第41話 花妖怪と半妖
「いくわよ!」
幽香が傘をこちらにむけ、一瞬魔力を溜める。
一体なにを……
「ッ!?」
全力で横に跳ぶ。
幽香の傘から魔理沙のマスパに似たレーザーが放たれる。だが似ているのは見た目だけだ。その威力は数段どころか数十段くらい上なんじゃないだろうか。
「一発って……食らったら人生すら終了しそうなんですが!?」
「あら、それなら当たらなければいい話よ」
なんの躊躇もなくそんなことを言ってくる。いや撃つのはお前だけど避けるの俺だからね?
「ほら次」
幽香はもう一度レーザーを撃ってくる気だ。さすがにアレをバカスカ撃たれたんじゃたまったもんじゃない。
「させっかよ!」
右へ左へと射線から外れながら一気に近づいていく。
(この距離じゃ撃てないわね)
幽香はそう判断し、魔法(?)をキャンセルする。
そしてすぐさま傘を振り下ろして来た。冷静に考えれば傘で殴りにくるっておかしいがそんなこと言ってられない。
腕を交差させ、傘を受け止める。
「ぐおっ!?」
予想以上のパワーに危うく腕を持っていかれそうになる。なんとか姿勢を保持したが地面のほうが耐え切れていない。少し足がめり込んでいる。
「意外と力はあるのね。 さすがは鬼といったところかしら」
彼女は楽しそうな表情でさらに力を込めてくる。
「クソッ……!」
耐えきれずに傘を横に流す。
「あら」
その動きは予想していなかったのか、幽香がバランスを崩す。
(今だ……!)
瞬時に幽香の背後へ回り、全力の回し蹴りをかます。
だが、それが彼女に当たることはなかった。
「花じゃなくても操れんのかこれ……!」
銀の腕や足に蔦が絡みついて動きを止めていた。
「悪いわね、私の能力は枯れた花を戻すとかその程度。それは単純に私が習得したものよ」
そう、事も無げに言ってのける。
詠唱すらせず、これほどの量の蔦を召喚し、さらにそれを自由に動かすことなどそうそうできるわけではない。改めて実感した。
彼女は──バケモノだ。
「ちょっとがっかりしたけど、まぁこんなものよね」
そう言うと、彼女は傘をこちらに向ける。
「次やる時は、もう少し強くなってちょうだいね?」
おいおい、蔦で拘束した程度で鬼が捕まえられると本気で思ってんのかなこの人。ちょっと舐めすぎだぞコラ。
「オラァッ!」
体を縛る蔦を引きちぎる。
「今度こそもらったァァ!」
全力で放った拳を、彼女は無表情で見つめていた。
「嘘だろおい」
「さっきのを見せるとよく勘違いするやつがいるんだけどね」
俺の全力の一撃を、彼女は
「私、近接戦闘のが得意なのよ?」
──片手で受け止めていた。
もはや近接が得意とかそういう問題じゃない。鬼の一撃を片手で止めるってなんだよ。
「……これは一発に入ります?」
苦笑いしながら幽香に聞く。
答えはもちろん
「ふふ、だーめ♡」
「クソがっ!」
手を掴んだまま彼女は傘を振り下ろしてくる。
なんとか身をひねって躱すがそう何度もできるわけじゃない。
「ふっ!」
何とかして一発入れようと蹴りを放つが、呆気なく蔦に防がれる。
「さて、終わりにしましょうか」
そう言うと彼女は、俺を掴んでいるほうの腕を振り上げる。俺の体は簡単に宙に浮き
「よいしょっ」
地面に叩きつけられた。
「ガハッ……」
あばらが数本折れ、どうやら右肩も外れたらしい。
「まだ終わらないわよ?」
それでも彼女の攻撃は終わらない。一発入れたらの話はどうなった。
「ふん!」
振り下ろされる傘を何とか顔をずらして躱す。
「だぁぁ!!」
目前の幽香を全力で蹴飛ばす。
防がれるのは分かっていたが、目的は距離を置くことなので問題ない。
「まだそんな元気があるとはね……しぶとい子も痛ぶりがいがあって私は好きよ?」
よろよろと立ち上がる俺を見ながら、幽香は次の攻撃に移る。
「次はさっきより強いわよ?」
にやり、と不気味に口を歪ませる。
「下か!?」
一瞬地面が揺れたのに気づかないほど鈍くはなかった。真下から飛び出てきたさっきより太い蔦を、大きく後ろに飛び退ることで凌ぐ。だが、それを読んでいたと言わんばかりに背後からもう一本の蔦が出現、体を拘束される。
「ふふ、今度こそ逃がさないわよ?」
さっきよりも強力なしめつけで、抜け出すことができない。
クソが、たぶん腕も折れた。
「さぁ、トドメよ」
傘をこちらに向ける。
これ見よがしに魔力をゆっくりと溜め始める。
「ゴフッ……あんた、いい性格してるよ……」
「よく言われるわ」
そう言って彼女は微笑み、レーザーを撃ち出した。
(あぁクソっ……しばらくは永遠亭のベッドの上かな……)
向かってくるレーザーを見て、そんなことを考える。
衝撃に備え、目を瞑り、歯を食いしばる。
だが、いつまで経ってもなんの衝撃もない。
「…………?」
薄く目を開けると、そこには紫のスキマがあった。
「え」
「まったく世話が焼けるわね」
紫がスキマを使ってレーザーをすべて受け切っていた。
「ちっ……八雲紫か……」
幽香が小さく舌打ちをする。
そんな彼女を見て、紫は静かに問いかける。
「これ以上続けるなら私が相手になるけど……それでもまだやる?」
背筋が凍るような殺気を放つ。
……なんで紫こんなに怒ってんだ?
「……興が削がれた。やめとくわ」
そう言うと、日傘をさしてこちらに背を向ける。
「また強くなったら教えてちょうだいね?」
最後にそれだけ言うと、彼女は花を求めてまたどこかへ行ってしまった。
「ふぃー……疲れた……」
思わず座り込んでしまうほどには、俺も消耗していた。
「……まったく、馬鹿なマネばっかりするんだから……」
紫がため息を吐きながら、頬に触れてくる。まるで、母親みたいに。
その手は人の温もりなんかみたいに温かくはなかった。だが、どこか落ち着くような気がした。
「……今日はやけに優しいな?」
「いつもよ」
「痛てっ」
茶化したら額を小突かれた。
「永遠亭までは連れてってあげるわ」
「いや、さすがに自分で行けるから大丈……」
「なにか文句あるの?」
紫に睨まれる。……じゃあお言葉に甘えるかな。
「んじゃ、丁重に頼むわ」
「はいはい」
その後、半妖ということが幸か不幸か傷を治すのに役立ち、永遠亭の治療も合わせて3日ほどで全快してしまった。
もうちょっと長引けば家事当番やらなくてよかったんだけどな。
少し残念そうに彼は神社へと戻ったという。
いかがだったでしょうか。
幽香さんはたぶん相手の実力が分かったらすぐにそれに合わせて全力を出すかどうか決めてくると思うんですよね。それで自分より弱いと楽しんじゃうっていう……。
怖い怖い。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




