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人と妖怪とetc.  作者: 那々氏さん
第一章 亡き王女の為のセプテット
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第5話 紅魔編 門番とお願い

──紅魔館 門前──


先に動いたのは、美鈴だ。

瞬時に距離を詰め、踏み込み、拳を放つ。

だが、その動きは明らかに、


(手加減されてるな、こりゃ)


それもそのはずだ。彼女はまだ、俺が半妖であることをしらない。だが俺も、このまま黙っている気はない。


放たれた拳を正面から受け止め、蹴りを放つ。予想もしていなかったのだろう。分かりやすいくらいに美鈴の表情が変わる。


咄嗟に左腕で防ごうとしたらしいが、関係ない。全力で蹴りぬく。


「ありゃ、あんた結構頑丈だな」


吹っ飛ばされた美鈴が驚愕の表情でこちらを見ている。


「半妖・・・ですか・・・」


「ご名答。半分人間半分鬼だ。だけどあんたも十分頑丈だな」


「それだけが取り柄なんでね・・・!」


そう言うと、彼女の目つきが鋭くなり、動きが変わる、やる気になってくれたのだろう。そしてあの動きはおそらく、


(太極拳・・・か?)


ほんの少しだが殺気を感じる。俺も能力のほうはフルで使ったほうがいいだろう。意識を美鈴に集中させる。その一挙一動を見逃さないために。


美鈴の動きが止まる。準備が整ったのだろう。さらに意識を集中させる。


「いきます!」


声とともに、美鈴が動いた。先ほどまでとは段違いの速さで距離を詰めてきた。足からも踏み込むたびに気を放出し、加速しているのだろう。

掌底、正拳突き、上段回し蹴り、そのひとつひとつが達人と言えるだけの動きだ。だが、俺の能力はその全てを見切る。不安要素は、彼女がまだほとんど「気」を使ってこないことだ。


「くっ・・・!」


ほんの僅かな攻防だが、武術を極めようとしている美鈴には分かった。


この半妖は・・・強い!攻めてこられたら恐らく・・・

──負ける。

だけど、まだ相手は私の能力を把握しきっていない・・・やるなら今しかない!


「ハッ!!」


美鈴が気合いとともに、右足で思い切り踏み込んだ。


何だ?突きか?左での蹴り?そんな考えが頭をよぎった、刹那。


バチィッ!


「んな・・・ッ!!」


予想もしていなかった地面からの衝撃に体勢が崩れる。その隙を逃さず美鈴が距離を詰める。


今のはおそらく震脚。それを応用して、気を放ち、彼女の周囲に衝撃波を起こしたのだろう。


「しま・・・」

「遅い!」


美鈴が構え、踏み込む。


「三華・崩山彩極砲!!」


左での掌底。完全に体勢が崩れる。もう防げない。


美鈴は体を反転させ、右腕を頭の横に、腰を落とし左手を右もものほうへ突き出す。


そして


「ハァァッ!!!」


全身全霊をもって相手の躰を肘で打ち抜く。


彼女の技は虹色のオーラを放ちながら、鳩尾を的確に打ち抜き、景気のいい音とともに、俺の体を思い切り吹っ飛ばす。


だが、それでも俺は空中で体勢を立て直し、着地する。


「おー痛てぇ」


「ははっ・・・! 結構全力だったんですけどね・・・!」


思わず渇いた笑いが出てしまうほどに、デタラメだった。いくら半分とはいえ、鬼という種族はここまでの力を持っているのか。


表情だけで、美鈴の言いたいことが手に取るように分かる。彼女の技は確かに強力だった。だがそれだけでは足りない。クソ痛かったけど。


「あんた、やっぱり強いじゃん! ホントに闘えてよか・・・おっといけね、角が」


また角が出てしまった。今では多少の制御はできるようになったのだが、子どものころから、極度の興奮状態になったりすると、自身の半分である、【鬼】に力も姿も近くなる。本物の鬼よりかは、幾分か劣るが。今は理性を保てているからいいものの、たまに理性が吹き飛ぶから質が悪い。


「しばらくは戻せねぇな。まぁいいか。次は、こっちから行くぜぇ!!」

「させない・・・ッ! 光符・華光玉!!」


美鈴は両手を前に突き出し、鮮やかな色のエネルギー弾を連続で撃ち出してくる。それを全速力で左右に躱しながら、美鈴との距離を詰める。

恐らく、次の攻防で勝負が決まる。


「くっ・・・極光・華厳明星!!」


先ほどよりも強く、エネルギーが集約されているのが分かる。おそらくアレを受けたらひとたまりもないだろう。

距離にして約10歩。間に合うか。


残り9歩。

まだ彼女は技を放てる状態じゃない。


残り8歩。

さらに強く踏み込み、全力で加速する。


残り5歩。


「ハァァァァ!!!!」


美鈴が発動準備を終え、技を放つ。先ほどとは比べものにならない大きさの虹弾が放たれる。もう避けられない。


残り4歩。

一か八か賭けに出る。腕で顔を守りながら、虹弾の下を滑りぬける。


残り3歩。

美鈴は技の反動で動けない。驚愕と呆れの混じった表情でこちらを見ている。


残り1歩。

全力で踏み込む。左腕は使いものにならないので右でブン殴る。


「オラァッ!!」


美鈴の体が吹っ飛ぶ。


(浅い!)


