第3話 人里と妖怪
──人間の里───
「ここが人里か……」
まさにお手本とでも言うかのような、質素な木造の家が立ち並ぶ、どこか懐かしさを感じさせるような場所だった。
人里に来る途中に霊夢から少し話を聞いていた。ここが一体どういう場所なのかを。
この人里は驚くべきことに、妖怪に管理されることで成り立っているらしい。かといって、妖怪が人を虐げているのではなく、人間にとってはむしろ人里がある種の“安全地帯”になっているようだ。
妖怪といっても人を喰う妖怪、驚かせるだけの妖怪、人と共生することを望む妖怪なんてのもいる。ここは、そういうヤツらの存在意義を途絶えさせないためにも必要なのだそうだ。
「へぇ……意外と普通なんだな」
「あんた、一体どんな場所を想像してたのよ」
つい口をついて出た感想に、少し呆れたような口調で霊夢が食いつく。
「いやなに、妖怪が管理してるって言ってたからな。もっと妖怪が闊歩してるのかと」
もしくはその逆、妖怪が極端に迫害されているかのどちらかだ。事実、俺のいた村はそうだった。
「何のために私がいると思ってんのよ」
少し不服そうに霊夢が言う。
「霊夢さんのおかげで、里の人たちは安心して暮らせるんですよ!」
「へぇ」
人を襲い、襲ったことで生まれる恐怖や噂で存在を確立させているのが妖怪(例外も多いが)。だが、その発信源たる人を妖怪は簡単に消すことができてしまう。そうなれば、妖怪自身も存在できなくなってしまう。人を守ることで間接的に妖怪も存続させるのが博麗の巫女の役目だと霊夢は言った。
「ま、人を襲う系は死なない程度にボコしてるから、なんともいえないわね」
「それを自分で言うかフツー」
真顔で言ってのける霊夢が少し怖い。俺寝てるうちに祓われたりしねぇよな……。
「妖怪退治をしているときの霊夢さんはとってもカッコいいんですよ!こう、バーンって!」
「はいはい、さっさと案内するわよ」
「えー、まだまだ語れるのにぃー」
雑に流された早苗が口を尖らせて言うが、霊夢は涼しい顔で無視している。
そんなこんなで、3人の里歩きが始まった。
少女案内中…
「で、あそこが寺子屋。人間の子供だけじゃなくて、妖怪とかも通ってるのよ」
「今どきの妖怪は勉強もするんだな・・・」
自分の子供時代を思い出したが、勉強なんてロクにしてなかったな・・・。
「あっちへ行くと、おいしいお団子屋さんがあるんですよー!」
「あとは、里の外れに妙蓮寺っていうお寺があるわ。興味があれば、行ってみるのもいいかもね」
この幻想郷にはほかにも、地底や妖怪の山、天界なんかもあるそうだ。広すぎだろ幻想郷。
「さて、案内はこれくらいでいいかしらね」
「一通り案内しましたからねー」
「おう、ありがとな」
少し伸びをしながら言う霊夢に早苗も賛同する。
人里だけでも結構広かったな。
「はやく顔とか覚えてもらいなさいよ。じゃないと色々不便だから」
「了解」
しばらくは、人里に入り浸るか。少しでも顔見知りは多いほうがいいからな。
「やることもやったし、今日はもう帰りましょうか」
「えー霊夢さん帰っちゃうんですかー!?」
「当たり前よ、案内しに来ただけだし、お昼寝してないからせめてゆっくりしたいし」
心底疲れたように霊夢は言う。俺が案内させたせいだけではないと思うぞ。こっち見んじゃねぇ。
「それなら仕方ないですね。じゃあ私も今日はこの辺で帰ろうかな。神奈子さまや諏訪子さまにも無断で来ちゃったので」
「あんたねぇ・・・」
霊夢は何か言いたそうだったがぐっとこらえたらしい。
「それじゃあ霊夢さん、銀さん、お先に失礼しますねー!」
そう言うと、早苗は(おそらく)守矢神社のほうへ帰っていった。
「じゃ、私たちも帰りましょうか」
「おう」
帰る場所・・・か。ほんの少し、昔を思い出してしまう。だが、今は昔のことなんか関係ない。今俺がいるのは幻想郷。あらゆるものを受け入れる、夢のような場所。
くだらない考えを振り払って霊夢と一緒に、博麗神社に帰るのだった。
読んでいただきありがとうございました。いかがだったでしょうか。今回は、いただいたアドバイスをもとに自分なりに改善したつもりです。少しは読みやすくなっていたでしょうか。自分の中での妖怪のイメージがうまく伝えられたらいいなぁという気持ちで書きました。次回は、自分が好きな紅魔館方面へ話を広げていこうと思います。よろしければ、アドバイスや感想などを書いていただけると嬉しいです。それではまた次のお話しで。