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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第四章】白ウサギと愛の楽園と気ままな旅とその裏で
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80.雪国での戦闘

 やがて土の道は、白く塗りつぶされた。


 シャクシャクと歩いていた道はやがて感触を変え、踏みつけると表現しにくい音が放たれる。振り返ると、自分の足跡がくっきりと残っていた。


「はふぅ」


 軽く吐き出した息が真っ白な塊となって目に映る。

 天から降り注ぐ雪がそれを打ち消し、地面に落ちていく。


 先を見ると、おじさんの背中はまだ遠い。


 だからバックパックを背負い直して、俺は駆け出した。雪が酷くなって視界が悪くなる前に、


『――グルォアッ!!』


 一瞬にして、俺の視界は塗り潰された。


 色は銀。触れてもいないのにふさふさとした感じが伝わってくるのは、それが『体毛』だからだろう。



【ホワイトウルフ】【Lv14】



 それが今、目の前を通過したMOBの正体だ。


 色以外は前に対峙したバーサクウルフそのものであり、レベルは遥かに上だけど安心感があった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【スキル】

《ブーメランLv12》《投擲Lv12》《クライミングLv1》《料理Lv1》《調合Lv4》《筋力Lv4》《裁縫Lv14》

【バースト】

《ブーメラン》

Lv5:『ウィンドエッジ』

Lv10:『リフレクト』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今の自分のステータスを思い返してみる。


 ブーメランのスキルは少し劣っているけど、二つくらいの差なら十分にダメージを与えられるはずだ。


『グバォッ!』


 唾液を撒き散らしながら、敵が突進を開始した。


 直線上に突っ込んできたので、横に回避!


 体はいつもより重く足元は非常に悪いけど、これぐらいの動作は大丈夫。問題があるとすれば――


 ――ひゅ〜ん。


 明後日の方向に飛んでいくブーメランだ。


 力強く放る時に踏み込む足の感触が平らじゃない、腰を回すと滑ってバランスを崩す。

 そりゃあ目的の場所に飛んでいくはずがない。


 宙にある雪だけを切り裂いて、武器は戻ってくる。

 キャッチすると、指先がピリピリと冷たい。


『バァウッ!』

「のわあッ!?」


 っと、いけない! 集中しなきゃ!


 迫り来る牙をしゃがんで回避し、ひんやりとしたブーメランで開いた横腹を切り裂く。


 鮮やかな音が放たれ、切っ先がめり込んだ腹部に赤いエフェクトが刻まれていく。


『グ、クゥンッ!』


 切ない叫びを上げ、俺から距離を取るホワイトウルフ。


 けど頭上のHPは二割も削れていない。やっぱりブーメランは投げてぶつけないと。


 でも、足場が悪いから狙いが定まらないし……。


「……ん?」


 悩んでいると、視界の端に変化があった。


 それは遠くに立っていたおじさん。こちらに背を向けた状態で、トントンと指をこめかみに押し当てている。


 一体何を? まるで頭を使えって言ってるような、


「……そうだ、他に何か戦い方があるはず……」


 今まで俺は、意表を突くような戦略を取って戦ってきたことが多い。


 その経験を活かして、何か思いつかないかな……?


