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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
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7.初めての料理

 ブーメランのスキルレベルが3になった。


 でも、そのことに気づいたのはかなり後のことだった。


 理由は、欲望に忠実に、ただひたすらファングボアを狩り続けていたからだ。


 結果、計四つの【ファングボアの肉】を入手することができたけど……欲って怖いなぁ。


 ……さて。俺は今、始まりの大地の中間地点である『緑の休息場』にいる。


 木の柵に囲まれた小さな土地であり、整えられた一本の道の脇に四つのテントが配置されていた。


 それぞれ『武器屋』、『防具屋』、『道具屋』、『宿屋』と施設になっている。……けど、無一文の俺にはどれも利用できない。


「よい、しょ……っと」


 俺は休息場と隣り合わせにぽっこりと立つ、高台の上に登っていた。景色の良い場所で食事をしたいと考えていたからだ。


 さすがにプレイヤーたちは先を目指すのが目的なようで、この場所など気にも留めていなかった。


 これはラッキーだ。誰にも気兼ねなく、伸び伸びとできる。



 ――スキル《クライミング》を取得しました。



 頂上までたどり着くと、そんなスキルが手に入った。


 嬉しい! ……のかな。まだ必要性が分からないけど。


「……わぁ……!」


 そんな考えは、全て吹き飛んでしまった。


 理由は、目の前に広がる景色。


 どうやら緑の休息場の先のフィールドも、始まりの大地同様に平面な草原が広がっているため、かなり遠くまで見渡すことができる。


 見れば、ここからだとかなり小さいけど……巨大な壁が確認できた。その後ろから建物の屋根らしき物体が幾つか飛び出している。


 つまり、あれが次の都市なのだろう。

 海斗は昨日、あそこにたどり着いたんだ。


 一体どんな街なんだろう? と心を踊らせながら、俺は初期調理キットを物体化させた。


 地面に出現したのは黒いフライパンと携帯コンロ、あとは包丁やまな板など。若干、世界観と異なる道具もあるけど……細かいことは気にしないでおこう。


 早速【ファングボアの肉】を取り出し、一口サイズにスライス。そしてコンロの火をつける。


「……あっ」


 そこで俺は、重大なことに気づいた。


 ……油がない。


 というか、油なんて売っているのかな。それ以前に財布の中が空っぽだから買えないんだけど……うぅ、せっかくここまで来たのに!


「――諦めるなッ!」


 急な大声に、思わず飛び上がってしまう。


「うわっ!?」


 反射的に振り返ると、そこには大柄な男が立っていた。右目の傷と無精髭。それは間違いなく、昨日アドバイスをくれたプレイヤーだ。


 ……い、いつからそこに!?


「こいつを使いな!」


 そう言い、何やら太いボトルを投げてきた。


「ごふッ!?」


 腹部に激突した重い物体には、黄色い液体が入っていた。軽く指で突いてみると、それが『油』だという説明が目の前に出現した。


「えっ……そ、そんな悪いですよ!」

「ふっ、そいつがお前さんに使って欲しそうな顔をしていたから願いを叶えてやっただけさ。嬢ちゃんが気にすることは何もないぜ」

「え、えーと?」

「つべこべ考えずとにかく作れガキィ!」

「ええっ!?」


 もう何なんだこの人ー!


 ……まぁでも、アドバイスをくれたり無償でアイテムを貸してくれたりするんだから、良い人なんだとは思うんだけど……。


 とりあえず従わないと怖いので、俺は涙目で料理を再開する。


 受け取った油をフライパンに敷き、よく馴染ませてからファングボアの肉を投入する。


「……ええっと、確か料理にはレシピがあって、一つでも材料や手順を間違えると、失敗作になっちゃうんだよね。あとスキルレベルが足りてないと強制的に失敗扱いになるからそこは注意しなきゃダメ。それと調味料はあまり結果に影響はしないけど、完成品の味に影響が出るから分量に気をつけないと……」


 手順を間違いないよう、ブツブツと取り扱い説明書の内容を呟きながら実行に移る。


 ……と、そうだ調味料。味付けもしなきゃだ。


「コイツらも使ってくれってよ!」


 続いて投げつけてきたのは、『生姜』、『砂糖』、『醤油』。……何でこんな物を持っているんだろう。見た目とは裏腹に料理好きだったりするのかな。


 ……でも、ありがたい。


 さて、この三種類の調味料から作るとしたら、あの料理かな。


「あ、ありがとうございます」


 お礼を告げ、まずは受け取った『生姜』を摩り下ろす。そこに同じく入手した『砂糖』や『醤油』を加え、タレを作り上げる。これまたファンタジー世界っぽくない材料があるけど、そこらへんは気にしないでおこう。


 その後は、肉の両面を焼いていく。


 やがて肉全体に火が通ったところで、最初に用意したタレを入れ、全体に絡める。


 ジュージューという音に、ふわっと鼻をかすめる生姜の香りが胃に刺激を与え出す。……くぅっ、早く食べたい!



 ――スキル《料理》を取得しました。



 その更新されたログは、料理が完成した証だった。


「……よし」


 俺は、出来上がった料理を調理キットに付属されていた紙皿に運ぶ。


 湯気立つ肉をジッと見つめてみると、一つ小さなウィンドウが出現した。



【質素な生姜焼き】ランク:F

効果

HPを20%回復する。



「……質素……」

「まぁ、そう肩を落とすな。人間誰しも最初から上手くはいかないモンだ。……俺も若い頃はそうだった。何度も挫折を繰り返して、今の地位を手に入れたのさ……」


 な、なんか自分語りを始めちゃったよこの人!


 長くなりそうだし、何とか流れを変えられないかな……そうだ!


「あ、あの……どうぞ!」

「あれはまだ俺が二足歩行で――む?」


 俺が料理を差し出すと、男は口を止めた。

 そして額に眉を寄せ、疑問そうに尋ねてくる。


「こいつを……俺に?」

「はい。おじさんがいなかったらこの料理は作れなかったですし……ご飯は一緒に食べた方が美味しいですよ」

「ふむ、一理あるな。……ふっ、嬢ちゃん良い女だな。きっと幸せな未来を掴めるぜ」

「……あの、俺は男なんですけど」

「冗談も上手いときた。将来は大物か?」


 がはは、と高らかに笑うおじさん。


 ……これは信じてないなぁ。


「あ、温かいうちに食べましょう!」

「そうだな。ありがたく喰らい尽くしてやろう」


 予め二枚スライスして料理をしていたので、もう片方の【質素な生姜焼き】を手に取る。


「「いただきまーす」」


 俺たちは、料理を口に運んだ。


「「……ッ!」」


 直後、俺たちは驚愕で目を見開いた。


「うまー!」

「コイツは……驚いた」


 その料理の美味しさによって。


 柔らかい歯応えに、甘さとたまに来るピリッとした辛味のタレが舌を喜ばせる。……ううっ、白飯が欲しいっ!


 んー、それにしてもこれがランクFなのか……これは料理を極めたくなる。もっと高いランクの物を食べてみたいと、そう思ってしまう。


「……なぁ嬢ちゃん」

「はい。もう一枚焼きますね」

「ふっ……きっと良い嫁になれるぜ」


 ……うーん、素直に喜べないなぁ。


 複雑な気分に陥りながら、再び料理を完成させる。次に、どうすれば男と信じてくれるんだろうか、と悩みながら料理を口に運び、


「うま!」


 もう、どうでも良くなった。



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