72.始まりは別れと出会いから
遅れて申し訳ございません!
本日から第四章開始となります!
空を石の天井が覆ってから、数秒後のこと。
俺たちを乗せた客船は、先に見える光に入り込んだ。
急な眩しさに思わず瞳を細めながら新たな景色を見て、
「……わ、はあっ!」
すぐに俺は、興奮でその目を大きく開いた。
表現するならば、遊園地……かな? 全体が煌びやかな色で構築されていて、真ん中にある建物を囲むようにして、豪華さを感じさせる建物が配置されていた。
【GUILD】――ギルド。
【CASINO】――カジノ。
中でも目を見張るのは、その二つ。
そして中央に立つ、ドーム状の建物。……あれは何だろう? 縦にも横にも巨大だけど、周りと違ってあまり豪華さはない。
何だか東京ドームを連想させるかのような? そんな感じ。
「はは、はしゃいでんなぁ。気持ちは分かるけどよ」
側に立っていたカズさんが俺の頭をぽんぽん叩きながら笑う。
……背後から冷気を感じるのは気のせいだよね?
「俺たちはあんまりこの街で過ごしたことはないからよ。ギルドとカジノぐらいしか説明できねえけど……」
お、ちょうど気になってた施設だ。
「まず【GUILD】。あそこはギルドの本部。ギルドの作成手続きはあそこで済ませるんだ。まぁ旅を目的としてるお前には関係ない場所だな」
そしてもう一つ、とカズさんは指を立てて、
「【CAZINO】。あそこは面白いぞ。ゴルドをコインに変えて、色んな賭け事に挑戦できるんだ。貯めれば景品と交換できるしな。……まぁハマり過ぎには気をつけろよ? それが原因で破産したやつとかいるらしいし……」
「き、気をつけます」
そ、それは怖い。……でも、ちょっと楽しそうだ。
せっかくだし遊んでみようかな。
「そういえば、ウサギは幸運をもたらすと言います。もしかしたら海賊船もそれが影響で出現したのかもしれませんね。ウサギさん、カジノで一儲けできるかも?」
後ろに立っていたシェリーさんがそう告げてくる。
幸運、か。うーん、あんまりそういう出来事はないけどなぁ……。
「そりゃ期待できるな。豪華な景品ゲットしたら連絡してくれよ……っと、もう着くみたいだぜ」
直後、ブ〜、と合図が響く。
船は速度を落とし、そして止まった。
俺たちは船から降りると、桟橋を渡って都市に足を踏み入れた。規模は今までの都市に比べると遥かに小さいけど、楽しそうなプレイヤーたちの声がたくさん聞こえてきた。
それがさらに、ワクワク感を高めてくれる。
「……そんじゃゼン、ここでお別れだな」
「あ、そっか……」
二人は自分たちのギルドに戻るんだっけ。
「短い間でしたが楽しかったです。ありがとう」
「いえ、こちらこそです!」
「俺たちのギルド、この街から東の方向にある都市にあるからよ。いつでも遊びに来な、大歓迎してやるぜ」
「楽しみだなぁ」
本当に、さっきから楽しみが尽きない。
イベントが多かったウォーデルを去って、少し落ち着けると思ったけど……終わらないなぁ。
改めて、このゲームは凄いな、としみじみ思う。
「そんじゃまたな、ゼン」
「今度はゆっくりお話しましょうね」
「はーい!」
手を振りながら、二人は俺から離れていく。
姿が見えなくなるまで見送ってから、俺は歩き出す。
気になる場所が多くて迷ってしまいそうなので、とりあえず近くにある建物から見て回ろう。
そうなると……まずはカジノだ。
コインが積み上げられたような形をした柱を抜け、金ピカな大扉に手を触れる。
押して開くと、眩い光が光が襲いかかってきた。
「うっ……?」
それが眩しかったため、思わず目を背けてしまう。
続いて、愉快なBGMが耳に入り込んできた。
そのおかげで驚愕が剥がれ、閉じていた瞳を開くことができた。
床に真っ直ぐ敷かれた、レッドカーペット。
それは前方にある大扉まで伸びていた。俺から見て左側と右側にはそれぞれカウンターが設けられていて、バニー衣装の女性NPCが接客をしている。
「カジノだ……」
口から、そのままの言葉がこぼれ出た。
何だかどう反応していいか分からなかった。まだこういう場所とは縁がない身だし……。
「いらっしゃいませぇ〜♪」
「あ、う、はいっ!」
挨拶してきたバニーNPCに、緊張してしまう。
な、何だろう……妙に大人っぽさを感じる場所だ。
「また後でにしようかな……」
一人だと、ちょっと居辛い。
カイトやナギとまた一緒に来よう。そうしよう。
そう考えに至り、振り返る。
「ぶッ」
そして鉄のように硬い何かに顔を強打させた。
「あらぁ、大丈夫?」
弾け飛んで尻もちをついた俺に、大きな手のひらが差し伸べられる。
見上げると、そこには美しく妖艶なピンク色のドレスに身を包んだ、
――大男が立っていた。
「」
「ほら、どうしたのボーっとしちゃって」
ぐい、と。強引に立ち上がらせられる。
あ、よく見たら凄い厚化粧……。
まるで怪物……いやそれは失礼だろう。……そう、スプラッターゲームに出てくるような敵みたいだ。
「これでよし、と。……ってかアンタ、凄い可愛いわねぇ。これで男だったらドストライクなのに……残念」
よかった、ここが現実じゃなくて。
「じゃあね、ウサギちゃん」
立ち尽くす俺を残して、全身を筋肉で包み込んだ女装プレイヤーさんは大きな足取りでカウンターに向かった後、奥にある扉の中へ消えていった。
……い、一体何者だったんだろう……。
「おい見ろよ、また『カモ』が来やがったぜ」
不意に、周りにいるプレイヤーの声が聞こえた。
カモ……鴨? というよりはゴリラじゃ?
「ああ、あれだろ? 何も考えずに大量のコインを賭けて負けるを繰り返すの学ばねえ脳筋」
「そうそう、ホンっト見た目通りだよな〜」
「何でも欲しい景品があるとか聞いたけど……ありゃあいつまで経っても無理だな。金の無駄だぜ」
う、うーん散々な言われようだ。
でも確かに、悪いけど賢そうには見えなかった。
「心配だな……」
気づけば、体の中にあった緊張は消えていた。
俺は向かう先を、カジノの中に変えた。
「見に行くだけ……」
今までの経験から、さっきの人と関われば面倒くさいことに巻き込まれると、なんとなく理解できた。
……だとしても、見捨てておけなかった。
自分にできることなんてないけど、それでも。
「ちょっと見に行くだけだから……」
呟きながらカーペットを真っ直ぐに歩いて、
そして俺は、扉を開け放った。
「……そういやさ、あのオカマって『あの』……」
「……ああ、『あの』な。やべーギルドの……」