恐らく殴られる直前に、気を放出したのだろう。かろうじて防いだようだ。しかし、美鈴はもう動けないらしい。

美鈴の前に立ち塞がる。諦めたのか、彼女はもう闘う気はないようだ。

俺は・・・


俺は、そんな彼女に手を差し出す。


「立てるか?」


「・・・殺さないんですか?」


「質問に質問で返すなよ」


「茶化さないでください」


どうやら彼女は本気で分からないらしい。真っ直ぐにこちらを見つめてくる。


「そりゃぁ単純だよ。あんたと闘ってるとき、滅茶苦茶楽しかった。そんな相手を殺すとか、もったいないにもほどがあんだろ?」


嘘偽りのない本心からの言葉。それはどうやら美鈴にも伝わったらしい。


「な・・・ふふっ」


「なんで笑う」


「いや、久しぶりにおかしい人に会ったものだな、と」


「大きなお世話だ」


軽口を叩きながら美鈴は俺の手を取り、立ち上がる。


「左腕・・・大丈夫ですか?」


心配してくれているらしい。だが、そんなことより


「そんなことより、門を開けてほしい」


「その腕では、お嬢様に勝つことは不可能ですよ」


「やってみなきゃ分かんないだろ?」


「いえ、負けておいてなんですが、断言できます。五体満足ならともかく、それではお嬢様の足下にも及ばない」


あまりにも迷いなく断言する美鈴に、少しばかり驚かされる。


だが・・・そこまで言うか。俄然やる気が出てしまう。


「でも、腕を治す方法がないしな」


半妖ということもあってか、傷の治りははやいほうだが、ここまでいくとさすがに2,3日はかかる。


「なら、パチュリー様にお願いしてみてはどうでしょう」


「パチュリー?」


知らない名前だ。


「パチュリー様は、お嬢様のご友人で大魔法使いでもあるんです。なので、おそらくその腕も」


「治せるって訳か」


「はい」


大魔法使い、魔術師の上位版みたいなものだろうか。だが、問題がある。


「だけど、素直に治してくれるのか?美鈴だって俺を止めた訳だし」


「私は門番なので・・・。ですがパチュリー様は温和な方です。戦闘にはならないと思いますよ。条件次第では、手助けをしてくれるかも」


戦闘には・・・か。部屋に入った瞬間落とし穴ズドンとか、顔見た瞬間「お断りよ」とか言われたら泣いて帰るぞ。


「条件って?」


「そこは銀さんの腕の見せ所です」


要するに俺のほうでうまくやれってことか。交渉とかはあんまり得意じゃないんだがな。


「で、そのパチュリーってのはどこにいるんだ?」


「パチュリー様はいつも大図書館におられます。今日もそこにいらっしゃるかと」


大図書館ね。初めて聞く場所だが、見れば分かるような特徴があるんだろう。


「分かった」


「あぁそれと・・・」


美鈴が、何かを思い出したように言う。


「なんだ?」


「不躾ですが、門を開けるかわりに、ひとつお願いをしてもいいでしょうか」


「・・・あぁ」


「妹様を・・・フランドール・スカーレット様を、連れ出してあげてほしいんです」


呼び方と美鈴の態度から察するに、おそらくはこの館の主の妹なんだろう。


「俺はかまわないけど、美鈴はそれでいいのか?主に刃向かったことにならないか?」


「侵入者に門を突破されちゃったんです。この際、もう大丈夫じゃないですかね」


「案外適当なんだな・・・」


館の雰囲気に似合わず、意外とゆるいのかもしれない。


「それじゃあ門を開けますね。私は門番なので、ここを離れることはできませんが、どうかお気をつけて」


「おう、妹の件、任されたぞ」


最後にそう言って、俺は館へと足を進めた。




美鈴は思う。

私を倒した彼なら、妹様をあの暗闇から連れ出してくれるのではないかと。もし、妹様を救い出すような人がいるとしたら、それは自分たちではなく、彼のような侵入者イレギュラーなのかもしれない。そんな、突拍子もないことを考えてしまうのは、自分がまだまだだという証明なんだろう。


「もっと修行しなくちゃなぁ・・・」


そんなことを口にしながら、彼女は真っ赤に染まった空を見上げるのだった。

いかがでしたか?今回初の戦闘ということで、美鈴の使う技について色んな資料をあさってきました。色々と間違いなどはあるかもしれませんが、その辺はご愛嬌で。次回は、紅魔館内部でのお話となります。また読んでいただけると嬉しいです。

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