第51話 地底編 アイドルと釣瓶落とし
──地底 入口付近 ──
長い長い縦穴を降りると、そこには異様な光景が広がっていた。
「……なんだありゃ」
「街……?」
そこから見えたのは、天井は見えないほど高く、見渡すことができないほど広い洞窟空間だった。
奥のほうには何か街のようなものも見える。
「いやー旧地獄はこんな風になってたんですねぇ」
文はそんなことを呟きながら、次々とシャッターを切っている。
どうやらここのことを知っているようだが、今はそんなことを聞いている暇もないだろう。
そう思って、歩を進めようとした時だった。
「ほら、こんな風にネタが尽きなくていいですね」
文が俺より少し上にカメラを向けてそう呟く。
嫌な予感がして振り向いたが、時すでに遅し。目の前には桶があった。なんでだ。
「どわぁぁぁぁ!?」
もちろん避けられるはずもなく、桶+何かの重みを顔で受け止め大地に倒れ込む。
「あんたも災難ねぇ……」
「そーゆーのは勘で躱すもんだぜ」
「あーいいですよーいい画が撮れてます」
「お前らなぁ……」
口々にそう言う3人に若干というかかなりキレながら頭の上の桶をどかすと、そこにはなぜか少女が入っていた。
「………………なにこれ」
俺のその疑問には文が答えた。
「これはアレですね、釣瓶落としという妖怪だった気がします」
「「釣瓶落とし?」」
俺と魔理沙が全く同時に聞き返す。
霊夢は知っているのか単に興味がないだけなのか、いつもの無表情のままだった。
「確か真下を通りかかった人間を上から落ちて食うという妖怪です。食べられなくてよかったですね」
意外と怖いのねこの子。見た目によらないってことか。
文の説明に頷きながら、明らかにおかしい点に気づく。
「この子、どこから落ちてきたんだ?」
「………………」
その質問に答える者は、誰ひとりとしていなかった。
特にそれ以上襲ってくる様子もないようなので、その子はそのまま放置して先に行こうということになった。
「あなたのお名前をお伺いしても?」
文が桶の少女に名前を聞き始めた。なんでも記事にするとき名前不明だと映えないだとかなんとか。
「…………キスメ」
「キスメさん、ですか。ご協力ありがとうございます」
どこから取り出したのか、彼女の名前を手帳に素早く書き込んで手短に礼を告げる。
「文ー、さっさと行くわよー」
「はやくしないと日が暮れちゃうのぜ。太陽見えないけど」
「はーい今行きますよー」
霊夢と魔理沙に急かされて、文は間延びした声で返事をするのだった。
──少しして
また少し歩くと、人影が見えてきた。
地底の妖怪二人目、いったいなんの種族なんだろうか。
「あーっ!」
その女の子は、こちらを見るなり大きな声を上げる。
「あなた達人間!? どうやって来たの? 何しに来たの? 私の名前? 地底のアイドルヤマメだよっ」
そしてこっちに近づいて来るなり一気にそうまくし立てた。待て、情報量が多すぎる上にめっちゃハイテンションだな、少し落ち着け。
「それであなた達地上の人よね! なんでここに……」
「ストップ、ちょっとそれ以上こっちに来ないで」
そこで霊夢がなぜか近づいて来る少女を止める。
(どうしたんだぜ霊夢、何かあるのか?)
(私の勘がこいつはなんかヤバいって言ってるのよ)
何やら内緒話をしていた霊夢と魔理沙だったが、すぐに少女に向き直り、一言。
「あんた、種族は?」
「え、私? ヤマメちゃんは土蜘蛛だよっ」
ピースした手を目元に当てながら堂々と言い切る。
「アウトね」
「アウトだぜ」
「えぇ〜っなんでなんでぇ!」
それを聞いた途端に2人の態度が一変する。一体どうしたというんだ。
(なぁ文、なんであの二人はあんな反応してんだ?)
こっそりと文に耳打ちすると、すぐに答えが返ってきた。
(土蜘蛛は疫病を撒き散らすんですよ。妖怪には影響はないですが、人間からすれば天敵そのものですね)
(なるほど……)
つまりはそういうことらしい。地底に押し込められるわけだ。おそらくここにはそういった訳ありの妖怪が多いのだろう。
「じゃあ聞くけど、あんた害を為さないって証拠ある?」
霊夢がそう聞くと、まさにギクッとした表情を浮かべるアイドルヤマメ。
「い、いやーその、通りかかった人をたまーーーに病気にしてみたり……」
バカ正直にそう答えてしまったヤマメは、その時点で霊夢のお祓い棒の餌食になることが確定した。ご愁傷さまです。
「決まりね」
「いや待って! 別にあなた達に危害を加える気はあいったぁぁ!!」
あぁ……いい音で殴られたな……。
いつもは自分がやられる立場なだけに、少しヤマメに同情する。しかもまだなんもやってないしな。
「うぅ……ひどい……」
「さっさと行くわよー」
小さく呟くヤマメに目もくれず、霊夢と魔理沙はさっさと行ってしまった。
「お悔やみ申し上げます……」
なんだか死んでしまったみたいな扱いをした後に文は霊夢たちを追いかけた。
「その……なんか、ゴメンね?」
最後に俺はそう言ってヤマメに頭を下げ、霊夢たちの後を追う。
地底のアイドル、強く生きろよ……。
心の中でエールを送り、異変解決へとさらに奥へ進むのだった。
いかがだったでしょうか。
今回はキスメとヤマメの登場です。ヤマメはいいキャラしてると思うんですよホント。不憫なだけで。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




