第12話 紅魔編 姉と妹
──紅魔館 中庭──
二匹の鬼が、交錯する。
「オラァッ!!」
レミリアのスピードになんとか反応し、拳を打ち込むが、そのことごとくを躱される。
例えば霧化、殴る直前に自身の体を霧状にし、物理的な接触が不可能になる。
あるいは、単純なスピードの差。
パワーだけで見れば銀のほうが若干上だが、移動スピードやテクニックでは、レミリアのほうが数段上だ。
だが、レミリアも近接戦闘に持ち込めば、霧化を解かなければ攻撃はできないため、どちらも攻めあぐねている状態だ。
「だんだん撃ちもらしが多くなってきたんじゃないかしら?」
「うるせぇ、気のせいだ」
強がってはみたものの、レミリアの言うことは図星だった。
ここまでに何度も戦っている上、無尽蔵に湧いてくる蝙蝠にかなり手こずっている。
時折強力な技を放ってくるレミリアを警戒しながら、襲いかかってくる無数の蝙蝠を相手取るのは精神的にも少しキツかった。
「神槍・スピア・ザ・グングニル!!」
「ぐっ……!」
槍状になった光弾を連続で投擲してくる。そのひとつひとつが、見ただけで分かるような馬鹿にならない威力だ。
(クソがッ!一発一発技名言いやがれ!!)
「悪魔・レミリアストレッチ」
レミリアが地面まで降りてくる。
(チャンス……!!)
だが、さっきよりも多い蝙蝠が、視界を遮るためだけに壁になってくる。
「邪魔だ……どけっ!!」
(ダメだ……密集しすぎて……!!)
「ふっ!!」
呼吸音が、羽音に交じって聞こえた気がした、刹那。
蝙蝠たちが方々に飛び散り、道が開ける。
その先には、こちらに向かってきているレミリアがいた。
しかも、素手で。
「……ッ!」
すんでのところで拳を躱し、手首と襟を掴む。
「そらぁっ!!」
話に聞いたことだけはある、『背負い投げ』。ほぼ感でやったが、うまくいったようだ。
レミリアの小さな体が地面に叩きつけられる。
だが、彼女は笑みを崩さない。
「かはっ……なかなかやるじゃない」
「まだまだ……ッ!」
追撃しようと踏み込んだときだった。足に、鋭い痛みが走る。
「なんっ……痛っ……!?」
俺はそこで選択肢を間違えた。
足に刺さっているナイフが飛んできた方向を見てしまった。
そこには、咲夜が入り口にもたれかかりながらも立っていた。
「さすが咲夜ね、私の完璧な従者。覚悟しなさい半妖、この距離なら外さないわ」
我に返り、レミリアを見る。
彼女はすでに発動準備を終えていた。
まるで、こうなることが分かっていたかのように。
「神槍・スピア・ザ・グングニル!!」
「くっ……!」
咄嗟に目を瞑る。
だが、数秒たっても何も起こらない。
目を──開けてみる。
「な……!?」
目の前には、美鈴がいた。
「ゴフッ……だい……じょうぶですか……?」
何を……
「何言ってんだ!!お前がアレを受けたんだろうが!!」
レミリアは呆然としていて動けない。
「お姉様、何をしているの?」
「「「!!」」」
突如、空から声が降ってきた。
声のするほうを全員が見る。
「フラン……あなたなんで」
「い、妹様!なぜここに!?」
あれが、妹か。レミリアとよく似た顔立ちをしている。だが今はそんなこと気にしてられない。
「お姉様、もう一度だけ聞くわ。美鈴に、何をしているの?」
「フラン……!これは、私のせいじゃ……!」
そこまで言いかけたときだった。
レミリアの右腕、ちょうど肘から下あたりが弾け飛んだ。
「チィッ!」
「おい吸血鬼!!」
「鬱陶しい!レミリアでいいわ!それより美鈴を咲夜のところに!!」
