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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第四章】白ウサギと愛の楽園と気ままな旅とその裏で
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79.白ウサギと気ままな旅

 少し前に通った入り口を通過し、モーターボートは俺を娯楽都市に運んでいく。


 やがて加速を抑え、桟橋に停まってくれる。


「ありがとう」


 役目を終えたモーターボートのモニターをタップし、桟橋に降りる。すると船は独りでに動き始め、来た道を引き返していった。


 ……ひこぼしさん、大丈夫かな。


 もう何度考えたか分からない心配を抱きながら、騒がしい都市の中に踏み入れる。


 う、うーん……気分が重いためか、最初に来た時と違って興奮しない。ある意味行き場所に困るかも。



 ザッ……。



 そんな時だった。


 目の前を、巨大な何かが通過したのか。


 それはプレイヤーだった。筋骨隆々の大男。こちらから見える顔……目の上に傷があり、他に特徴を上げるとすれば、無精髭。


 中年くらいだろうその人物に、俺は見覚えがあった。


「おじさん……?」


 今まで幾度となく窮地を救ってくれた、頼りになるけど色々と謎に包まれているプレイヤー。


 都市と似つかない原始人のような衣装を身につけたその人物は、のしのしと歩いていく。


 視線で追っていると、おじさんは中央にあるドーム型の建物に向かい、入っていった。


 目的が定まっていなかった俺の足は、自然に動いた。おじさんの歩いた道を追って進んでいく。


 中に入ると、そこは巨大な芝のフィールドが広がっていた。それを囲むようにして階段作りの席が広がっている。


 外装だけじゃなく内装も東京ドームのようだった。


 まさかスポーツが行われたりするのかな……?


「あ」


 すると、ステージを隔てた先の真正面におじさんの姿を見つけた。


 ここからだと遠く、大柄なおじさんが小さく見えるほどだ。……それにしても足が速いな。いつの間にあんな場所まで……。


 手を振ってみるが、同じタイミングで背を向けられてしまう。そのまま歩き始めたので、俺は急いで駆け出した。


 外に出ると、おじさんの背中が遠くに見えた。プレイヤーの数は多いけど、背が高いため見失うことはなさそうだ。


 そのまま追いかけ追いかけて、


 おじさんは門を抜け、フィールドに出ていった。


 まだあまり観光していない都市に少し未練を覚えながらも、俺はおじさんを追うことに決めた。



 ――『三種の大地』。



 そう名づけられた先のフィールドは、草地だった。


 少し前までずっと海に隣接していたため、何だか新鮮というか懐かしい感じがする。


 辺りを見渡しながら整えられた道を歩いていくと、通路が三つに分かれていた。


 北、西、東に道は伸びていて、それぞれの入り口に看板が設けられている。


 ……そういやカズさんが、ここから東側にある街にギルドがあるって言ってたっけ。

思い返しながら前を見ると、おじさんは『北』の方角に向かっていた。看板で確認してみると、そっちは極寒大陸と書かれていた。


 さ、寒いのかぁ……まあリアルは真夏だから、ある意味ちょうどいいかもしれない。


 カジさんとシェリーさんのギルドも気になるけど、今はおじさんを追いかけよう。この前助けてもらったお礼もまだだしね。


 そう決め、真ん中の道に足を踏み入れる。


 途中、シカやウマのようなMOBがちらほら道の端に見えたけど、おじさんから逃げるように離れていき、こちらに近寄ってこようとはしなかった。


 そういや、ステータスに差があり過ぎるとMOBは攻めてこないんだっけ。それほどにおじさんは強くなっているみたいだ。


「……ん」


 ここで、ぶるっ、と。何か寒気を覚えた。


 それは変態が近くにいたからなどではなく、気候が原因だった。加えて気がつけば、遠くに山が見え始めていた。


 もしかして、あの場所に向かっているのかな?


 そう考えていると、前方に休憩所を見つけた。


 木の柵に囲まれたその場所には中央に巨大なテントが一つ建てられているだけで、他に目ぼしいものは見当たらなかった。


 とりあえず入ってみると、広い内装の端にカウンターが三つ並べられていた。恐らく武具店と道具屋だろう。


 他にはテーブルや椅子が並べられていて、プレイヤーたちがくつろげる空間が作り上げられていた。


 見れば、集まったプレイヤーたちは厚着を身につけていた。俺みたいな薄着はどこにも見当たらない。


 ……おじさんを除いて。


「ねね、そこのお兄さん! ……お兄さーん!」

「あ、えっ!? 俺のことですか?」


 どうやら話しかけられていたようだ。


 いやあ男として見られることがあまりないから、つい自分以外の誰かかと思っちゃった。……悲しい。


 声の方向を見ると、そこには厚いコートを着込んだ少女……NPCの姿があった。


「お兄さん、この場所に来たのは初めてでしょ?」


 よく見れば彼女は、俺より少し年下に見えた。


「うん」

「そっか、じゃあこれあげる!」


 目の前に物体が出現したのは、頷いた直後だった。


 慌てて手に取ったそれは、登山時に使用されるような厚いジャケットとパンツだった。色はオレンジ。



【防寒用ジャケット】ランク:F

効果

①低温によるダメージを防ぐことができる。

②防御力は下に着込んだ衣服によって変動する。※鎧は下に身につけることはできない。



「この先はすごーく寒いから防寒対策をしてないとHPが減っていっちゃうの。だからこれを使って?」

「あ、ありがとう!」


 お礼を言い、早速着替えてみる。


 ……うん、今までと比べると重い感じがするけど、特に問題はなさそうだ。


「似合ってる!」


 パァッ、と。明るい笑顔を少女は見せた。

 ち、ちょっと照れくさいな。


「防具はもちろんだけど、防寒対策にはアクセサリーとか料理とか、まだまだたくさんあるの。今手渡した装備だけでも十分に進めるけど、場所によっては効果を加算しなきゃいけないところもあるし、たっくさん揃えておいた方がいいよ。だから――」


 そこまで言うと、少女は駆け出した。


 近くに置かれていた道具屋の側で足を止め、


「――うちのお店で、準備を整えていってね!」


 最後にカウンターの中年NPCがニコリと笑顔。


 ……これはズルい、店に行くしか選択肢がないよ。


 店主に話しかけると、回復アイテムやその素材、防寒効果のある食材がたくさん並べられていた。


 こう見ると、この先の難易度が厳しい、ということが分かる。俺のスキルレベルや武具はフィールドのレベルに劣ってはいないと思うけど、上だとも言えない。


 ソロで挑むとなると……やっぱり難しいよなぁ。


 ザッ、ザッ。


 悩んでいると、遠くの影が動き始めた。


 目を向けてみると、俺と同じ防寒着を身につけたおじさんが、テントの出口に歩いていく姿が。


「あっ、とと……!」


 俺は慌てながらもできるだけ回復アイテムと料理の素材をいくつか購入し、背中を追いかけ始める。

 来た道とは反対側の木の柵を越えて――



 ――シャクっ。



 そこで、不思議と足に心地良い感触が伝わった。


 視線を落とすと、土の地面が凍っていた。


 それに露出した顔面に冷ややかな風が入ってきて、


「はぅっ」


 ぴとり、と。一際冷たいものが頬に当たった。


 それはすぐ水に変わり、降下していく。


 ……これは間違いない。


 そう思い見上げると、空からゆっくりと降り注ぐものが。柔らかくて白いその正体は、


「雪だ……!」


 き、季節感……崩れちゃうなぁ。

次回の更新ですが諸事情のため少し遅れます。

ご勝手ながら大変申し訳ございません!

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