第49話 緋想編 エピローグ
「っとに面倒くさいわね……」
空を飛びながら博麗霊夢は呟く。
「河童がいるのはどの辺りだったかしらね……」
まぁ勘に従えばいいだろうという安直な考えのもと、彼女は河童を探すのだった。
──博麗神社──
コツコツと、誰かが近づいてくる足音がする。
誰が来たかは分かりきっているが。
「なんで空は青いのかしらね。黄色だって緑だってあるのに」
別に答えてほしくて言ったわけではなかったが、その人物は静かに答える。
「いいじゃないですか、青。総領娘様の髪色と同じで美しいと思いますよ?」
その言葉に天子が少しムッとする。
「珍しくお世辞を言うじゃない。いつもは叱ってばかりなのに」
「それが私の能力ですから」
そう言って天子の顔をのぞき込んだのは、リュウグウノツカイ、永江衣玖だった。
「満足しましたか?」
含みのある笑顔でこちらに笑いかける。やっぱり空気読む気ないでしょ。
「私、本気出したのに思いっきり負けてこうなってんだけど。分かっててそれ言う?」
「いえ、可愛らしい笑顔でしたので」
「笑顔?」
言われて初めて、自分の頬に触れてみる。なるほど、確かに少し口角が上がっている。
(負けたけど楽しかった……か)
それは、彼女が初めて感じたことだった。天界では、そもそもの地位が低く、蔑まされることが多かった。全員が目の前にある快楽で満足し、すべてが停滞した『つまらない世界』だった。
そんな天界に嫌気がさした彼女が、こうやって異変を起こして片っ端から勝負を吹っ掛けたのだ。
「強い人間もいるものね。私知らなかったわ」
「幻想郷にはまだまだ魅力がありますよ?」
「…………そうね」
あまりにも衣玖が叱らないので少し調子が狂う。
「あーあ、悔しいってこんな感じなのね。不快で仕方ないわ」
大声でそう言う彼女を、衣玖は静かに見守る。
「でも……」
天子が小さく笑う。
「次勝てた時は、いつもよりもっと楽しいのよね!」
その笑顔は、小さな子供のようで。
「えぇ、きっと」
確信を持って、衣玖は答えるのだった。
「なーにいい話風にしてんのよ」
「げ、帰ってくるの早い……」
そこには、河童を連れた霊夢が立っていた。
「まさかあんなに速く飛ぶとは思わなかったよ……」
顔を青ざめさせながら河童は言う。
「はいはい悪かったわね。で、どれくらいかかるの? 時間もお金も」
「うわぁまた派手にやったなぁ」
ぶつぶつと呟きながら彼女は神社のあった場所を見て回る。
「うーん、一から建て直すしかないかなぁ。明日から始めるとして……完成は明後日かな。それでお金は……」
おもむろに電卓を取り出し、計算を始める。
「これぐらいかな」
「……………………」
そこに映し出された金額をまじまじと見つめ、天子にも見せる。
「天人、この金額、ちゃんと払ってもらうわよ」
「うぇぇ……ボロっちいからもっと安いかとあ痛っ」
天子が言い終わるより早く霊夢の拳骨が飛ぶ。ただ、殴った本人も痛かったようで、手を押さえていた。
「総領娘様……?」
「ひっ」
そのやり取りを見ていた衣玖が天子の背後に回り込んでいた。
「帰ったらお説教のお時間にしましょうか」
衣玖は笑顔だったが、目が笑っていなかった。
「ち、違うの、これには訳があって……」
「言い訳はあとで聞きます。それでは皆さん、お騒がせしました」
「うぅ……」
霊夢に向かって一礼したあと、衣玖は天子の襟首を掴んでずるずると引きずりながら帰っていった。
「今日と明日は宿無しか……どうしようかしら」
「うちキュウリならあるよ?」
「遠慮しとくわ……」
河童はどこから取り出したのか、キュウリをかじっている。
「はぁ……あそこしかないか……」
少し、面倒くさい。どちらかと言えば貸しを作ってしまうことが非常に後で面倒くさそうなのだ。
だが、背に腹はかえられない。
「……紫」
「ずいぶんと覚悟してたようだけど?」
名前を呼んだ瞬間にスキマから紫が顔を出す。
「うっさい。事情は分かってるでしょ? 今日と明日泊めてくれないかしら」
霊夢がそう言うと、紫は迷う素振りもなく即答する。
「いいわよ。もう一人増えたところで変わらないから」
「もう誰かいるの?」
だが、紫はその質問には答えずに霊夢をスキマで飲み込んだ。
「あれ、霊夢じゃん」
「…………そういうことね」
着いた場所は紫の屋敷。
目の前にいるのは呆けた面をした銀。状況をすべて理解した霊夢は、お祓い棒を構える。
「待て、なんでそれを構える。いや俺はお前なら解決すると信じた上でここにゴハァッ!!」
「っとにこいつは……」
いつもの。
そこへ、料理を持ってきた藍が止めに入る。
「まぁそう言ってやるな、紫様と私以外での食事なんて久しぶりなんだ。仲良くしてくれてもいいだろう?」
「……はいはい」
「霊夢ーはいは1回よー」
スキマを器用に使って上半身だけ出した状態の紫が言う。
「うっさい」
そんな紫を適当にあしらう。
そんなこんなで、今回の異変も無事解決したのだった。
──そのころ、天子は──
「だからいつも言っているでしょう? 後先考えずにこんなことするから……」
すでに一時間ほどの説教を受けているが、一向に終わる気配はない。
「うぅ〜ごめんなさい~」
いつ終わるか分からない説教に、天子はそう言うしかなかった。
いかがだったでしょうか。
なんとか終わりましたよ緋想天。
天子ちゃんは負けまくってますがほとんど手加減してただけなのでご了承ください。(霊夢の時と妖夢の時の剣は本気)
次は閑話抜きで地底に向かう予定です。
また次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