さすがは吸血鬼、といったところか。すでに出血は止まっており、少しずつ再生しているようだった。
レミリアに言われた通り、急いで気絶している美鈴を咲夜のもとへと運ぶ。
「咲夜さん、頼んだ」
それだけ言って、レミリアの加勢にまわる。
「私たちは……家族じゃなかったの?なんで美鈴にこんなことしたの?」
「おいおい、お前の妹大丈夫か?」
彼女はさっきから同じ言葉をずっと繰り返している。
「そうね、これは私の責任でもある。躾直してあげるわ」
自嘲気味に彼女は言う。
「家族をきズつけルやつはおネエさマでも許さナい」
「とりあえずは動きを止めるわ。手伝いなさい銀」
「手伝うっつったってなぁ!」
アレをどう止めろというのか。
ありゃ俺から見てもバケモンだぞ。
「うふ、アハ、アハハッ禁忌・レーヴァテイン!」
フランの手に、炎の剣のようなものが握られる。大きさが異常だが。
「神槍・スピア・ザ・グングニル!!」
レミリアの放った槍によって、フランの技が打ち消される。
「お姉様ァァァ!!」
「この愚妹が!!」
ダメだ、フランは俺なんて眼中にない。レミリアしか見えていないんだ。
二人は、凄絶な空中戦を繰り広げている。飛べない俺からすれば、何もできることがない。
「ぐっ……!」
だがやはり、片腕のないレミリアが不利か。こちらに吹っ飛ばされてくる。
「大丈夫か!?」
レミリアを受け止め問いかけるが、そんな余裕はないようだ。
「うふ、禁忌・カゴメカゴメ」
目の前に、異常な量の光弾が展開される。
「あれは全部避けなきゃダメ!」
「無茶言ってくれるなぁおい!」
レミリアを抱えたまま、全力で避けることに集中する。
「熱っ……!」
だが、やはり人を抱えたままでは動きが鈍る。ほんの少しだが掠っただけでかなりの痛みだ。
「禁弾・スターボウブレイク」
「クソッ!レミリア、自分で着地してくれ!」
「一体何を──」
言い終わる前にレミリアをフランと逆方向へぶん投げる。
7色の光弾が異常な速度で向かってくる。
「間に合えッ」
思い切り横に跳ぶ。足の痛みなんか気にしてられない。アレを喰らったら即死レベルだ。
轟音とともに光弾が大地を穿つ。
休む間もなくフランは次の攻撃にうつる。
「禁忌・フォーオブアカインド」
フランが、4人に分身した。
「おいおいどうすんだレミリア!!」
「2人は相手するわ!」
残り2人は俺か……!1人でも強いってーのに……!
「アハハッ壊れちゃえ!!」
どこがお姫様だクソッタレ!!
全神経を避けることだけに集中させる。
自身の分身ということだけあって、異常に息が合った攻撃を仕掛けてくる。
「アハッ」
「しまっ」
足下を見ていなかったせいで、地面にあった段差に足をとられる。
だが、なんとか防ぎはした。はずだった。
フランの蹴りを受けた瞬間、腕が嫌な音を上げる。
あげくそのまま塀までぶっ飛ばされた。
「あぁ痛って……腕が……」
また左腕を負傷した。呪いでもかかってんのか。
だが、今度は見ただけで分かるくらい腕がぐちゃぐちゃになっている。
レミリアも同じく吹っ飛ばされたようだ。
「ホント馬鹿力なんだから……この子は……!」
「ウフッ、禁忌・フォービドゥンフルーツ」
さらに追撃をしてくる。
レミリアは霧化すれば避けられるかもしれないが、俺はそんなことできない。
何度目か分からない死を実感した瞬間だった。
「夢符・二重結界」
目の前に、見たことのある巫女が降りてきた。
「これ、一体どういう状況なの?」
博麗霊夢は、問いかけた。




