第53話 地底編 嫉妬と橋姫
──地底 橋──
「………………」
「………………」
沈黙が場を支配する。
そしてもちろんその時の4人の心境は
(開口一番妬ましいって……)
これで一致していた。
「人間はもう引き返した方がいいわよ。この先は人間にとって天敵のオンパレード、危ないわよ」
次に発された言葉がそれだった。
だが、霊夢はそれに
「悪いけど、それはできないわ」
と返す。
まさか気遣ってくれるとは思わなかったが、俺たちも異変解決のためにここに来ている。引き返す訳にはいかない。
「人の忠告も聞かないその図々しさ、妬ましいわね……」
(めっちゃ妬むなこの子)
いや伝説通りの橋姫その人なら確かに嫉妬狂いだろうが、いくらなんでも妬みすぎでは。
「帰らないと言うなら力づくでも帰らせるわ」
彼女の周りに何か黒いオーラが渦巻き始める。おそらくあれが嫉妬……か。
(どうやら通してはくれないみたいですよ?)
(関係ない。このまま突っ走る)
文が意地の悪い笑みを浮かべるが、霊夢は迷わず即答する。
(ならチームに分けたらどうなんだぜ?)
(チーム?)
魔理沙の提案は、この4人を2人ずつの組に分け、片方がこのまま進み、もう片方が彼女を倒してから進むというものだった。
ちなみにチームは分けられていて、霊夢・魔理沙、銀・文の組だった。
(なんでこの組なんだ……?)
(私と霊夢は付き合い長いからコンビネーションでカバーできる。お前たちは実力でカバーできる。いいことだらけだぜ)
(なるほど、私はそれで構いませんが?)
(右に同じよ)
文と霊夢もその意見に同意する。文はこうなることが分かっていたように見えたが。
(じゃあどっちが彼女を倒す?)
(それは私と銀さんで行きましょう。霊夢さん魔理沙さんはお先にどうぞ)
(分かったわ)
(分かったぜ)
全員が橋姫に向き直る。
「帰る算段はついたかしら?」
彼女はそう言うが、4人の目を見てすぐにそれを撤回する。
「……つまんないことを言ったわ。忘れて。そもそもそんな頭があればここには来ないわね」
彼女に渦巻くオーラが大きくなる。
霊夢と魔理沙が一瞬目を合わせ、走り出す。
「行かせないわ。 妬符・グリーンアイドモンスター」
スペルが放たれ、緑色の蛇のような光弾を放つ。
「させませんよー!」
文が持っていた団扇を一振りすると、光弾がすべて吹き飛ぶ。改めて思うが天狗も中々の化け物だな。
「チッ……天狗か」
霊夢と魔理沙はもう走り抜けてしまって、橋姫も追うのをやめたようだ。
「あなた達は行かせないわ」
どうやら先ほどよりも本気のようだ。さて、こっちも本腰入れていきますか。
「それは困るな、ぜひ橋姫さんのお許しをいただきたいんだけど」
「橋姫じゃないわ。私の名前は水橋パルスィ、地底の番人よ」
パルスィと名乗った少女は、こちらに手を向ける。
「舌切雀・謙虚なる富者への片恨」
パルスィがスペルを唱えると、彼女が2人に分身し、光弾を放ってくる。
「フランのあれと同じやつか!?」
光弾を避けながらどちらが本物かを“見極める”。
「右かっ!」
すぐさま近づき、蹴りを放つが、左にいた偽物を盾にされ、躱される。その上偽物が消える瞬間に大量の光弾を放った。
「クソっ! ってうわわ」
両腕で防ごうとするが、それより先に後ろに引っ張られる。
「助かった」
「私はあくまで記者なので支援しかしません。頑張ってくださいね、銀さん!」
助けられておいてあれだが、イラッときた。あんなにいい笑顔で言い切られたら誰だって腹立つと思うんだ俺は。
「仲が良くて妬ましいこと。丑の刻参り・七日目」
パルスィが新たにスペルを唱えると、体が少しだるくなる。確か呪いの1種だったか。彼女はさらに光弾を高速で連射してくる。
「ほらほら銀さん頑張って」
「わーってるよ!」
文の風で後押しされ、なんとか光弾をかわしきる。
「じゃあ、内部からはどうかしら」
「あ?」
彼女が指をこちらに向ける。
「ッ!!」
体が動かない。頭の中に何かが流れ込んでくる。
「私は嫉妬を操る能力を持っているの。今流したのは私が溜め込んだ嫉妬心の一部。まぁ人格破壊はしない程度にしたから安心しなさい」
動かない俺を見る文にパルスィはそう語りかける。
「………………」
文は何も言わない。
「……………………」
「さて、そこの男は戦闘不能。引き返したほうがいいんじゃないかしら」
「…………それはどうでしょうね」
「……何?」
文がにやりと笑う。
「銀さん、そろそろ起きてください。霊夢さんたちが異変解決しちゃいますよ」
「……何を言ってもそいつには」
「そいつはマズいなぁ」
「なっ!?」
突然喋りだした俺にパルスィは驚きを隠せない。まぁあんなもんなんで見せられたのか意味不なのはこっちもなんだけどな。
「今のなんだ? 正直なんであぁなるのか訳わかんねぇわ」
「あんた……今の見てなんで無事なの?」
「俺生まれてこのかた嫉妬とかしたことねぇし」
俺のその言葉にパルスィは目を丸くする。まぁ嫉妬するほど仲いいやつがいなかったし、嫉妬より先に尊敬が来たしな。
文は後ろでにやにや笑っている。この中で1番性格悪いのはあいつで確定だな。
「そんな、嫉妬しない生き物なんているわけが……」
「いるだろ、目の前に」
「くっ、ジェラシー……」
「遅い」
パルスィの後ろに回り込み、首元へ手刀を入れる。
「悪ぃな、霊夢たちに先越されるのは悔しいからな」
倒れ込む彼女にそう呟く。
パルスィを静かに横たわらせた後、俺は文とともに走り出した。
「嫉妬……ねぇ」
「どうかしましたか?」
「いや、パルスィも他人を嫉妬するしかないってのは悲しいな、と思ってさ」
さっき流れ込んできたのはおそらく彼女が実際に見たもの。人間の嫉妬は本当に醜いものだった。彼女はその性質上それを見続けることしかできないはずだ。
───それは少し、辛いと思った。
「……そうでしょうか」
「え?」
文が小さく呟く。
「彼女は妬ましいとは言いつつも、他人に尊敬や憧れを抱いているように見えました。だから、そんなに難しく考えることはないんじゃないですかね」
珍しく、文が人のことを気遣った。
……そうか、そうだよな。俺だって心が読める訳じゃない。なら、彼女の心を決めつけるのはよくない、か。
「それにしても銀さん足遅いですね」
「鴉天狗と一緒にすんな」
そうして、文に背中を押されながら、霊夢たちの後を追うのだった。
いかがだったでしょうか。
今回はパルスィが出てきました。
彼女はたぶん根は優しいと思うんですよ。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