 ――身動きが取り辛く、狙いがつけにくい足場。

 ――明後日の方向に飛んでいくブーメラン。

 ――手元に戻ってきても、成果は冷たい感触だけ。


「……戻って、くる?」


 そのワードが何か引っかかった。


 戻ってくる……そう、ブーメランは放った後に必ず持ち主の手元に戻ってくる。確かその間に障害があって届かなかった場合はそのまま地面に落ちてしまうんだっけ……。


 でも今回の武器は鋭利だから、障害が柔らかいものなら切り裂いて戻ってきてくれるかも……


「……あっ!」


 そこで、俺は気づいた。


 だからホワイトウルフに向かって、力強くブーメランを放った。当然ながら敵に当たることはなく、その背中を超えて飛んでいく。


 ホワイトウルフは気にすることなく、俺に向かって突っ込んでくる。


 対して俺は横に飛ぶ――ことはせず、後方に跳んだ。でも先ほどとは違い、直線上に突進してきた勢いから完全に逃れることはできなかった。


「いでっ!」


 腹部に走る鋭い違和感。


 振るわれた牙の先に切り裂かれたからだ。けど、深くはない。HPの減りもそこまで酷くない。


『ググ、ォ、ォ、ガァァ、ァ、!?』


 数秒後のホワイトウルフに比べれば。


 絶叫を上げている理由は、現在進行形で体を斬り裂いているブーメランだ。それは尻尾から突き刺さり、ザクザクと音を立てて俺の元に向かってくる。


 ブーメランは、必ず手元に戻ってくる。


 進行方向にあった障害ホワイトウルフの体は、ブーメランの動きを遮断できるほどの硬さはなかった。HPゲージがゴリゴリと削れていき、やがて頭部を裂き、武器は俺の元に帰ってきた。


 同時に目の前のホワイトウルフが崩れ落ちる。

 そして、ログが二回更新された。



 ――《ブーメラン》Lv UP!


【カチカチミート】ランク:E

効果

①生のままで食べることはできない

②熱を加えることで『水』を入手できる。



 スキルのレベルアップと、ドロップアイテム獲得。


 カチカチミート……硬いのかな? いや水が手に入るってことは凍っているだけなのかな?


 物体化させたいけど、今はそれどころじゃない。早くおじさんを追わないと……!


「……あれ?」


 駆け出そうとした足が、ぴたりと止まる。


 もう遥か先の位置を歩いているだろうおじさんの姿が、先ほど見た時とあまり変わっていないように見えた。

 ……気のせいなの、かな?


 そうボーっと眺めていると、次第におじさんが小さくなっていったので、慌てて俺は追いかけた。





 それからはちらほらと見えるプレイヤーたちのおかげか、MOBに襲われることはなかった。


 変わらず背中を追いかけていくと、今まで遠くに見えた山が近く、その巨大さがよく理解できた。


 見れば側にログハウスが設けられていて、窓の中だけでなく外にもプレイヤーの姿が。


 みんな大きな声を出し合っており、パーティの勧誘をしているようだ。……つまり、あの山はダンジョンなんだろうな。


「――あ、そこの人! 俺たちと組まないか!?」


 だからか、あっという間におじさんはプレイヤーたちによって囲まれた。


 確かに、只者じゃない風貌だもんね。


 けどおじさんはそれらに対して首を横に振るうと、集団をかき分け、一人でダンジョンに向かっていく。

 入り口直前で止まり、挑戦人数の操作を行って、


 ちらり、と。


 後ろを振り返った。


 何かやり残したことがあるのか……などと考えていると、おじさんの瞳があるものを捉えた。


 俺の瞳を。



 ――お前にクリアできるか?



 最後にそんな色を宿した笑みを浮かべると、おじさんはこちらに背を向ける。


 そして、山の中に消えていった。


 しばらくして、何気なく空を見上げてみる。


 白い塊が浮遊する上空は、まだ明るい時刻だというのに薄暗く、山の頂上を覆っていた。遮られた場所まででも十分に高いというのに、あの先にまだ高さが追加されるとなれば心が折れそうだ……。


 ……でも、

 でも、不思議とワクワクしている自分がいた。


 クリアできる、という根拠も自身もないのに、ソロで挑んでみたいという気持ちがあった。


 周囲のざわつきを気にせず、前に進んでいく。


「ぉふ」


 やがて、透明な壁にぶつかった。


 視界にウィンドウが表示されたことから、山から数メートル離れたこの位置がダンジョンの入り口らしい。


 くすくすという笑い声に恥ずかしくなりながらも画面を操作して、ソロで挑むことに同意する。


 すると透明の壁が消え……たのかな? 試しに触れてみるとそこに壁はなかった。よし、行こう!


 バックパックを背負い直し、俺は地を蹴った。


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