第37話 意志と心
──紅魔館──
外は晴れ、外出には向いてないがいい天気だ。美鈴はたぶんいつものように寝ているだろう。
「咲夜」
「いかがされましたか? お嬢様」
いつも通りのアフタヌーンティーの時間。お嬢様の希望通りの紅茶とケーキ。自分で言うのもあれだが今日も完璧に用意できたはずだ。
何か不手際でもあっただろうか。
「暇よ」
いつも通りだった。
まぁ、確かに最近異変などが起こるわけでもないし、暇だと感じるのも分かるが。
(もう少しタイミングを考えていただきたい……)
自分がミスしたかとかなり焦った。さて、どうやって満足させようか。
「ねぇ何か面白いことないかしら」
「では、お嬢様はなにかしたいことなどはありますか?」
「え、私?」
レミリアは頭を抱えてうんうん唸っている。
その姿は本当に見た目相応の可愛らしい様子で思わず笑みがこぼれる。
私はお嬢様のことをかなり理解しているつもりだが、なにかしたいと言われればお嬢様に聞くのが一番だと思っている。こう言ったら申し訳ないが、正直お嬢様は突飛なことを言い出すからこちらが考えるだけ無駄だ。
さて、そろそろ考え終わるころかしらね。
「決めたわ咲夜!」
「では、いかがいたしましょう」
「今日もあの半人前は来るのよね?」
半人前、妖夢のことだろう。永夜異変の前からちょくちょく来てはいたが、異変後はほぼ毎日来るようになっている。時間的にはあと数十分ほどで来るだろう。
「えぇ、恐らくもう来ると思いますが」
「そいつとの稽古を見せてちょうだい!」
「妖夢との、ですか……」
うーんそう来たか。別に教えているところを見られるのが恥ずかしいわけではないが、妖夢に聞いてみないことには分からない。
「私は構いませんが、妖夢に聞いてからでもよろしいでしょうか」
「えぇ、いいわよ!」
何も知らない妖夢は、紅魔館についた途端飛び出してきたレミリアに困惑させられることになるのだった。
「妖夢、脇が甘い!!」
「はい!」
広いホールに咲夜の叱咤の声と金属音が響き渡る。
妖夢の剣筋はさすがと言える腕前だが、本当にすごいのは咲夜のほうだ。
彼女は妖夢の太刀を手に持ったナイフだけで捌ききっている。
数分の間、妖夢と咲夜のいつもの手合わせは続いた。
「はぁ……はぁ……咲夜さんは相変わらず強いですね」
息を切らしながら妖夢が言う。
咲夜の方はまだまだ余裕と言った感じで、ナイフの手入れをしている。
「咲夜さんって本当に人間なんですよね……?」
咲夜と出会った人のほとんどが妖夢と同じことを言う。
「咲夜は人間よ。私も初めて会った時は驚いたわ」
どこか懐かしむような表情でレミリアが言った。
「そうだ咲夜、紅茶を持ってきてちょうだい。ゆっくりでいいわ」
「……かしこまりました」
ゆっくり。お嬢様がそう言う時は大体私に席を外してほしい時だ。
こんな時は大体時間停止を使わずに適当にその辺を見回ってから戻るのがいい。後でするつもりだったお嬢様の部屋でも掃除しておこう。
咲夜が部屋から出ていったのを確認すると、レミリアが妖夢に近づいていく。
「ねぇあなた、咲夜より年上よね?」
「? そうですけど……」
レミリアの質問にキョトンとした様子で妖夢が答える。
元々の能力差だけではなさそうね…
「あなたは何のために戦っているの?」
「え?」
レミリアの問いかけの意図が分からなかったのか、妖夢は聞き返す。
「そうねぇ……例えば、咲夜は常に私のため、私にすべてを尽くしてくれているわ。そんな風に、あなたは何のため、誰のために戦うの?」
「それは……幽々子様のためです」
少し間があったが、妖夢は答える。
「本当に?」
「え?」
「本当に、あなたはそいつのために戦えるの?」
レミリアが、妖夢の瞳を覗き込んで問いかける。
なぜかは分からないが、目を逸らしてはいけない気がした。ここで目を逸らしたら、永遠に私は変われないまま。なぜかそんな風に思えてしまった。
私は本当に幽々子様のために戦っているのだろうか。
そもそもなぜ私は幽々子様のために戦いたいと思うのだろうか。
そんなのは決まっている。恩義を返すためだ。
本当に? 本当に恩義を返すためだけで幽々子様の側にいる?
答えは否だ。
私はもう恩義だけじゃない。心から幽々子様のために戦いたい。私の一番の理解者、ただ一人の、私の家族。
レミリアの瞳を見つめ返す。
もう、迷いはなかった。
「戦えます。まだ未熟だけど、それでも私は幽々子様のために戦いたい、生きていたい」
はっきりと、口にする。
「そ、じゃあ問題ないわね」
「一体どういう……」
「ひとつアドバイスをすると、あなたの場合戦うというより守るために戦うって言ったほうが楽かもしれないわよ」
妖夢が聞こうとするが、レミリアがそれを遮って言う。
それともうひとつ、と振り返る。
「咲夜《あの子》、あんなだから友人が少ないの。仲良くしてあげてね」
「え、あ、はい……」
「お嬢様、紅茶をお持ちしました」
レミリアが小さく呟き、立ち上がると同時に咲夜が紅茶を運んでくる。
あまりにタイミングがいい。
(咲夜、今の聞いてた?)
(さぁ、何のことだか)
小声で咲夜に聞くも、笑顔で誤魔化される。
まったく本心が読めないんだから。
「さて、そろそろ夕飯だけど妖夢はどうする?」
「そうですね……幽々子様にお夕飯を作ってあげなきゃいけないので今日はおいとましますかね」
そう言うと、妖夢が帰る準備をし始める。
「明日も来る?」
「ぜひ!」
そんな咲夜たちの様子を、レミリアは優雅に紅茶を飲みながら眺めるのだった。紅茶が予想より熱くて舌を火傷したのを隠しながら、だが。
「それじゃ、また明日ね」
「はい! また明日」
挨拶を交わして妖夢が帰っていく。
「ほら美鈴、起きなさい」
「んあ?」
寝ている美鈴にチョップをかましながら彼女は思う。
(お嬢様のおかげで、妖夢は前を向けたようね……)
私もまだまだねぇ、と呟きながら、彼女はいつもの業務に戻るのだった。
いかがだったでしょうか。
妖夢には頑張ってほしいですね。
個人的には妖夢と咲夜さんがこれくらいの関係性だととても嬉しいです。
それではまた次回、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。




