姿がない。
迷わされたか……。
「どうすっかねぇ……」
全く見知らぬ場所でこんなことになっては正直打つ手がない。
頭を抱えていると、誰かが近づいてくる。
「貴方はまだ生者のようですね」
「……あんたは誰だ? ここ、人が来るような場所じゃないはずだけど」
見たところ俺より5センチほど低いくらいの身長の女性で、美鈴と同じくらいだろうか。
手には棒を持っている。
「私は四季映姫。閻魔です」
「そうか、俺は銀……って閻魔ァ!?」
嘘だろ、閻魔ってあの、えっえっ?
「私が何者か、貴方が何者かはこの際どうでもいいです。ここは生者が来るべき場所ではありません。幻想郷へと帰して上げましょう」
そう言うと、彼女が手に持っている棒(閻魔らしいのでおそらく悔悟の棒)をこちらに向ける。
「いや、ちょっと待っ」
だが、俺の声など関係なく少しずつ景色が遠のいていく。まるで、全て幻か夢であったように。
「……戻って、来たのか」
気がつけば、そこは無縁塚だった。
近くで霖之助が呼ぶ声がする。
「銀! あぁよかった、ここにいたのか」
霖之助が息を切らしながら走ってくる。どうやら相当探してくれていたらしい。
「すまん、ちょっと妖怪がいたもんでボコしてた」
「そうならそうと言ってくれ。焦ったよ」
霖之助は胸を撫で下ろしている。
「ヒヒイロカネ、見つかったのか?」
「あぁ、たぶんこれで足りるだろう」
「オッケー。んじゃ、帰るか」
霖之助と並んで今度は香霖堂を目指して元来た道を引き返し始める。
(閻魔……ねぇ)
少し気になることはあったが、おそらくもう会うことはないだろう。
俺が死ぬまでは。
(無駄に考えるのはよしとくか……)
頭を左右に振り、考えていたことを霧散させる。
その後は何もなく、無事に香霖堂まで帰ることができたのだった。
いかがだったでしょうか。
映姫様ちょっとだけの登場です。
彼女は何かの審判だったりフラっと人里に現れたりと、出番は結構あると思います。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




