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人と妖怪とetc.  作者: 那々氏さん
第4章 幼心地の有頂天
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第44話 緋想編 怒りと天人

──どこかの草原──


「いたたた……」


「…………私はこれ以上はやるつもりはないわ。あなたはどうする?」


大の字になって倒れ込んでいる少女にただひたすらに冷たい瞳で紫は言う。


もはや少女に選択肢などなかった。




──数分前──


「やっぱり貴女が最初みたいね。八雲紫」


振り向いた少女を、紫は殺気を放ちながら睨みつける。


「そんな怖い目で見ないでよ……」


「私が怒っている理由……分からないとは言わせないわよ……?」


紫は冷たく突き放す。


「むぅ、まぁいいわ!」


長い青髪を払い、少女は剣を手に取る。


「私は比那名居天子ひななゐてんし! さぁ、戦いましょう!」


「………………」


紫は何も言わずに佇んでいる。


「行くわよ! 要石かなめいし!」


天子の周りに注連縄しめなわが巻かれた石が浮かび、紫に向かって飛来する。


だが、紫は動かない。


「………………」


ただ彼女が一瞥しただけで、大量のスキマが展開、すべての要石を飲み込む。


「なっ!? そんなのズルくない!?」


空中に新たな要石を浮かばせ、天子はそれを足場にしながら跳躍する。


「喰らいなさい! 天地開闢プレス!!」


一際大きく跳躍し、超巨大の要石とともに落下してくる。


(さすがに避けきれないわね)


瞬時にそう判断し、スキマへと潜り込む。

刹那、とてつもない地響きとともに要石が地面に叩きつけられる。


「さすがにダメージはいっへぶっ」


スキマで背後に移動していた紫が鉄扇を横に薙ぐ。ただそれだけの動きで天子を数十メートル吹っ飛ばす。


「中々やるわね……!」


受け身をとったのか、すぐに立ち上がった天子が言う。


(なんなのこいつ……気質は漏れだしてるのに……弱点が定まらない……!)


……彼女の持つ剣は『緋想ひそうつるぎ』という。周囲の気質を集めて吸収し、力に変換することができるもので、気質そのものを切り裂くこともできる。相手の気質を放出させてその種類を見極めるとともに、吸収した気質をコントロールし相手の弱点の気質に変化し、弱点を突くことが可能なのだ。

ちなみに、霊夢たちの周囲の気候がおかしくなったのは彼女たちの気質がダダ漏れになり、それが天候に作用したためである。


本来であれば、気質が分かれば弱点が定まるはずなのだ。

それなのになぜか。

なぜか紫を前に、緋想の剣が絶えず変化し続けているのだ。


「くっ……! 要石・カナメファンネル!!」


緋想の剣がほぼ通じないと分かった天子は、新たにスペルを発動する。

天子の周囲に円状に要石が配置され、そこから5方向に弾幕が発射される。


「弾幕結界」


紫が天子のそれを相殺してもなお有り余る弾幕を放つ。


「ちょ、聞いてない! 無念無想の境地!!」


それに対し天子は避けることをせずあえて受けることを選んだ。スペルにより防御力を超強化、紫の弾幕を防ぎきると、すぐに次の行動に移る。


「剣技・気炎万丈の……」

「もうそろそろ終わりにしましょうか」

「なっ!?」


天子が剣を構えた瞬間、背後から紫の手に腕を掴まれる。

紫は、目の前にいるのに。


「一体何が──」


そこまで言ったところで天子は気づいた。紫の腕の肘から先がないことに。いや、正確にはスキマが展開され、その中に紫が腕を入れていたのだ。その証拠に、天子が背後を見れば小さなスキマから腕が伸びているのが見えた。


「ただの異変なら私は出張らなかったしこんなに怒ることも無かったわ」


「痛つっ……」


紫が天子の腕をギリギリと締め上げる。


「あなた、博麗の家系と自分の家系を繋げようとしてたでしょう」

「!!」


天子の顔が動揺の色に変わる。


「比那名居……どこかで聞いたと思えば、その要石と剣を扱えているのを見て分かったわ」


必要以上にゆっくりと、脅すような口調で話し続ける。


「あなた、あの天人くずれね」


天人ではなく天人くずれ、と言ったのには理由があるが、今の紫はそんなことで怒りを鎮めたりはしないだろう。


「博麗と比那名居を繋ぐ、例えほかの誰が許そうとも私は絶対に許さない」


紫が天子の足を少しだけスキマに取り込み、固定する。


「な、何をする気……」


「少しお灸を据えてあげるわ」


紫が天子に手を向ける。


「死にたくなければ全力で耐えなさい」


紫のその言葉と同時に、天子の前に大きなスキマが現れる。


そこから現れたのは、『電車』だった。

もっとも、天子からすれば何かとてつもなく巨大な鉄の箱が突進してきたように見えただろうが。


「ちょ、やば」


天子が何か呟くが、もう間に合わない。


一瞬、金属同士がぶつかったような音が響いたが、すぐにとてつもない轟音にかき消された。




(なりそこないとはいえ天人は天人、硬いわね)


紫が小さなクレーターの中心に大の字で倒れている天子を見下ろす。


「私は頼まれていたお灸を据えるだけ。これ以上やる気はないけど、あなたはどうする?」


もはや天子に選択肢などなかった。


「……分かった、天気は直すわよ」


天子がそう言うと、天気雨が止んだ。


「私が聞きたいのはそんな言葉じゃないわ」


「…………分かったわよ。博麗神社の家系にも手を出さない」


紫の殺気に、さすがの不良天人と言われる天子でも抗うことはできない。


「いい、私が許すのは一度だけ」


紫がスキマに入る前に天子を振り返る。


はないわよ」


そんな言葉を残し、紫はスキマに消えていった。




「にゃはは〜、こっぴどくやられたね〜」


「誰? 私今はさすがに戦えないわよ」


どこからともなく聞こえてきた声に、天子は問いかける。


すると、なにか霧状のものが集まり、少女の形を作り出した。


「私は伊吹萃香だよ。天人」


「……見ての通り連戦できる状態じゃないの。また後で来てもらえる?」


少し不貞腐れたように天子が言う。


「いやぁ紫を怒らせるなんてバカなことするねぇ〜」


「…………別に」


そんな様子を見て、萃香が小さく呟く。


「あまり調子に乗るなよ、天人風情が」


天子が目を見開いて萃香を見る。


「あまり幻想郷を舐めないほうがいい。お前が思っている以上に強いよ。あの子たちは」


それだけ言うと、萃香はまたいつもの調子にもどる。


「にゃは〜そゆことだから、霊夢に負けた時はあの雲もちゃんと直してね〜」


「ちょ、ちょっと」


天子の呼び止める声も聞かず、萃香は霧となってどこかへ行ってしまった。




──そのころ 霊夢は──


「だぁぁ!! なんでこんな時ばっか妖怪どもが騒がしいのよ!」


片っ端からスペルをぶっぱなし、妖怪をボコボコにしていく。

もはや人間とは思えないが、構造上人間だから人間なのだろう。


「この異変起こした奴はホントに許さないんだから!!」


……妖怪の大量発生に関しては完全に八つ当たりでしかないのだが、そんなことは今の霊夢には関係なかった。

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