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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第四章】白ウサギと愛の楽園と気ままな旅とその裏で
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73.一枚のコイン

 扉を超えた先は、エントランスに比べると遥かに広い一室だった。

 その中に施設がそれぞれ固まって配置されている。


 見渡せば、ディーラーNPCが挑戦するプレイヤーにトランプを配っていたりルーレットを回していたりなどしていて……何だか難しそうだなぁ。


『わああっ! 大当たりぃぃッ!!』


 中では、そんな喜びの声が上がったり、


『ぢ、ぐ、じょ、ォ、ォ、ォ』


 絶望を感じさせる声も多くあった。


 そして、俺が探している人物といえば、


「――」


 間違いなく後者だった。


 ただ違うのは、叫び声を上げていなかったこと。……それほどにショックを受けているのか、白目を向いて放心していた。壁際で。


 そ、それにしても早すぎない? まだ俺この場所に来てから数分も経ってないんだけど……。


 ……さて、それでどうする? 話しかける?


 ここで引けば、スムーズに旅を続けられるはずだ。最近は色々巻き込まれてばっかりだったし、自分から本来の目的から離れるような真似は……


「あの、大丈夫ですか?」


 ……でも、放ってはおけなかった。


「え、あ……ああ、さっきの、ウサギちゃん……」


 白目がこちらを捉える。怖い。


「ふ、ふ……終わったわ……今回で最速記録更新かもね……あれだけ長い時間かけて貯めたお金が一瞬にして消え去ったわ……へへ、わ、笑えねえ……」


 マズい、素の部分が出始めてる。


 これは相当なショックを受けているなぁ。


「残りは、たったこれだけ……」


 言いながら見せつけられたのは、ウィンドウ。


 そこには『1』とコインの残額が刻まれていた。


「…………」


 怪物さんはしばらく無言でコインを見つめていた。


 やがて、静かに指を動かして、


「……あげる」


 俺の視界に、トレード画面が表示された。


 物はもちろん、一枚のコインだ。


「?」

「ウサギちゃん……優しいのね。慰めに来てくれたんでしょ?」


 首を傾げる俺に、白目のまま怪物さんは告げた。


「アタシこんなナリだから、誰も関わろうとはしてくれないの。初対面で『大丈夫?』なんて声をかけてくれたのは、ウサギちゃんで二人目よ。……本来なら女相手に同情なんてされたらドロップキックをお見舞いするところだけど……あなたは特別」


 危なかった。本当に危なかった。


 というか、どっちの性別でも危険なのか……。


「だから……というわりにはショボいお礼だけど、『お試し』にはいいんじゃないかしら?」

「お試し?」

「ウサギちゃん、カジノは初めてなんでしょ?」

「な、何でそれを!? まだ言ってないのに……!」

「あれだけ扉の側で優柔不断な態度を取ってたら誰だって分かるわよ。まぁとりあえず、肩の力を抜いて遊んでみなさいな。……とはいっても、コイン一枚じゃ『スロット』くらいでしか遊べないけどね」

「スロット……」


 確か回して、同じ目を合わせるやつだよね。


 あれなら他の場所とは違って、ルールとか詳しく知らなくてもできるはずだ。


「それじゃ、お言葉に甘えて……」


 俺はありがたく、コイン一枚を受け取った。





 スロットのエリアは、マシンが均等に並べられているだけで、特にディーラーなどはいなかった。


 プレイヤーたちは画面とにらめっこをしながらコインを投入し、レバーを引くを繰り返すだけ。ディーラーが盛り上げてドッと沸く周囲のエリアとは違って、静かな印象だった。


 とりあえず、空いてる席に座ってみる。


「ええと、まずは……」


 マシンに備えられたコインの投入口に触れてみる。


 するとウィンドウが表示されたので、指示通りに残額ーーコイン一枚を選択、投入する。


 ガシャコン、と。不思議と心地いい音を響かせ、マシンが明るい光と曲を放ち始めた。


 続いてレバーを引いてみると、前方の画面に映る縦表示のバー三本が凄まじい速さで回転。


 一定時間ごとに左から順に動きが止まり、結果が表示される。……うん確かに、ちょっと盛り上がりに欠けるかな。作業はレバーを引くだけだし……。



 タラタッタラ〜。



 唐突に、何やら愉快な曲が放たれる。


 見れば横並びに三つ、全ての絵が揃っていた。


 モチーフはまだゲームを始めて間もない頃に出会ったMOBの『フワリン』だった。……この可愛らしい見た目に騙されたっけ、懐かしいな。


 そう思い返していると、コイン残高が変化を見せた。



『1』→『3』



 おお、三枚に増えた。ちょっと嬉しい。


 よしもう一回やってみよう。……ん、よく見たらコインを複数枚入れることもできるみたいだ。


「それじゃせっかくだし、二枚」


 投入し、再びレバーを引いてみる。


 結果はまた、三体のフワリンだった。



『3』→『7』



 あれ? ちょっと増え方が変わった。


 ええとコインを一枚賭けて三枚になって……二枚賭けたら残数の一枚が七枚に変化したってことは、六枚が加わったわけで……。


「『×3』されてるってこと、かな」


 つまり、賭ける枚数が多いほど良いってわけだ!


