第56話 地底編 動物とお燐
──地底 中心地──
「…………着いたな」
ここに来るまではちらほらと妖怪の気配を感じたり見たりしていたが、この建物の周りからは本当に何も感じない。まるでここだけ世界から切り離されているかのようだ。
「途中で凄い音がしましたが……霊夢さんたちは大丈夫ですかね」
銀の横に並んで文が言う。
「大丈夫に決まってんだろ。先に行ってりゃそのうち来るさ」
大丈夫だ。霊夢たちなら妖怪程度に負けるわけがない。少しでも俺たちで先に進み、あいつらの手助けをしよう。
「門、開けるぞ」
目の前にある大きな門を、力いっぱい押し開ける。
──地霊殿 中庭──
門を開ければ、そこは世界を間違えたかのようだった。
「…………なんだこりゃ」
「おおお! これは写真映えしますよ!」
犬や猫、トカゲのようなものに留まらず、人間ほどの大きさもある鳥や、白黒の馬など、多種多様の動物たちがいた。
「これ、一体どうなってんだ……?」
「さぁ? 珍しいものが見れたと喜べばいいんじゃないですか?」
「お前なぁ……」
呆れ気味に文にツッコもうもした時、殺気を感じた。人間ではない動物特有の、だ。
「あー……やっぱそういう感じ?」
見れば肉食系や草食系が共棲しているということは、こいつらが家族、という可能性が高い。そしてそんなところに部外者である俺たちが入ってきたら……。
「クッソ……動物相手とかしたことねぇぞ……」
確実な殺意を込めて、動物たちがにじり寄ってくる。
(あと一歩近づいて来たら殺る……)
そう覚悟を決めた時だ。
「あーーーーっ!!!」
突然建物の方から大きな声が聞こえる。
「ほ、ホントに来てくれたーーっ!!」
見れば、真っ赤な髪のおさげの少女がこちらに向かってくる。
「新手か……」
再び構えを取り直し、少女に向き直る。
「あ、ちょ、ちょっと待っておくれよ。あたいは戦いに来たんじゃないんだ!」
「……どういうことだ?」
何か彼女にも事情があるらしい。文とともに聞いてみることにした。
「あたいは火焔猫燐って言うんだ。お燐って呼んでいいよ。それで……じ、実は……」
彼女の話をまとめると、彼女の親友が調子に乗って地上を火の海にする、とか言っていたので、怨霊を地上に出して気づいた人に助けてもらおうということだった。
「あたい一人では止められないんだ。どうか助けておくれよぅ」
「いや、それは別にいいんだけど……あんたがここの主人なのか?」
俺がそう言うと、彼女は物凄い勢いで首を横に振る。
「そんな訳ないない! この地霊殿はさとり様が治めてるんだよ」
なるほど、つまり主人は別にいて、この子はその従者……なのかな? まぁどちらにせよ
「なんでそのさとり? ってやつに頼まないんだよ」
それを聞くと彼女はギクリとする。
「そ、その……その親友、お空のことを言ったら、お空は処分されちゃうかもしれないんだ」
……ここの主のさとりってやつはそんなに厳しいのだろうか。だが、お燐の表情から分かるように、どうやら本気らしい。
「てことは、俺らを招いたお燐だって処分されちまうんじゃねぇのか?」
俺の言葉に、お燐は真っ直ぐこちらを見て言う。
「お空が処分されるより何万倍もマシだよ」
その言葉は本気だった。本気で親友のためなら死んでもいいという覚悟が見えた。
なら、俺たちはそれに応えるしかない。
文を横目で見ると、彼女はやれやれといった感じで了承してくれた。なんだかんだ付き合ってくれる文に感謝だな。
「任せとけ。俺たちでお前の親友を止めてやる」
そう言うと、お燐が顔を輝かせて頷く。
「今ならさとり様も部屋にいるはず、案内するからついてきて!」
お燐が走り出すのを俺たちも追いかける。
入口の扉を、開ける。
「急いで! はやくしないと気づかれ」
「そんなに騒いでどうしたんですか、お燐」
「「!!」」
最悪のタイミングだった。
扉の先に10歳ほどの見た目の少女が立っている。おそらく彼女が、さとり。
「さ、さとり様……なんでここに……」
「いえ、本を読んでいたけどお燐が騒がしかったから、何かあったのかと思って……ってそちらの方々は?」
お燐からは冷や汗がだらだらと流れ続けている。どうやら喋れる状態ではない。仕方ない、ここは俺が。
「俺たちは……」
「お空に何をする気ですか」
「え?」
何も言っていないのに、さとりが威圧し始める。いやいや一体何が。
(銀さん、おそらく彼女はさとり妖怪と呼ばれる部類です)
(心を読むっていうあの?)
(はい、おそらくは)
だから俺のお空を倒す、という部分を読んでしまってこうなったのか。
「いや、それは誤解で……」
「心で思ったことが嘘な訳ないです」
ダメだ、聞く耳を持ってくれない。どうやら戦うしかないようだ。
「さ、さとり様」
「お燐は下がってなさい」
さとりの近くを浮く目がこちらを見据える。
「私は古明地さとり。私のペットは私が守る……あなた達に手出しはさせません」
(銀さん、お気をつけて。何をされるか分かりませんから)
(お前が手伝ってくれれば早いんだけどなぁ……)
そんなことを呟きながら、誤解から始まってしまった勝負が幕を開けた。
いかがだったでしょうか。
今回お燐、さとりの登場です。
お燐ちゃんは絶対いい子。さとり様もいい人。信じて。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




