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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第四章】白ウサギと愛の楽園と気ままな旅とその裏で
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81.アイスマウンテン

『アイスマウンテン』。


 それが今回挑むダンジョンの名前だ。


 今、俺の前には巨大な坂がある。これを登って上に向かえってことらしい。……ってことは出口は頂上になるのかな。


 色々考えながら、一歩踏み出す。


 ぽふん、と。柔らかい感触と同時に足が埋まる。


 雪がかなりの高さまで積もっているみたいだ。こ、これは動き辛い……。


 大股になりながら、坂を登っていく。


 ……それにしてもこんな状態で敵に見つかったら、何もさせてもらえないなぁ。気をつけなきゃ。


 ゴゴゴ……。


 そんな考えが、ダンジョンのスイッチを入れた。


 不穏な音は前方、坂の上から。


 反射的に顔を上げると、白い塊が見えた。


 でもそれは、空から降り注ぐ雪じゃない。地面に置かれていた。位置は遠いけど、俺の背丈よりも巨大な球体で作られた『雪の塊』だった。


 何であんなところに?


 ゴゴ、と。疑問を抱いていると、また不穏な音が。


 あの雪玉から聞こえているような……。


 そして、次の瞬間だった。


 轟音を放ち、勢いよく雪玉が転がってきたのは。


 まるで意思があるんじゃないかと言いたいくらい急にトップスピードに入った雪玉は、俺をぺちゃんこにしようと真っ直ぐに向かってくる。


 なら横に――いやダメだ、軽やかなフットワークが使えない今では、逃げる時間がない『ゴゴ!』ああ考えている時間もない! どう『ゴゴッ!!』しようどうしよう!? もうそこまで来てるッ!


 横に移動できないなら後ろに……いやいや意味がない! なら空を飛ぼう…… 羽もないのにどうやって!

……待てよ、飛ぶ? 飛ぶことなら……。


 もう時間がないので、浮かんだその策を実行に移すことにする。まずはブーメランを取り出し『ゴゴォッ!!』わあ急げ! 次に足に力を込めて腰を回転させ、遠心力を利用して白い地面に叩きつける!



 ――スキル《ブーメラン》Lv.5『バースト』

 ――『ウィンドエッジ』



 巻き起こった暴風によって、地面の雪が爆発。同じく直撃した俺は、相棒であるブーメランのように回転しながら後方に吹き飛んでいく。


「ほにゅ」


 そして、たどり着いた新たな雪の地面に頭から突っ込んだ。


 視界全体が真っ白に染まる。……いやぁフードを被っておいて良かった。頭が凍るところだった。


 地面に手をついて何とか抜け出すと、そのまま坂の下に目を向けてみる。徐々に小さくなっていく雪玉の姿があった。

 続いてHPを見ると、半分であるイエローゾーンには届いていないもののギリギリまで削れていた。ちょっと無理し過ぎたかな……。


 ウィンドウを開き、アイテムポーチから先ほど購入したポーションを手に取り、口に運ぶ。


 HPを回復させた後、大股で先ほど風を出現させた場所まで歩いていく。ブーメランを回収しないと。


 どこか雪の中に埋まっていたらどうしよう……という心配はなかった。露出された土の地面の中央に武器は落ちていた。


 ホッとして武器を拾い、腰のベルトに収める。


 また雪玉が転がってきたら怖いので、できるだけ早く坂を登っていく。ぽすぽす音を立てて進んでいると、やがて斜面は緩やかに変わった。


 見れば先の景色は平らになっており、円形に広がっていた。まるで広場のような。


 道はこの場所を抜けた先にあり、また坂が作られている。……うーん、広場は休憩ポイントなのかな?

そんなことを考えながら、俺は足を踏み入れた。



 ゴウッ!!



 次の瞬間、だった。


 前方から酷い暴風が殴りかかってきたのは。


「ぐううッ」


 それは中々に力強く、俺を前に進ませようとしてくれない。加えて雪の威力が増し、風に乗って弾丸のように変わっていた。


 な、何だか体中に違和感を覚えるような……?