 確認したところ、上限は三枚までみたい。


 よし、なら今度は三枚入れてみよう!


 ワクワクしながらコインを投入し、レバーを引く。


 そして、バーは動きを止めた。


 ……でも、先ほどまでの音楽は奏でられなかった。


 絵が揃わなかったから、というわけじゃない。揃ってはいるんだ。ただ、フワリンじゃないだけで。



 ――【BIG】



 それは、アルファベットが刻まれた不思議な絵だった。


 ビッグ……大きい、ってことだよね?



 ガシャン!



 悩んでいると、自動的に再び回り出す三本のバー。


 え、えーと……?


「おお、『倍化』が当たったんだな」


 ニュッと、隣の席から首が伸びてきた。


 こちらの画面を覗き込んできたのは、男性のプレイヤー。


「倍化?」

「名前の通りさ、次に絵柄が揃えばもらえるコインの枚数が倍になるんだ。当たれば、だけどな」


 そう伝えてくると、自分の台に向き直った。


 ……当たれば、か。


 そういやまだ一度も外れてないんだっけ。確率的にそろそろ外れても可笑しくないよね。

若干諦めながら俺もまた、画面に向き直る。



【7】【7】【7】



「?」


 あれ、今度は絵……というよりは数字だ。


 そういやラッキーセブンとか言うけど、



タラタラっ、タッタタ――ッッ!!



「ひゃォッ!?」


 急に放たれた激しい音に、飛び上がってしまう。


 周りも俺と同じような反応だった。



『7』→『607』



「ええッ! すっごい増えてるッ!?」


 確認してみるとラッキーセブンは中でも一番高いらしく、揃えば『×100』もされるらしい。


 コイン三枚を賭けて三百。その倍だから六百か。


 う、うーん……何だか急に増えすぎたせいで金銭感覚が可笑しくなりそうだ……。


「うおお! もってんなぁ嬢ちゃん!」


 隣の男性プレイヤーさんが興奮した様子で再び覗き込んでくる。


 ……それと、激しい音がまだ鳴り止まない。ああマズい、これだけ大きな音を発し続けたら……!


「何だなんだ、何の騒ぎだ?」

「この音楽聞き覚えあるわ……誰か良い思いしてるのね!」

「しゃあ! 人の幸せを邪魔しにいこうぜ!」


 うわあいっぱい来た!それも嫌な性格の人ばっか!


 気づけば静寂に包まれていたスロットエリアは、人で溢れかえっていた。

 し、視線が集まる息が詰まるー!


「嬢ちゃん、画面見てみな」


 画面?


 お隣さんの指示に疑問を抱きながら向き直る。


 そこにはスロットマシンと、


 「うおっ、まぶしぃ」


 光り輝く画面。


「『ボーナス』さ」

「ボーナス?」

「おう。……ま、俺も見るのは初めてだけどな。倍化の次に確率の一番低い『7』を三つ揃える、なんて無茶苦茶な条件を出されたらよ。まぁ現に嬢ちゃんはやりやがったわけだが……っと悪い、内容だったな。確か一定の回数までずっと倍化の状態が続く、って聞いたぜ。つまり、大儲けのチャンスってことよ」

「なるほど……」


 納得して、輝く画面に向き直る。


 よし、なら今のうちにいっぱい稼いじゃおう!


 そう決意し、レバーに触れる『ウオオオオ!!』って凄い歓声!? びっくりした拍子に引いちゃった!


 これは運頼みのゲームだけど……何となく、祈りを込めてから回したかったな。


 何だか当たる気がしなくなってきた……。



【BIG】【BIG】【BIG】



 さらに巨大な歓声が巻き起こる。


 え、えーと? また倍化が揃っちゃった。ってことは、倍の倍で……いいや、回しちゃえ!


 歓声を背中に、レバーを引く。


 そういやフワリンや『7』以外にもたくさんの絵柄がある。例えばそう、



【7】【7】【7】



 絶叫がカジノ全体を支配した。


お読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、この作品とは他に1作品を投稿してみました!

本日中に完結予定なので、お暇な時にでも見てやってください!

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