第91話 闘技大会編 勇者と鬼
「なぁ、姐さんなんか変わったか?」
美鈴とパチュリーを見据える勇儀は、どこかいつもと違うように思える。
「さぁ? いつも一緒だから分かんないわ」
「ほーん……」
さらっといつも一緒にいると言ったパルスィを生暖かい目で見たが、本人は気づかなかったようだ。
まぁ、試合が始まればこの違和感の正体も分かるだろう。
「行くわよ美鈴!」
「はい!」
試合開始と同時に一瞬だけ美鈴がオレンジ色に光る。おそらくはパチュリーが身体強化の魔法を使ったのだろう。勇儀には生半可な攻撃は通用しない。ひとまずはいい選択だと思われる。
「ハッ!」
数歩で距離を詰めた美鈴が勇儀へと掌底を繰り出す。
勇儀は、それを
──躱した。
そしてそのまま勢いを利用し、カウンターを放つ。
だが美鈴も武術においては達人の域に達する者だ。すんでのところで後ろに飛び、距離をとる。
「んなっ!?」
あまりのことに、たぶんこの会場の誰よりも驚いたかもしれない。
今までの勇儀だったら、あの攻撃を間違いなく避けずに受ける。例えその一撃がどんなに強かろうが、彼女は受けるはずだった。しかもその後の勇儀の攻撃は、力任せに殴りつけるものではなく、確実に、相手に当てることを目的とした一撃だった。
「今回ガチで取りに来てるな……」
なにか目的があるのかは分からないが、どうやらこの試合、美鈴たちの分が悪そうだ。
「火符・アグニシャイン」
美鈴が後ろに下がった瞬間に、パチュリーがスペルを放つ。
真っ赤に燃え上がる炎の渦が、勇儀を飲み込んでいく。
「次のスペルと同時に行って」
「はい!」
無論、相手は鬼だ。あの程度で倒せるなんて二人は思っていない。
「水符・プリンセスウンディネ」
次にパチュリーが放ったのは泡だった。
大量の泡が炎の渦が解かれた瞬間に勇儀の周囲へと広がっていき、割れると同時に爆発を起こした。
「ふっ!」
一通りの爆発が終わった後、美鈴が勇儀へと突っ込む。
「気符・地龍天龍脚!!」
勇儀を震脚で浮かせ、そのまま強力な蹴りを放つ。
それは的確に鳩尾を打ち抜き、対象を壁まで吹っ飛ばす。
(身体強化の魔法がこれほどありがたいとは……)
「美鈴、気を抜いちゃダメ」
自身の体をまじまじと見つめていた美鈴にパチュリーが声をかける。
緩みかけていた気を再び引き締め、吹き飛ばした勇儀の方へと向き直る。
「あぁ……いってて……」
その鬼は、まるで何もなかったかのように立ち上がる。
「いい連携だった。アタシもまだ修行が足りないねぇ」
ゆっくりと肩や腕を回し、近づいてくる。
「さて、あんたらはどうやら本気でアタシに勝ちに来てるらしい」
どこか楽しげに、その鬼は笑う。
「だから」
勇儀が、真っ直ぐに二人を見る。
「その勇気を称えて、アタシも多少本気でやってやる。楽しませてくれよ」