 暴風に歪めた表情を下に向けると、ジャケットに大量のエフェクトが刻まれていた。


「うわわっ!?」


 驚きながらもHPを見ると、ゆったりと減少を始めていた。


 こ、これ……ダメージ受けるの!?


 それなら攻撃を反射するバーストの『リフレクト』を……いやダメだ、あれはどんな攻撃でも『一度だけ』反射させる能力。つまり雪一粒にしか反応してくれないはずだ。


 そうなったら、強行突破しかない!


 幸いポーションは先ほど購入してきた分がある。HPが少なくなってきたら飲んでを繰り返せば問題ないはず。……お腹以外。


 とりあえずポーションを物体化させ、手に持ったまま暴風に逆らって進んでいく。


 足が重い……奥にある坂まで距離は五十メートルほど、かな。地面が平らだったら少しは楽なんだけど……。


「はっ、はっ……」


 それにしても、本当に重い。疲労を感じないはずなのに、何となく荒い呼吸を繰り返してしまう。


 ぽす、ぽす、ぽ…………


 やがて俺の右足は、空中で止まった。


 原因は雪の中にある左足。まるで接着剤がついてるのかと言いたいくらいに貼りついて動かない。


 ジャンプしようとしても、やはり右足はビクともしなかった。


 仕方ないので、足の周りの雪を取り除いてみる。


「ッ!?」


 そこには、透明の水晶があった。


 謎の綺麗なその物体は土の地面から俺の足首まで覆っていて身動きを封じていた。……よく見れば、ジャンバーにも同様の物体が小さく貼りついている。


 触れてみると、ひんやりと冷たかった。


「もしかしてこれ、氷……ぃ、うッ!?」


 正体に気づいた直後、体が重くなった。


 見れば、体に貼りついた氷が規模を増している。それは雪が当たるたびに影響を受けて……。


 つまり、雪の弾丸が原因だ。


 な、何て罠だ! これじゃポーションを持って回復を続けても意味がない!


 だが今さら嘆いても、何も変わらない。


 どうする、どうする……!


 とりあえずまだ指は動くので、アイテムポーチを開いてみた。何かこの状況を打開できるような、いや少しでも和らげるアイテムはないかな……?



【空の宝箱】ランク:F

効果

ーー



「こ、これだ!」


 少し前に活躍をしてくれたアイテムに期待を持った俺は、すぐに物体化をさせた。


 ぼすん、と。地面に墜落した宝箱の中に重い体を投げ出し、蓋を閉める。


 視界は色を失い、闇に閉ざされた。


 ただ荒々しい暴風のみが耳に届いてくる。……けど、HPゲージの減少は止まっていた。どうやらこの作戦は成功だったらしい。


 ……でも『大』成功というわけじゃない。HPの減りを防ぐだけで、この状況をどうにかできるわけじゃない。これからどうしようかな……。



 ――ズズズ……。



「ん?」


 何か揺れを感じたような?


 風で宝箱がバランスを崩したのかな。



 ――ズズズズズ……!



 いや違う。


 何か遠くから、何かが向かってきているような。


 ……あれ? 何だか嫌な予感がする。そういや雪山って危険な事態に陥ることがあった気が。

そう、上から下に向かって勢いよく


 ――ズズ、ゴゴォォォォォォォォォォッッ!!


「雪崩だああああああぁッ!!」


 慌てて宝箱の中から抜け出そうと腕を持ち上げて、


 ……蓋はビクともしなかった。


「あ、開かない!?」


 どんなに力を入れても開かなかった。ど、どうして!? 鍵なんてついていないのに……!


 パキ、パキ。


 慌てていると、そんな音が聞こえた。


 方向は前方。蓋の密着部分から……も、もしかして氷が貼りついて……? これじゃ身動きが取れない!


「あああ……」


 何よりも、何も見えないことが怖い。


 力を込めて腕を上げ続けるけど、蓋は動かない。


 音はもうすぐ側まで来てるのに!


「あああーっ!」


 この状態では何もできず、俺はやがて宝箱と仲良く一緒に雪崩に飲み込まれた。


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