第33話 永夜編 不老不死と薬師
──永遠亭 廊下──
霊夢の勘をたよりに、ひたすら廊下を走り続ける。
確か、4回目に右に曲がった時だった。霊夢が急停止する。
「止まって」
「ちょおっぐえっ」
襟首を掴まれて喉が締まる。
もうちょっと優しく止められないのかこの女は。
そう思った次の瞬間、轟音とともに横の部屋の障子が吹っ飛ぶ。
「おっと」
さらに飛んできた数本の矢をかわす。
「あら、意外とすばしっこいわね」
部屋の中から声がする。
そっちを向くと、そこにはひとりの女性が弓を構えて立っていた。
見た目で判断するのはよくないが、雰囲気でいえば紫タイプ。俺の苦手な人種だ。
「あんた、この異変を起こした張本人でしょう」
俺が聞くよりもはやく、霊夢が断言する。
「根拠は?」
不敵な笑みを浮かべながら、その女性は霊夢に聞く。
「ただの勘よ」
霊夢は迷いなく言い切る。
そう、こいつはこういう女だ。自分のすることが正しいと信じることができる。正直人間には見えない。
案の定女性は目を見開いて驚いている。
「なるほど、勘ね。どうりで計算が狂うわけだわ」
言いながら、女性は矢を番える。
「私は八意永琳、しがない薬師よ」
永琳、と名乗った女性は、顔に似合わず可愛らしい笑顔を浮かべる。
「半妖、銀」
「博麗の巫女、博麗霊夢よ」
殺気が高まる。おそらく一瞬の油断も命取りだ。
「ひとつ、良いことを教えてあげるわ」
永琳が、突然話し出す。
「私は不老不死なの。信じるか信じないかはおまかせするわ」
それだけ言うと、永琳がすぐさま矢を放つ。
それを合図に、戦闘は始まった。
「天呪・アポロ13!」
永琳を中心に左右に光弾が配置される。
それが凝縮されたかと思うと、一瞬で拡散した。
「くっ・・・」
「後ろにいなさい! 二重結界!」
霊夢が即座に反応、結界を張って光弾を受ける。
(ねぇ、銀)
(あ? 何だ)
結界で弾幕を防ぎつつ、こちらに話しかけてくる。
(この異変の黒幕、おそらくあいつだけじゃないわ)
(・・・姫って呼ばれてたやつか)
(えぇ)
確かに、彼女が異変の黒幕だとしたら、自身がここまで出張る必要はない。
だが、それはつまり
(どっちが残る?)
そう、黒幕がもう一人いるのなら、どちらかはそっちに行かなければならない。かといって、彼女は不老不死だと言っていた。それが本当だとしたら確実に一人で勝てる相手ではない。
(それは・・・)
「内緒話をするほど余裕があるのかしら?」
そう言うと、彼女はさらに大量の弾幕を放ってくる。
「私が残る! あんたは先に行きなさい!」
結界を解いた霊夢が術を展開、永琳の光弾に対抗する。
「させるわけないでしょう? 天丸・壺中の天地」
俺と霊夢を中心に、なにか黒い影のようなものが現れる。おそらくは使い魔か。
「大丈夫、死にはしないわ。死ぬほど痛いかもしれないけど」
影の魔力が高まる。
「クソッ!」
「ちょっあんた何やって」
咄嗟に霊夢を庇い、歯を食いしばる。
(南無三!)
神も仏も信じちゃいないが、ついそんな言葉が出てしまう。
影から強力なエネルギー波が放たれる。
何秒待ってもなんの衝撃もない。
少し、目を開けると
「これは・・・紫のスキマ!?」
周囲に浮かぶ無数の目。それにこの胡散臭いような気は紫のものだ。
「あの程度でへばるなんて、弟子失格ね」
紫が外からスキマを通じて覗き込んでくる。
「ここは私が引き受けたわ。先に行きなさい」
「でも」
「いいから」
紫は有無を言わさず俺たちをスキマで飲み込む。
次に目を開けるとそこは永遠亭の廊下だった。
「計算外が多いわね」
少し悔しげに永琳が言う。
「紫、頼んだわよ」
「はいはい」
霊夢がそう言って、すぐさま飛び立つ。少し迷ったが、俺もその後を追いかけ、走り出す。
「薬符・胡蝶夢丸ナイトメア」
永琳がそう唱えると、蝶の形をした弾が追尾してくる。
だが、それは俺たちに触れる前に紫のスキマに吸い込まれていった。
「あなたのお相手は私でしょう? 八意永琳」
「・・・・・・」
二人が睨み合う。
「さぁ、楽しみましょう」
紫の生み出したスキマが、その部屋ごと永琳を飲み込んだ。
「霊夢、あとどれくらいだ!」
「あの角部屋よ!」
もうかなり走ったせいか、少し息が上がっている。だが、あと少し。
その部屋で待っているのは、狂気か、それとも




