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人と妖怪とetc.  作者: 那々氏さん
閑話 夢か現か幻想か
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第39話 天狗と掃除

──博麗神社──


今日は霊夢が妖怪退治に行ってしまって暇だ。いや、厳密には神社の掃除という役目が残っているのだが、ここに居候してはや2ヶ月。

俺は気づいてしまったのだ。

そう、霊夢がいない時は掃除サボってもバレないんじゃね? と。


(いやー俺の才能が怖い)


だが、サボるとなれば掃除をしていたはずの時間は暇になるわけで。


「落ち葉かき集める前に気づきゃあよかったなぁ」


ところどころにこんもりと小さな落ち葉の山ができているのを眺める。

そんな時だった。彼が視線を感じたのは。


「そこに隠れてる奴、誰だ」


神社の外の茂みから何やら妖力を感じる。そういうのに疎い俺でも感知できるレベルだ。かなり強力な妖怪の類いかもしれない。


「バレちゃあ仕方ありませんね」


「は?」


茂みの中から女性の声がしたと思ったら目の前に突然現れた。


(いや待て、おかしいだろ)


能力は発動していた。なぜなら本当に害を為す気なら戦わなければならないからだ。そう、見えていた。見えていたのだ。だからこそ驚いている。


「あんた、速すぎないか?」


俺の能力は簡単に言えば相手の動きがスローになり、行動の延長線が見えるというものだ。

例えば、「ナイフを振る」という動作を始めれば、ナイフを振り終わったあとまでの映像が見える、といったところだ。ただ、スローに見えても自分の身体能力が上がった訳ではないから、そこは修行して向上させるしかない。

そして、彼女の動きはスローにしてもなお通常の人間のスピードを8倍速にしたくらいに見えたのだ。


(瞬間移動なら咲夜や輝夜の前例がある)


だが、こいつは……

ただのスピードだけでここまで速くなれるのか?


「ふっふっふ、まぁ幻想郷最速の名は伊達じゃないですからね!」


堂々と胸を張って言う不審者。

いや確かに俺の質問の答えではあるが。


「あんた何者? 見たところ襲ってくる気はないようだけど」


手には何か紅葉のような見た目の扇子(?)を持っている。さすがにそれで襲うことはできないだろう。


「あやや、これは失礼」


そう言うと彼女は笑顔で一礼する。


「私は射命丸文しゃめいまるあや。清く正しいしがない新聞記者です」


「新聞?」


「えぇ、文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)というものです。読んだことありません?」


新聞ってものがなんなのかすら分からん。どうしたらいいんだ。


「まぁそれはいいです。ところで、霊夢さんは?」


向こうから話題を変えてくれてよかった。この人霊夢に用があるのか。


「今は妖怪退治でもしてんじゃないかな。しばらくすれば帰ってくると思うけど」


そう言うと、文はなにやら考え始める。


「うーん霊夢さんいないのか……ネタの提供してもらおうと思ったんだけど……」


小さくそう呟くと、すぐにこちらに向き直る。


「ではまた後で来ますね。それではこれで」


そこまで言うと、彼女の背から黒い翼が生える。ちょっと待って。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「な、なんですか急に」


その翼、見覚えがある。確か小さい時だった気がする。


「あんたもしかして天狗か?」


「そうですよ? 正確には鴉天狗ですが……」


「マジ!? 天狗なのか! おっしゃぁぁぁ!!」


突如腕を突き上げて全身で喜びだす俺に文がたじろぐ。


「すまん、はしゃぎすぎた」


「い、いえ……」


(この人大丈夫か……?)


「いやさ、俺小さい時に天狗を見たことあるんだよ」


「へぇ〜そうなんですか」


小さい時に山で迷子になった俺を妖怪から守りながら家まで送ってくれた天狗がいたんだ。あの時と同じ天狗ではないって分かってるんだけど、同じ種族の人だと思ったら嬉しくなっちゃって。


「いやぁあん時の人めっちゃかっこよかったんだよね。俺もいつかああなりたいなぁって」


「ふふ、仲間をそこまで褒められるとこっちまで嬉しくなりますね」


目を輝かせる俺に少し照れくさそうに文は言う。


「なぁ、それって風とか起こせるやつだよな!」


確かそれを振ることで小さなそよ風から竜巻規模まで自由に起こせると聞いたことがある。ホントかどうかは知らないが。


「これは葉団扇といいます。なんなら見せてあげましょうか?」


なんという魅力的な提案なんだろう。俺は迷いもせずに即答する。


「頼む! あの辺の落ち葉とか狙えたりする?」


そう言って、落ち葉の山のいくつかを指さす。


「お安い御用ですよ。じゃ、行きますよー」


文が団扇を一振りすると、旋風が巻き起こり、落ち葉の山を吹き飛ばしていく。


「おぉーすげぇぇぇ!!」


「次行きますよ!」


柄にもなくはしゃいでしまう。

文のほうも調子に乗ってしまったのか、俺と同じく背後から近づく気配に最後まで気づかなかった。


「やっぱ天狗超かっけぇ!」

「それはよかったわね」


突然の声に心底驚いた。そして、恐怖した。正直後ろを向くのが怖かった。


「れ、霊夢さん、おはやいおかえりで」


やっとの思いで振り向き、精一杯茶化してみる。

文のほうは固まってしまって全く動かない。


「たまたまはやく終わったから帰ってきたら……」


だんだんと声の調子がマジになってくる。やばいどうしよ超逃げたい。


「さて銀。あんた今日の当番はなんだっけ」


怖いくらいに優しい笑顔で聞いてくる。


「そ、掃除……です」


「へぇ〜落ち葉の山を撒き散らすことがあんたの中での掃除だったのね」


霊夢はゆっくりと1音1音丁寧に話す。


「さ、銀。歯ァ食いしばりなさい♪」

「ひっ、うごァ!!」


霊力を上乗せしたお祓い棒でぶん殴られる。いつもよりめっちゃ痛てぇ……。


「文」

「ひゃいっ!」


文の声が恐怖のあまり裏返る。


「どうせ銀に乗せられたんでしょうけど、やったのはやったことだから」


一瞬許してもらえるのかと文の表情が明るくなったがすぐに絶望の色で染まる。


「歯、食いしばりなさい♪」


文の頭に振り下ろされたお祓い棒の音が、神社いっぱいに響き渡った。




その後、3時間ほどお説教をくらい、俺はめでたく明日も掃除当番となったのであった。

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