第31話 永夜編 永遠亭と狂気
──迷いの竹林 深部──
「ここがお師匠様のいるところ。永遠亭だよ」
咲夜に抱き上げられた状態のてゐが言う。
「ホントに案内してくれたのね」
意外そうにレミリアが言うと、てゐは少し不服そうな顔をしたが、何も言わなかった。
「うぅ・・・散々な目にあった・・・」
ところどころに泥や草をつけた妖夢が言う。まさか2回も落とし穴に落ちるとは。
「案内したから離してくれないかな」
てゐがもう我慢できないといった様子で咲夜を見つめながら言う。
「ん、そうね」
咲夜が手をはなすと、てゐは一目散に逃げていった。
「逃げ足もはやかったようね」
すでに見えなくなったてゐに向かって咲夜が呟く。
「そんなことより、さっさと行きましょ」
レミリアがそう言って歩き出した時だった。
「私の勘だとたぶんこの辺・・・あら」
「お?」
見知った顔に出会う。
「やっぱり霊夢たちも来てたのね」
予想はできていたが1番会いたくなかった相手だ。なぜって異変解決の先を越されるからよ。
「あら銀じゃない」
「霊夢に銀、久しぶり」
咲夜と妖夢がそれぞれ軽く挨拶をかわす。
「お前たちも異変解決?」
分かりきっていることだが、もしかしたらレミリアたちがやったという可能性がないわけでもない。
そしてやはり、
「お嬢様が異変にお気づきになったから、解決に来たのよ」
予想通りの答えだった。
ま、道中が楽になると考えとこう。
「それで、ここが敵の本拠地なの?」
痺れを切らしたのか、さっきからソワソワしていた霊夢が口を開く。
「兎の情報によるとそうみたいね」
「兎?」
「さっき捕まえたのよ」
疑問符を浮かべる霊夢に、咲夜がこれまでの経緯を手短に話す。
「慧音とも会ってたのね」
「ちょっと申し訳ないことをしちゃったけどね」
言いながら、咲夜はレミリアを横目で見るも、彼女はそっぽを向いてしまった。
「とりあえず入ってみない?」
妖夢がおずおずと発言する。
そういや異変解決に来たんだっけな。
「あそこが入り口のようね」
──永遠亭 玄関口──
「よし、開けるぞ・・・」
指差しで決めた結果、俺がやることになってしまった。
ちくしょう、だから反対したんだ。
「・・・・・・」
ゆっくりと引き戸に手をのばし、触れそうになった時だった。
内側から扉が勢いよく開け放たれる。
「!?」
「狂気の瞳!」
中から現れたうさ耳を生やした紫の長髪の少女が叫ぶ。
「ふぅ・・・何とか成功した・・・」
突然叫んで突然安堵し始める。もはや何がなんだか分からない。
「あ、あの・・・」
「ぴゃっ!? な、なんで普通に話せて・・・」
今の発言からすると、少女が何かをしたようだが、さっぱり見当もつかない。
「少なくとも俺らに異常はないけど?」
「そ、そんな・・・もとから狂ってるってこと・・・?」
あ、耳がしおれた。なんだこれかわいいな。ていうか今聞き逃せない発言があった気がする。
「狂ってるとは失礼ね。私はそういうのに耐性のある術を使ってたのよ」
「吸血鬼にそんなものが効くわけないでしょう?」
霊夢とレミリアがさらっと言う。
「じゃ、じゃあほかの人はなんで・・・」
少女がこちらに視線を向ける。
「あぁ、そいつはもともと頭おかしいからよ」
「おいテメェ」
霊夢は躊躇なくそう言う。俺が狂ってるならお前も狂ってるわ。
「咲夜はなんで?」
「お嬢様のためならこの程度」
レミリアの問いに、涼しげな顔で咲夜が答える。
こうして、誰にも異常が見られないと思われた。
「うぐ・・・あァ・・・」
妖夢がうめき声をあげるまでは。
「おい妖夢! 大丈・・・」
そこまで言ったところで、妖夢が斬りかかってくる。
間一髪でそれを受け止め、弾き返す。
「あぎ・・・ぐぅぅ・・・」
「よかった、ちゃんとかかってる人もいた・・・」
妖夢の様子が変わったのを見て、少女が安堵する。その態度に怒りを覚えたのは、俺だけではないようだが。
「私は鈴仙・優曇華院・イナバ。ここから先は通さないわ!」
少女が名乗りをあげ、こちらに向き直って言う。
「・・・銀」
「なんだ、咲夜さん」
速攻でケリをつけようとした時、咲夜に声をかけられる。
「ここは私とお嬢様が相手するわ。あなた達は先に行って黒幕を倒して」
「・・・いいのか?」
異変解決のことじゃない。妖夢を相手させるということについてだ。
「あの子は私が止めてあげるわ。だから行って」
咲夜のいつにも増して真剣な表情に、こちらは頷くことしかできない。
「霊夢、行くぞ」
「私はそのつもりだったけどね」
二人で入り口に向かって走り出す。
だが、当然のごとく鈴仙と妖夢はそれを止めるべくスペルを展開する。
「させない!」
「吸血鬼を前によそ見なんて、随分といい度胸じゃないかしら」
一瞬にして鈴仙の目の前に現れたレミリアが、彼女を玄関とは反対方向に吹っ飛ばす。
「・・・・・・」
妖夢は霊夢たちを止めるのは難しいと判断したのか、すぐに咲夜のほうに向き直る。
「咲夜、あなたはその子に集中しなさい。友達なんでしょう?」
レミリアが鈴仙と相対しながらこちらに話しかける。
「ありがとうございます、お嬢様」
一礼し、すぐに妖夢に向き直る。
「妖夢、私があなたを叩き起してやるわ。覚悟なさい」
絶対に、正気に戻してみせる。
その強い意志とともに、彼女は妖夢に向かっていくのだった。




