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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第四章】白ウサギと愛の楽園と気ままな旅とその裏で
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75.ベンチの下で

 果てしなく続く赤いカーペット。

 俺は今、その上を全力で駆け抜けていた。


「待ちやがれえええええええッ!!」


 背中に複数の足音と激しい怒号を受けながら。


 ……どうしてこうなったんだっけ?


 走りながら、数分前の出来事を思い返してみる。



 そう、オカマ怪物さんから距離を置いた後のこと。


 俺は笑顔に囲まれながら、次の遊びを始めた。


 プレイヤーさんたちに『頼む』と多大なコインを手渡され、ルールを教えてもらった通りに挑み、



 ……見事に、全敗した。



「「金返せーッ!!」」

「さ、さっきどんな結果でも怒らないって!」

「「それは順番が他人の時だけだ!」」

「人でなしーっ!」


 叫びながらコーナーを曲がり、見つけた扉に入る。


 先の景色は小さな一室。


 そこにもまた、娯楽用品が設けられていた。


 俺はそれらに目もくれず、ベランダに飛び出す。そこはプレイヤーたちの憩い場になっているようで、中々に広く飲食店やベンチなどが見られた。


 とにかく時間がない俺は端に設けられていたベンチに目をつけ、駆けていく。


 部屋にプレイヤーたちが入ってきたと同時にスライディング。視界から消え去ると同時に、ベンチの下に潜り込む!


「ぶ、ほぎゅッ!?」


 あれ? 足先に柔らかい感触。

 変な声も聞こえたような。


「何すんのよアンタぁ!」

「おわあッ!?」


 べ、ベンチの下から顔が出てきたあッ!


 顔面にくっきりと俺のブーツの跡をつけて登場したのは、同い年くらいの少女だった。


 桃色の長い髪を左右で纏め、ツインテールを作った彼女は、ギロリとしばらく俺を睨みつけていたが、


「!」


 やがて、二つの目を見開いて、


「……かわぃぃ……」


 ダラダラと空いた口から唾液をこぼし始めた。


「わあっ!?」

「い、いや。何揺れ動いてんのよ! あたしにはサユリ様っていう心に決めた人がいるんだから……! いや、でも可愛いい……そ、そうだ。愛人枠ってことなら……」


 何か呻くように呟き、ツインテールを強く握って苦しむような表情を見せる少女。何かデジャヴを感じるのは気のせいかな。


 これはアレだ、触れちゃいけないタイプの人だ。


 どこか別の場所に――いや、時間がない!


「入って!」


 急に表情を戻した少女が俺の襟を掴んだ。


 強制的にベンチの下に引きずり込まれ、同時に大量のプレイヤーがベランダになだれ込んでくる。


「追い詰めた……って、あれ?」

「何だぁ!? どこにもいねえじゃんか!」

「そこらへんに隠れてんだろ! 探せ!」


 散らばり、辺りの確認を始めるプレイヤーたち。


 ま、マズい……このままじゃ見つかるのは時間の問題だ。何か手を……ここじゃ身動きが取れない。


「――はぁログアウトはぁ」


 背中から、荒い息とともに声がかかる。


「え?」

「追われているんでしょ? はぁ、だったらログアウトしたらいいわ。はぁはぁ」

「で、でも外でログアウトしたら次にログインした時、街の入り口からスタートになっちゃうよ?」


 このゲームでは宿屋以外の場所でゲームを終了した場合、自動的に街の入り口からリスタートになる。


 つまり、待ち伏せされたらおしまいだ……。


 ちなみにフィールドで終了した場合は、最後に訪れた街の入り口前に戻されてしまう……い、いや考えている時間はない!


「でぇじょぶ、でぇじょぶ」


 何で訛ったの?


「これ……あげるぅん、からぁ……」


 急に表示されるウィンドウ。

 それは、トレードの画面だった。



【帰郷の羽】ランク:S

効果

次の場合、記憶した地点からリスタートができる。

①ログアウトをした際。

②HPがゼロになった際。



 ら、ランクS!?


 表示されたアイテムに、思わず叫びそうになった口を噤む。


 そ、それにしても始めて見たなぁ……。


 効果は、瞬間移動できる、か。確かにこの世界は広いし、あったら凄く便利だ。ランクSも頷ける。


 でもこんな高価なものを……。


「でぇじょぶ。これはランクは高いけ、どぉ……誰でも複数ゲットでき、るアイテムだからぁん……」


 なるほど、レア度は高いけど高価ではないのか。

 それも複数。俺もいつかゲットできるのかな。



「――ん、そのベンチ誰か調べたか?」



 びくり、と。体を震わせるしかなかった。


 声がすぐ側から聞こえる……つまり対象は、俺たちが隠れている場所で間違いない。


 もう躊躇している時間はない!


 俺はトレードを同意させるとすぐにアイテムポーチを開き、帰郷の羽を見つけるとタップ。


 登録しますか? という問いに『YES』マークを選び、間髪入れずメニュー画面に戻す。そしてログアウトのマークをタップ。


 ザッ、ザッ、と。足音が迫ってくる。


 少々お待ちください、といういつもは短く感じる手続きの時間が妙に長く感じる……早く、早く!


 だが、不幸にも足音が直前で止まった。


 目と鼻の先に迫った脚が曲がっていき、上体が段々と降下していく。やがて顎が見え、



 そこで、視界がブラックアウトされた。



 意識を取り戻し目を開けると、部屋の天井が目に入った。


 ……よかった、ギリギリセーフ。


「うへぇ、汗ぐっしょり」


 室内は涼しくしていたのに、びしょ濡れだった。

 それほどに危機を感じていたみたい。


「シャワー浴びよ……」


 VRマシンを外して、ベッドから立ち上がる。

 後は着替えを用意……


「……あ、そういえばさっきの子……」


 頭がハッキリしてくると、疑問が浮かんできた。


 色々と忙しかったから今まで気にしていなかったけど……何であの子はベンチの下にいたんだろう?


 まさか、俺と同じようなことを仕出かしたのかな。


「……うん、きっとそうだよね」


 そう納得して、準備を整える。


 だって、まさか自分から好んでベンチの下に潜む人なんていないもんね。そんなことはあり得ない。


 それはそれとして、次に会った時にちゃんとお礼をしなきゃ。


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