第47話 緋想編 半人前と兎
「……で、どこへ行ったか分からないと」
「あぁ! 悪いな霊夢!」
全く悪びれていない魔理沙は元気に謝る。こいつも一度痛い目見たほうがいいんじゃないだろうか。
「……はぁ。一旦神社に戻ってみようかしらね」
「天人探し、頑張れよー」
「はいはい……」
魔理沙の言葉にもはや呆れしかなかったが、ほんの少しの確信を持って、神社へ戻るのだった。
──博麗神社近く 草原──
「幽々子様、この辺にいるって言ってたけど……ホントかなぁ」
現在妖夢がいるのは博麗神社の近く。こんなところで何かあれば霊夢がすぐに飛んでくるはずだ。それでも幽々子様がここと言ったなら何かあるはずなのだが……。
「うーん、やっぱり何にも……ん? あれは……」
妖夢が立ち尽くしていると、何やら向こうから人がやってくるようだ。どこからか風も吹き始める。
「うぅ……師匠は人使い、いや兎使いが荒いです……」
やってきたのは耳をしわしわにした鈴仙だった。
「あ、鈴仙さんもここに来てたんですね」
「あれ、妖夢?」
山風を引き連れて来た鈴仙は、妖夢とお互いにここに来た経緯を話し始めた。
「それで、幽々子様が『幽霊の数が減ってるわねぇ、見てきてくれない?』って。こんなとこ、霊夢がすぐ解決すると思うんだけどねぇ」
妖夢がそう言うと、鈴仙はうんうんと頷き
「私も師匠に言われたのよね。『あぁ優曇華、ちょっと見てきてほしい場所があるの。地震に関係するところだから』って。分かってるなら自分で行きなさいっての」
と、上司の愚痴を言い始める。もちろん耳は生き生きと動いている。
「でも結局何も……」
「待って、誰か来る」
妖夢の声を遮って、鈴仙は耳を澄ませる。
(足音の感じから女性……私たちと同じくらい……迷わずこっちに向かってくる……!)
「妖夢、たぶん異変の関係者よ」
「…………!」
鈴仙にそう告げられた妖夢は長刀を構える。
「あら、もうバレてるとは予想外」
現れたのは、青髪の少女。手には刃が不明瞭な剣を持っている。
「あなたは……この異変の敵?」
優曇華の質問に、少女は笑い出す。
「せーかい! あなたたちは異変解決者ね」
その言葉を聞いた2人は即座に戦闘態勢に入る。
「私は比那名居天子。さぁ、戦いましょう!」
ほぼ同時に鈴仙と天子がスペルを展開する。
「赤眼催眠!!」
「無念無想の境地!」
鈴仙が銃弾のような弾幕を展開、天子の視界を操り、全方位から仕掛けたように見せかけるが、彼女自身の防御力強化のせいでまるで意味を為さない。
「弾幕が通らない……!」
「鈴仙さん、援護をお願いします!」
それを見た妖夢は即座に前に出る。
足下から飛び出る要石を右へ左へ躱しながら、あっという間に天子の元へ辿り着く。
「いいわ! 剣の勝負と行こうじゎない!」
妖夢の突きを右へ流し、切り上げる。だが妖夢はそれを短刀で防ぎ、十文字に斬りつける。
(短刀は捨て、長刀を防ぐ!)
瞬時に判断し、妖夢の長刀を防ぐ。硬化しているため、短刀のほうも刃が通らない。
「この程度なの!?」
天子が剣を大きく振りおろす。
妖夢はそれを後ろに飛び退いて躱し、刀を上段に構える。
「行きます。未来永劫斬!!」
妖夢の体が動くと同時に、鈴仙もスペルを展開する。
「幻視調律!!」
彼女は能力を応用し、効果の対象を妖夢にずらすことで、分身したと錯覚させる。
「な、分身!?」
もちろん天子がそれを知る訳がない。突然のことに対応できず、かろうじて身を捻ることで致命傷は避ける。
「やったの!?」
「まだ浅いです!」
「中々やるじゃない……」
(剣なら、本気を出してもいいかもね)
ほんの一瞬のための後、天子は妖夢に突進する。
「捌ききれるかしら! 気炎万丈の剣!!」
「くっ……!」
次々と繰り出される剣撃を、2本の刀を使って捌いていく。
そして、ほんの少しではあるが
────妖夢の方が上だった。
「せいっ!!」
「なっ!?」
天子の隙を突き、剣を弾きあげる。
「剣技・桜花閃々!」
妖夢はすかさず斬り下ろす。
剣閃が描いたところで桜色が弾ける。
「ぐっ……」
「まだ、立つのね」
妖夢の一撃を受けた後でも、まだかなりの余力を残しているようだ。
「鈴仙さん、次で決めます……」
「タイミングはそっちに任せたわよ……」
妖夢が左手を前に伸ばし、剣先をその上に乗せる。半身になり、下半身へと力を込める。
「来なさい、下界の者ども!」
「行きます!!」
妖夢が地面を蹴る。
「こんな技……!」
妖夢が全身のバネを使い、弾かれたように刺突する。
天子がそれを右へ流し、隙だらけの背中に剣を振り下ろそうとした。
が
刹那、妖夢の姿が消える。
「!?」
「幻朧月睨」
鈴仙の目が、紅く光っている。つまり消えたのは、彼女のスペルによるもの。
(まさか、今見ていたのは全て幻覚……?)
「空観剣」
背後から、妖夢の気配がした。
「ッ!!」
咄嗟に振り向き全力で剣を振るう。
だが、やはり焦りがあったのだろう。完全に重心がズレていた。
妖夢が天子の剣を流せば、彼女のバランスが完全に崩れる。
もちろん、そこには隙しかなく。
「六根清浄斬!!」
鮮やかな一閃。
妖夢の会心の一撃が決まり、天子がその場に倒れ込む。
「…………ふぅ」
妖夢が剣を収める。
「やったね妖夢!」
「やりましたよ鈴仙さん!」
2人が駆け寄ってハイタッチを交わす。
「鈴仙さんのサポートのおかげでなんとか勝てました……」
「ふふっ、妖夢の剣技が相手より上だったからだよ」
お互いのことを褒め合い、思い出したかのように天子のほうを振り向くと
「あ、あれ?」
「…………いないわね」
そこには、人がいた形跡だけを残して、天子は姿を消していた。
いつの間にか、2人の周辺の天気も直っていた。
「まさか半妖なんかに剣技で負けるなんて……」
悔しさに歯噛みする。
「……あと残るは、博麗の巫女ね」
その悔しさを胸の内に押し込み、歩いて行く。
そして彼女は静かに、神社のあった場所で霊夢を待つのだった。




